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七話「魔法学園の体育祭が始まりました」③


 そんな叱られる二匹を他人事のように見ていたキバだが、とばっちりは彼にも降りかかる。



「キバ様も何をしていたんですか?」



 キバは急に話を振られ少し動揺を見せる。



「いえ、何と申されましても執事として……」


「ずーっと見ているのが執事の仕事ですか? 集中しているのでできれば他の仕事をして欲しいのですが」


「あ、はい」



 指摘され、急いで箒を手にするキバにマリアは嘆息する。



「んもうキバ様、台所で箒を使ってはゴミが舞ってしまいます。水モップを使ってください」


「あ、はい……申し訳ありません」


「それとシャンデラの執事だからといって公務の方は疎かにしないでくださいね」



 そう言われたキバの動きが止まり何やら考えこみだした。


 いきなり挙動が止まったのでマリアはちょっと言い過ぎたかなと慌てだす。



(あ、しまった……つい)


「……」


「ど、どうしました? すいません、お気に障ることを言ってしまいましたか?」



 キバは「あぁすみません」と一言謝罪した後、淡々と答える。



「いえ、公務の方は執事の片手間でやってはいるのですが……」


「片手間でやる事ではなかろうが」



 たまらずツッコむギンタローの言葉を聞き流しキバは唸っている。



「その公務なのですが、真剣に挑んでいた時より肩の力が抜けたと言いますか……腹を探ってくるだけの人間ばかりではないんだなと余裕を持って見れるようになりましたね」


「それは良かったと言いますか」



 淡々としているキバだがどこか角が取れたのはマリアから見ても分かる……具体的にはワルドナゲーム本編で主人公たちと打ち解け始めた時のような雰囲気になっていた。



「これもマリア様のおかげですかね?」


「――協力的になってくれたのは嬉しいけど、ここまで感謝されるとは……ストーリー進行にイレギュラーが出なきゃいいなぁ……」


「ん? 何か?」


「い、いえ、こちらの話です」


 つい独り言ちてしまうマリアは「何でもない」と愛想笑いで誤魔化した。


 キバはちょこんと首を傾げたのち、マリアに改めてお礼を言いだした。



「マリア様にお食事を振舞っていただいた日から何か変わった気がします。人に興味を改めて持てるようになったのは」


「は、はぁ」


「あの暖かい灰色のマッシュルームスープを口にした日から、見た目で人を判断しないように心がけるようになりました。マリア様のお導きと言っても過言ではありません」



 「自分でも安直かと思いますがね」と自嘲気味に微笑むキバにマリアは困り顔である。



「そこまで感謝しなくていいですよ……ほどほどで」


「いえ、そういう訳には、マリア様の傍に仕え、暖かさを学ばせていただきたいと思います」


「ほ、ほどほどで」



 マリアは苦笑いするしかなかった。


 ワルドナのストーリーを把握しているのは自分のアドバンテージ。


 義理の妹ミリィが命を狙ってくるその日まで……具体的にはゲーム本編開始までイレギュラー要素は排除したいとマリアは考えていたのだった。



(キバ様を遠ざけるのは心苦しいんだけどさ、現実世界の家族のためにも頑張らないと)


 

 マリアがそう考えている時である。



「おや、忙しいのかな?」


「いい匂いがすると思ったらやはりここでしたか」



 そこにマリアの両親であるガンドルとシンディが仲良く現れた。



「お父様にお母さま」


「明日は体育祭だね、調子はどうだい?」



 優しそうに体調を聞いてくるガンドルに「大丈夫」と答えるマリア。


 彼女に甘々の両親は明日のイベントで愛娘の活躍が見れるのかと今からウキウキしているようである。



「マリア、明日の体育祭は必ず行くからね」


「料理長から聞いたぞ、お弁当の方も活躍の方も楽しみにしているからな、ハハハ」



 早くもお弁当が気になるようでチラチラつまみ食いしたそうに視線を送るガンドルとシンディ。


 マリアはこめかみを押さえて嘆息するしかない。



「モフ丸たちといい勝負ね」


「わふ?」



 しかしお弁当を期待されて悪い気はしないマリア「料理内容は明日のお楽しみ」とつまみ食いはさせないように追い払う。



「はいはい、明日がおいしいんだからお父様もお母様もお休みください」


「ごめんなさいねマリア、私はつまみ食いなんてはしたないと思ったんだけどお父様が」


「あ、こらシンディ、一人だけ」



 仲のいい両親に思わず笑ってしまうマリアだった。


 ガンドルが気を取り直し咳払いをする。



「ゴホン……とにかく明日は怪我だけはしないでくれ、それだけ注意しなさい」


「はい」



 笑顔で去っていく両親。


 その背中を見てマリアは前世である「長谷川麻里亜」の両親を思い出してしまう。



(元気かな……っと時間が止まっているから大丈夫なのよね)



 必ず死亡フラグを回避し現世に戻ってみせると改めて決意するマリアだった。


 来るべき日にサヨナラをしなくてはいけない一抹の寂しさを振り払うように、マリアは明日のお弁当の最後の仕上げに取りかかるのだった。


※次回は水曜日19時頃投稿します

※ブクマ・評価などをいただけますと助かります。励みになります。

 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 

 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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