七話「魔法学園の体育祭が始まりました」⑦
そして開会式。
雲一つ無い晴天の下で壇上に上がった生徒会長ロゼッタがスピーチを始めた。
「オイラたちゃ体が資本でぇ、怪我無くいこうじゃねえか。体調が悪い奴は遠慮なく言ってくれ、それだけだ」
べらんめぇ口調のゴスロリ少女に生徒からも父兄からも「カワイイ」の声がわき上がり会場は大盛り上がりになった。
ロゼッタはちょっぴり顔を赤らめて「カワイイいうんじゃねぇやい」とはにかんで壇上から降りようとした。
しかし、その盛り上がりとは別のざわめきが波紋のように会場に広まっていく。
「おい」
「あれって……」
妙な空気にロゼッタは眉根を寄せる。
「おん? 何が起きた?」
疑問に思う内にもざわめきは大きくなりどよめきに変わっていく。
マリアやサリーも気になってざわめきの中心に視線を向けた。
そこには――
「見えますかモフ丸君」
「わっふ!」
執事服に身を包んだキバがマリアの両親の隣に立っている。
手にモフ丸とギンタローを抱えマリアが見えるようテラスの前に出てきていたのだった。
「ギンタロー、感謝の言葉は?」
「えぇい、雑に持つでないわ! 見やすいのは感謝しておるが、まるっきり子供扱いではないか!」
「おっさん扱いしろと? かしこまり――」
「すまん、戯言じゃった」
竜族の王子キバ・イズフィールド・アネデパミがペットをあやしながらシャンデラ家の隣に立っているのだ。
それも執事服姿。どういう状況なのか理解できない周囲の貴族は動揺し――
「キバ様!?」
「本物!? やばくないあの執事服姿!?」
氷の微笑を携えたクール系美青年としてファンの多い彼に黄色い声援が飛び交う始末だった。
そして他の生徒同様にマリア驚いていた。
(ぬわんで!? リンちゃんでなくキバ様が!? 目立っちゃうから今日はリンちゃんって指定していたのに――ハッ)
その時マリアは前日のことを思い出す。
そう、調理を手伝ってもらっていたその時のことを――
「今度有給を取ろうかと思います、幸い私が休んだら代わりに頑張ると同僚も名乗りを上げてくれましたし」
「あら、良かったじゃない」
「えぇ本当に、いい同僚です」ニヤリ
回想終わり。
(あの時のニヤリはこれか! いい同僚ってキバ様!? ていうか今度ってまさかの今日なの!?)
今までさんざん振り回された意趣返しと言ったところだろう。
あの時のニヤリの意図を理解してしまったマリアは半目で貴族の席の方を見やる。
「マリアー! マリーアー! アッー!」
「マリア、頑張って~」
ガンドルとシンディはマリアに夢中で、キバ登場による会場の異様な雰囲気に気がついていないようである。
一方、当のマリアにとってはたまらない状況だった。
(うへぇ、好奇の視線やら嫉妬のまなざしが……)
生徒だけでなく父兄からも降り注ぐ視線の雨に困惑するマリア。
彼女はちょっと見えないところに下がってほしいとキバに向かって目で合図を送る。
「…………ふむ」
しかしキバ、何を勘違いしたのかギンタローを雑に降ろすと空いた手を振ってきた。
「「「きゃー! キバ様がお手を振られになられたわ!!」」」
校庭は女性中心に大いに沸いた。
生徒だけでなく先生や一般父兄のお母様方もだ。
やれ私に振ってこられた、いいえ私よなど珍妙な小競り合いも始まる中、自分に向けられたものだと自覚しているマリアはさらに困惑するしかない。
(イケメンに手を振られるなんて非常に嬉しいのだけど、私目立ちたくないのに)
ゲームストーリーに支障をきたしたくないのはもちろん、因縁を付けられ第二第三のプリム先輩が誕生してしまうと面倒……
ただでさえ悪役令嬢のキャラを守るのに(ほぼ守れていないが)必死なのに面倒事を増やしたくないと額を押さえるマリアだった。
さて、その仕草を優越感に浸っていると勘違いしている嫉妬ウーマンが一人。
「ぐぬぬ、マリア・シャンデラめ……」
ご存知プリム先輩である。
キバの熱烈なファンの彼女、嫉妬の炎が燃えさかっているようで「人間ここまで眉間にしわが寄せられるのか」とびっくりするくらい深く深く眉根を寄せていた。大きめの硬貨を挟んでも落ちないレベルである。
そんな彼女、怒りを全面に押し出していたが急に悪い笑顔に早変わりした。
「まぁ今だけよ、今日でお腹を下した上級貴族として全ての尊厳を失うのだから」
急にケタケタ笑い出すプリム先輩。
百面相のようにコロコロ表情を変える彼女に周囲の取り巻きもどん引きしていたのだった。
※次回も日曜日19時頃投稿します
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