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七話「魔法学園の体育祭が始まりました」⑨

間隔があいてしまい大変申し訳ありませんでした、私生活でかなりバタバタしてしまいました

書籍化、出版まで大急ぎで投稿していこうと思いますのでよろしくお願いいたします

慌てて乱文になっているかもしれませんがちょくちょく訂正していこうと思っております


 開会式が終わると体育祭各種目がどんどんスタートしていく。

 徒競走などお馴染みの種目だけでなく浮遊するブロックを避ける障害物競走など魔法学園らしいファンタジーらしい種目も目白押しでマリアは目を輝かせて参加していた。


「見るのもやるのも楽しいわね、ファンタジーの障害物競走って」


 さながら新種の脱出ゲーム。

 現実世界にあったらアトラクションとしてたちまち大盛況じゃないか? テレビとかでやったら視聴率良さそう――

 なんて益体もないことを考えているマリアにクラスメイトたちが話しかけてくる。


「大健闘だったねマリアさん、上級生相手に」

「でも三位よ。前世なら余裕で一位狙えたんだけどお嬢様の体じゃこれが限度みたい」

「ぜんせ?」

「あ、何でもない」


 興奮してついつい前世のことを口走ってしまうマリア。

 強引に誤魔化そうと目の前で活躍しているサリーについて話題を振る。


「それにしてもサリーすごいじゃない。障害物競走一位よ一位」

「勉強もできて運動もできて生徒会……やっぱりすごいですねサリー」


 一位の旗を持って並んでいる彼女を見てマリアはうんうん頷いている。


「こうやって同学年でさすがスタッフに愛された万能キャラ、華がハンパないわね」

「スタッフですか?」

「あっと、こっちの話」


 気が緩んでいるのかついついゲームネタを口にしてしまうマリアは手で口を押さえる。

 クラスメイトと和気藹々としているその最中……そこにキバが現れた。


「お疲れさまですマリア様、タオルをご用意してあります」


 ウエイターが手にしている布「トーション」の様にタオルを用意し現れるキバ。

 そのまま流れで額に浮いた汗をも拭かんとする勢いで近寄ってきた。

 スポーツとは違う緊張の汗が浮いてきそうな状況にマリアはたまらず身を引いた。


「ちょ、キバ様、大丈夫です! 自分で拭けますから!」

「そうなのですか? 先輩のリンさんからは「マリア様は拭いてもらうと喜ぶ」とおっしゃっていましたが」

「くおぉぉ……リンちゃんめぇぇ……」


 キバのとの仲を進展させようとするリンの優しさ……ではなく日頃振り回している自分へここぞとばかりの仕返しなのだろうと察したマリアは狼狽えるしかない。

 そんなことをしている内にも「竜族の王子」登場にドンドンと生徒たちが近寄ってくる。

 そしてマリアとの絡みをつぶさに見つめていた。

 悪目立ちで好奇の視線の雨霰。

 そこへサリーがマリアをねぎらいに現れる。


「すごかったじゃないマリア! 三位って……あら?」


 誉めようとしたのも束の間、サリーは異様な雰囲気に閉口する。

 すぐさまキバが現れたせいだと察すると賞賛の言葉は同情に早変わりした、


「すごい状況ね」

「あぁ、うん」

「息も絶え絶えね。この状況になったら……うん、私も同じようになるかな」


 疲れ切ったマリアを見てサリーは申し訳なさそうな顔をする。


「お疲れのところ悪いけど、ロゼッタ会長があなたを呼んでいるの。来てもらえると助かるわ」


 マリアは断るどころか笑顔で応じた。


「行く行く、全然いいわよ」

「え? 大丈夫?」


 妙に避けられているので断れてることも考えていたサリー。

 二つ返事で了承されたことに少々戸惑う。


「大丈夫も何も……」


 マリアは周囲を見回しサリーもそれに釣られる。

