七話「魔法学園の体育祭が始まりました」⑯
「ふむ、やはりマリア様ですな」
「わふう」
「貴方もよく分かりませんが何故得意げになっているのでしょう?」
「こっちの話じゃて」
そしてもう一人心ほだされた者がいた……そう、ロゼッタである。
料理一つで人の心を動かし団結させる手腕を目の前で見せつけられたからだ。
しかもそれは熟達された手練手管とはほど遠い「打算抜き」の行動だから驚きだ。
料理好きが美食家ではなく真の意味での「おもてなし好き」と気が付いた彼女は目からウロコだったのだろう。
「会長?」
惚ける彼女に呼びかけるサリー。
ロゼッタは「いや、ダメだねぇ」と自嘲気味に笑っていた。
「まったく、オイラはどうも政治ってヤツに染まりすぎていたみてぇだ」
言葉の意図を理解できたサリー。
彼女もまたキバ同様マリアのことを自慢げに話す。
「そこがマリアの良さですから」
「こうやって膝付き合わせて同じお天道様の下で飯を食って語らう……そら、一流シェフも形無しだぁな」
「一本とられたって顔ですね」
「一本とられたというか、当たり前のことを思い出されたというか……」
まだロゼッタが子供だった頃、父や母の膝の上で食卓を囲んでいた時でも思い出したのだろうか……
ロゼッタは年相応の顔つきで目を細めていた。
そして真剣な顔でサリーに耳打ちした。
「改めて生徒会に欲しいぜ、マリア・シャンデラ」
「それは分かりますけど」
未だ諦めない生徒会長に難色を示すサリー。
無理強いはよくない……そんな苦言を呈そうとした彼女の言葉を遮るようにロゼッタは続けた。
「打算を越えたお母さんのような暖かさ……上級だの下級だのこだわりの強い連中にゃ実に効果的なアプローチができるだろうよ。いや、アプローチと言うより目を覚まさせてやれるかも知れねえ。そして何より――」
マリアの武器を力説するロゼッタ。
サリーは呆れ混じりで言葉の続きを当てる。
「気に入ったからでしょう?」
「おうとも、それが一番だな」
ハニカむロゼッタに対しサリーは自虐的に笑う。
「私も生徒会の人間。会長への協力は惜しみませんが……」
「だが、なんだい?」
「私、どーも避けられているんですよね」
「そう言ってくれるねぇ、もし生徒会に入ってくれたらって楽しみもあるんだからよ」
改めてマリアを生徒会に迎えようと決意したロゼッタだった。
一方プリムは先ほどの葛藤など無かったかのように元通り元気になって立ち上がっていた。
「モリタさん! 帰ったら反省会よ! 打倒マリア・シャンデラ! 奪還キバ様!」
「は、ハイ!」
「首を洗って待っていなさいマリア! そして色々洗って待っててねキバ様!」
去っていく二人を見てギンタローは微笑んだ。
「ふむ、一時はどうなることかと思いましたが……うまくいったようですなぁ」
「わふ」
「モフ丸殿の言う通り妙な気配もすっかり消え去ったようですな。しかし……」
「わう?」
「モフ丸殿が放った青白い光……あれはいったい……」
訝し気な顔のギンタロー。
そこにキバが現れた。
「後片づけも手伝わず何をサボっておいででしょうか」
「さ、サボっていたなど心外じゃ! 説明してくだされモフ丸殿!」
「わうふわふう、わっふんふん……ふわっふ」
「ほう、なるほど、よく分かりませんがモフ丸君が大丈夫というのなら信じましょう」
「我の言葉は一切信じずモフ丸殿はなんとなく信じるのか! 扱いが違いすぎじゃろ!」
「とりあえず片づけるまでがお食事です、来た時よりもキレイが基本ですよ。ほらお手伝いしてください」
「……お主」
「はい?」
「ちょっぴりマリア様に似てきたのぉ、小言のところとか」
クワッと目を開くキバ。
そして次の瞬間、嬉しそうに目を細めた。
「そうでしょうか、モフ丸君?」
「わっふ」
「なるほど、光栄ですね」
マリアの及ぼした影響によりどんどんとゲームキャラたちは変わっていく。
そしてそれは、「ワルドナ」というゲームがマリアを中心とした物語になっていく予兆であった。
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