七話「魔法学園の体育祭が始まりました」④
そしてエルデリン魔法学園体育祭当日。
ポンポンと空砲が空に響く中、ざわめきで埋め尽くされる魔法学園の校庭。
校庭に勢ぞろいした生徒たちに父兄が談笑しながらごった返す様子はまるで一種のフェスのよう。音楽ステージがないのが不思議なくらいである。
「うは~、マンモス校って聞いていたけど在校生ってこんなたくさんいたのね」
入学してから一月後に転生したマリアは初めて在校生の数を目の当たりにして驚いていた。
多種多様な人種の生徒に加え、父兄の方々も異国情緒にあふれ見応えたっぷり。
ファンタジーの世界に転生したのだと改めてマリアに認識させる。
そして極めつけは魔法学園の規模、生徒とその父兄を招いてまだなお余裕のある校庭の広さ。
ゲームの設定では国営最大規模の学園と称されているだけあってさすがのスケールで見る者を圧倒するのだった。
「野球場二つ分くらいはあるわよね、そして――」
マリアは別の方に視線を送る。
一般的な父兄のいるスペースと違い明らかにVIP待遇なテラスが設えられていた。
そこで談笑している面々も優雅な衣装に身を包みオペラグラスのようなものでこちらを眺めている。
「あれが貴族の方々……うーん、まるで競馬の馬主席よね」
自分もその貴族の一員であることをすっかり忘れ前世の庶民感覚で眺めているマリア。
そこにサリーがすっと隣に立って同じ方向を見やる。
「あの人たちにとって、このイベントはビジネスの一環よ」
「びじねす?」
サリーはふんわりと笑う。
それは呆れ混じりの笑顔だった。
「そ、ビジネス。ほら見てみて」
サリーが促す方を見やると何やら名刺のようなものを差しだしたり自己紹介している姿が散見される、
体育祭そっちのけでサラリーマンが商談を持ちかけている、そんな雰囲気が見てとれた。
「あぁやって仕事に繋げようとする人が多いの。あとは一般で優秀な生徒を卒業後に雇うためのスカウトを兼ねている貴族もいてね」
「学校の行事なのに品評会とかそんな感じね……」
呆れるマリア。
そんな時、そのVIPスペースのところでピョンピョンと飛んでいる人影に気がつく。
「マリアーッ! マリアーッ! アッー!」
「あなた、落ち着いてください。マリアーがんばってー!」
マリアの両親、ガンドルとシンディだった。
動物園のパンダに向かって「こっち向いて」とアピールしているようなガンドルとそれを窘めつつ手を振るシンディ。
子供のような行動にマリア、そしてサリーも思わず苦笑いだった。
「純粋に応援しにきた父兄さんもいらっしゃるけどね」
「お恥ずかしい限りよ……あり?」
マリアははしゃぐ両親から目をそらすとテラスの妙な光景に気がついた。
「なんかきっちり区分けされている感じがするんだけど」
サリーは「ご明察」と微笑んだ。
「上級貴族、下級貴族……こういう場所で見ると露骨に牽制しあっているのがわかるわ。国として非常に危うい、有事の時に連携がとれない状況は捨て置けないでしょうね。私は――」
「えっと、ゴメンねサリーせんぱ……サリーさん。そのお話はまた」
「あちょ、マリア」
彼女の言葉を遮るように謝ると、サリーから距離をとるマリア。
避けられているとうっすら感じているサリーは頬を掻く。
「また勧誘失敗ね。というかここまで避けられているのはなんでかしら」
そんな風に独り言ちている彼女から離れたマリアは実に申し訳なさそうにしていた。
(ごめんねサリー先輩、ワルドナゲームのメインキャラの貴方と仲良くなりすぎたら何が起きるかわからないもの)
ゲームのストーリーが変わってしまう……いや、それだけではない。
場合によってはマリア・シャンデラがゲーム本編にガッツリ関わってしまうかもしれないからだ。
義理の妹ミリィから身を守れたとしても新たなる命の危機に直面するのはなんとしても避けねばならない。
(めっちゃ良い娘でめっちゃ友達になれそうなのに……こんな風に避けなきゃいけないのがツライ!)
断腸の思いでサリーを避けたマリア。
そんな彼女の元にクラスメイトたちが集まってくる。
「おはようございますマリアさん」
「今日は頑張りましょうね」
「上級生に負けないくらい練習しましたもん、勝ちますよ!」
意気込む彼らの言葉でマリアは思いだした。
「あぁそうだった、学年対抗だったわね。ということは――」
その時、見覚えのある顔がマリアたちの前に現れた。
「今日こそ決着をつけさせてもらうわマリア・シャンデラ」
鋭い目つきに悪い笑み。
マリアたちの一年先輩で上級貴族の息女、プリム・ルンゲルだった。
※次回は日曜日19時頃投稿します
※ブクマ・評価などをいただけますと助かります。励みになります。
皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。
また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。