 そこには好機や嫉妬、色んな視線が遠巻きにマリアに突き刺さっていた。

 それはドンドンとエスカレートしていく、プリム先輩のような嫉妬の眼差しもちらほらと。


「今の体力でこの視線の雨霰は耐えられそうにないから、どこかに逃げたいのよ」

「お、お察しするわ……すいませんキバ様、マリアをお借りしますね」


 キバは真顔で首を傾げた。


「いえ……マリア様は私の所有物ではないので、お借りしますと申されましても」


 相変わらずの天然王子にサリーは苦笑するしかない。


「現物保持で返却するので安心してくださいね」

「さすがサリー、天然王子にも上手に対応するわね」


 感心しながらマリアはサリーに手を引かれて校舎の方へと向かっていったのだった。


 マリアはサリーに誘われ校舎の上へ上へと連れて行かれる。

 そして到着したのは学び舎らしからぬ大きなバルコニーだった。


「うわ」


 赤いカーペットが敷き詰められ彫刻のような脚のついたテーブルやイスの数々。

 日光浴を堪能できそうなビーチベッド、その横に設えられた小さなテーブルのうえにはトロピカルなジュースが用意されていた。


「よぉ、待っていたぜマリアちゃん」


 そのベッドに横たわるはべらんめぇ口調ロリっ娘生徒会長ロゼッタ。

 フルーティなジュースをちうちう吸いながらも「たまんねぇな」と酒をあおったようなリアクション。

 らしさ全開の彼女にマリアは笑う。


「バカンスみたいですね生徒会長」

「言い得て妙だな、確かにここは避暑地と言うより避難場所だからよ」

「避難場所?」


 首を傾げるマリアに「まぁかけな」と横に座るよう促すロゼッタ。

 辺りを見回すと色々な生徒や父兄が優雅に体育祭を観戦していた……先ほどの上級や下級とはまたテイストの違う余裕のある方々だった。


「オイラはじいさまが有名でよぉ、下にいちゃ媚び売ってくる連中がわんさかなんで適当に挨拶すませたらここに逃げるんだ」

「はぁ」

「ここはそういう方々用の有料VIP席さね。あぁ、他の貴族の連中には内緒な。必要ないのに見栄に金払って乗り込まれてものんびり出来やしねえし」

「あはは、なるほど」


 つい先ほど好機の眼差しにさらされ続けたマリア、たしかにお金払ってでも逃げ込みたくなるのは分かるのだった。


「魔法学園は一般から上級貴族も入学できる門殿広い場所。だからこそ世間の「しがらみ」その縮図が色濃く出ちまう」


 ロゼッタは「名前を売ろうとしたり権力を誇示しようとしたり」とウンザリとした口調で語る。


「なるほど」

「下手したら教師より立場が上の生徒も少なくない。学び舎って体裁が崩れたら目も当てられねえ」


 今日もあった因縁つけてきたプリム。

 あのような意地の張り合いが四六時中おきようものなら勉強どころの騒ぎではないとマリアは納得した。


「そんな下郎が幅を効かせないように生徒会があるんだよ。もちろん生徒会に入るメリットはあるぜ」

「エリートとして目をかけてもらいやすくなる。ですよね」

「おうよ。ま、実力が伴っていればの話だがな。他の見返りもわんさかだ」


 そんな話をしている間にマリアの隣のテーブルに食器類が並べられていく。


「あの、これは?」

「何って、これから美味い料理が運ばれてくるんだよ。聞いたぜマリアちゃん、結構な美食家なんだってな」

「美食家?」


 聞き慣れない言葉にマリアはアゴに手を当てる。

 どちらかというと「もったいないスピリットの化身」「女子力を通り越して主婦力を手にした女子高生」なのだが……貴族という立場もあり「こだわりのある美食家」と捉えられているのも仕方がないことだろうとマリアは理解した。


(ブロッコリーの芯とか大根の葉っぱを余すところ無く使うのはもったいない精神なんだけど……傍目から見たらそうなのかしら)


