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七話「魔法学園の体育祭が始まりました」⑪



 一方、会場も同じくらい盛り上がっていた……といっても生徒の方ではなく貴族連中の方が、である。競馬観戦をしている熱気に近い、といったら分かりやすいだろうか。


 さながら馬主。


 出場する面々も父兄さんかと言うより傭兵さんかと言った方がしっくりくる顔ぶれ。


 ゴツイ連中の付属品のように華奢な生徒が足をくくられており何とも言えない光景だった。



「二人三脚じゃなかったらバトルロイヤルでも始まりそうな雰囲気ね。さすがに雇い主の子供が怪我するような事は控えるでしょうけど」



 いや雇い主だけでない、別の貴族の子供に怪我を負わせたら普通に大問題……傭兵たちの表情は美術品の運搬に携わる業者のような面持ちと考えればしっくりくる。


 実は考えられての二人三脚なんだなと腑に落ちたマリアだった。


 そんなマリアの足下でいそいそと足をくくっているキバ。


 異様な熱気に包まれた一番の原因は竜族の王子である彼の参加のせいなのだが……当の本人はのほほんとしていた。



「くくれましたよマリア様。御足はきつくないですか?」


「あ、ありがとう」



 悪役令嬢キャラを守るため……とはいえ、マリアにとってどちゃクソなイケメンに密着しての二人三脚は周囲の視線も相まって非常に心臓に悪い状況だった。



(頑張れ長谷川麻里亜、頑張れマリア・シャンデラの心臓! 悪役令嬢ならこのシチュエーションむしろ自慢するでしょう!)



 今まで家事や料理にワガママを言ってきた悪役令嬢キャラを無駄にするものか……もったいない精神でマリアは気丈に振る舞う。


 ただそのよかれと思っていやっている「悪役令嬢ムーブ」が間違っていて、ただの「オカンムーブ」故にキバに慕われているのがなんとも悲しいことだった。


 そこに例のあの人が現れた。



「いい気にならない事ねマリア・シャンデラ」


「プリム先輩? って、え?」



 現れたのはプリム先輩。


 しかしそのペアになっているのは何とも異様な人物でマリアは言葉を飲んだ。



 ――ズン……ズン……



「……フンス」



 巨大な体躯の女性がそこにいた。


 筋骨隆々。


 しかし、しなやかそうな体はで虎を彷彿とさせる。



「あの、このお方は?」


「ウチの使用人のアマゾネスのモリタさんよ」


「ドーモ、モリタです」



 片言ではあるが非常に礼儀正しいモリタさん。しっかりと45度に腰を曲げて挨拶をしてきた。



「マリア・シャンデラです」


「キバと申します」


「ご丁寧に、ドウモ」



 プリムは挨拶せず光のない眼でマリアをじっとりと眺めていた。



「上級貴族……滅するべし……」


「あの?」


「あぁこっちの話よ。それより――」



 妙なことを口走るプリム先輩だったが気を取り直すと勝ち誇ったように胸を張った。



「この勝負、キバ様には申し訳ないけど……ほんっとうにキバ様にだけは申し訳ないけど勝たせてもらうわよマリア・シャンデラ」



「ふむ、しかし申し上げにくいのですが、私とマリア様以上に歩幅が全く合わないと思うのですが大丈夫でしょうか?」


「心配してくださるの!? キバ様!?」


「えーと、まぁ。はい」



 戦略的不備を指摘したつもりのキバだが喜ばれて真顔で生返事を返すしかない。


 終始テンション高めのプリムは「ごめんあそばせ」とらしさ全開でその場を後にした。


 嵐のように去っていったあと呆然とする二人。


 真顔で立ち尽くすキバにマリアはたまらず声をかける。



「キバ様、勝負のことはあまり気にせず……とりあえず完走すれば大丈夫ですので」


「まぁ確かに、旦那様からは勝利してこいとは言われませんでしたので。しかし――」



 キバは少し目を開いて口元を緩めた。



「何でしょうね、沸々とわき上がる何か……失って久しいものが……」


「ふつふつ?」


「あぁ、こちらの話ですよ」



 キバは改めてマリアの方に向き直る、足を括っている状況なので非常に顔が近い。



「マリア様、貴方と一緒にいることはどうやら今の私に必要不可欠のようです」


「はい?」



 素っ頓狂な声を上げるマリア。


 キバは「なんでもありません」とハニカんだように笑った。



「……キバ様のあんな笑顔、始めてみたかも」



 見たことのない表情にマリアは少し惚けてしまった。


 ゲームでも見たことのない綺麗な笑顔。


 それはマリア・シャンデラが序盤の死体役である悪役令嬢という立場を決定的に越えてしまった瞬間なのだが……鈍感なマリアには分かるはずもなかった。



 父兄参加二人三脚――


 しかしズラリとスタートラインに並ぶ面々は実にバラエティ豊かですでに「父兄」という括りなどどこか空のかなたに飛んで行っている状況だった。


 キバやアマゾネスのモリタさんを筆頭に壮年の傭兵に堅気じゃないような風貌の男……等々。


 生徒会長ロゼッタはそれを見て愉しそうに笑っていた。


「いやいや、並んでいる姿だけでおもしろいなぁ。ま、二人三脚だから血を見ることはないだろうが念のために救護班にゃいつでも動けるよう指示しといてくれや」


「注目はやっぱりマリア・キバ様ペアですね」


「もちろんだぜぇ」



 カラカラ笑うロゼッタにサリーは呆れている。


 むしろ血の雨でも降ってほしいと言わんばかりの会長にこめかみを押さえていた。



「まったくもう……あら?」



 その時である。


 妙な雰囲気を感じ取ったのかサリーはチラリとプリム先輩の方に視線を送った。



「上級……滅する……っと、さぁ勝負よマリア・シャンデラ」



 妙な雰囲気を感じ取ったサリーにロゼッタが声をかける。



「どうしたんでぇ? サリーちゃん」


「あ、いえ。気のせいかと」


「さぁ始まるぜぇ、メンツをかけたアホらしい戦いがよぉ」



 テラスに前のめりになって観戦するロゼッタ。


 彼女の前で戦いの口火は切られた。




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 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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