 色々疑問に思っている間にも食事の準備は着々と進んでいた。


「まぁウェルカムドリンクぐれぇ味わっても損はないぜ」


 薄く絞っただけのようなレモンウォーターが用意される。

 しかし果肉が中を漂い鼻孔をくすぐるフレーバーは一級品だと毎日料理をするマリアにはすぐに分かった。

 これは超高級品だと。


「い、いただきます」


 口に含んだ瞬間口内から鼻の中を駆け抜けるレモンのさわやかな風味。

 少しだけ残っている果肉の触感も憎く直感通りの一級品にマリアは目を丸くした。


「おいしいですね」

「だろ、すっぺぇのは苦手なんだがこれはいくらでも飲めちまう。マスカットティーも美味いぜ、とれたてのブドウを食っているみてーに芳醇だからよ」


 次々と高級品を進めようとするロゼッタにマリアは気後れした。


「いいんですかね、こんな贅沢をして」

「さっきも言ったろ、生徒会は自己主張の強い貴族連中を牽制して学び舎という体裁を守るためにある。このぐらいの役得は気にすることはないんだぜ」

「私、生徒会には……」


 乗り気でないマリアを見てロゼッタは不機嫌になるどころか笑って見せた。


「へへ、意志は固いってか? 逆に何でそこまで生徒会を拒むのか分からねえなぁ」

「それは……」


 マリアは口ごもった。

 死亡フラグ回避のために色々やることがある……それだけではない。

 長谷川麻里亜は根っから人前に出るより裏方で世話を焼くのが好き。

 先頭に立つなど前世の頃から考えたことがなかったからだ。

 そのうえ悪役令嬢というキャラを全うしなければならない……生徒会に入る選択肢などマリアの中には全くなかった。


「えーと……あ」


 どう言い訳しようか考えているとき、校庭で両脇にバスケットを抱えながら何やら作業をしているキバの姿が見えた。

 どうやらお昼ご飯の場所を確保しているようだ。

 背筋を伸ばして凛としたたたずまいでテーブルクロスを引くようにランチシートを敷く姿は実に様になっている。

 周りの人間が一定の距離を保って囲んでいる様子はまるでコスプレイヤーとカメラマンの関係にも似ている。


「まったくもう」


 律儀に仕事しながら待っている、健気な竜族の王子を見てしまったマリアは嘆息して立ち上がる。


「どこへ行くの? もうすぐお茶菓子がくるのだけど」


 サリーの呼び止めを振り切ってマリアは笑顔を向けた。


「遠慮しておくわ。だって美味しい料理が待っているから、おなかを空かせておきたいの」


 その言葉にロゼッタは怪訝な顔をした。


「へぇ、一流シェフのおもてなしより美味いものかい?」

「もちろん」


 即答するマリア。

 満面の笑みを携えながら彼女はこう続ける。


「よかったら後で二人とも来てよ。多めに作ったんだからさ」

「多めに……作った?」


 百聞は一見にしかずそんな顔で去りゆくマリア。

 彼女の背中をみてサリーはロゼッタに含み笑いをしていた。


「振られちゃいましたね会長」

「ったく、なんで嬉しそうなんだお前さんは」


 サリーは「そんなこと無いですよ」と笑って誤魔化した。


「まっすぐでどこか庶民的、やっぱり思った通りねマリア……あら?」


 そのマリアと入れ違いで現れたのは、なんとプリムだった。


「おや? お前さん、ここに何の用だい?」


 ロゼッタの質問に対しプリムは質問で返す。


「ロゼッタ会長? ここはどういう集まりですか?」

「知らずに入ってきたのかよ」


 マリアに振られ少々落ち込み気味のロゼッタ。

 そんな機微など意に介さずプリムは周囲をキョロキョロ見回していた。


「マリア・シャンデラを見かけたのでついつい後を追ってしまったのですが……あの女はどこでしょう? 上級貴族といえばティータイム、きっとこの場でほっと一息と洒落込んでいるんでしょう?」


 貴族の嗜みティータイム。

 プリム先輩はマリアもご多分に漏れずその慣習に従っていると考え隙を見て下剤を一服盛ろうと画策していたようである。

 ロゼッタは首を振りぶっきろぼうに答える。


「帰ったよ」

「え? 帰った?」

「おうさ、オイラの誘いを断って。しかもティータイムよりもっと楽しい事を教えますよなんて言われちまったよ」


 さびしそうな幼女の肩をサリーはポンポンと叩いて慰める。


「まぁまぁ、マリアという人間を知る良い機会じゃないですか。で、プリムさんのご用件は何でしょう?」


 サリーの問いはプリムの耳に入っていなかった。


「あの女……生徒会長の誘いを断り、貴族の嗜みを放棄したですって? 私の計画に気がついた? それとも別格気取り? だとしたら許すわけにはいかないわね」

「あの……プリム先輩?」

「っと、失礼します」


 プリムは「もう用はない」と言わんばかりにきびすを返し去っていく。


「薬を一服盛る機会を逃したけど、まぁいいわ。次の競技でねじ伏せてやるんだから」


 ブツブツ独り言を口にするプリム。


「あいつも大概変だな……やれやれ」


 ロゼッタは呆れて見送るしかなかった。

次回もなるべく早く投稿します

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