六話「竜の王子が私の執事になりました」⑩
「そ、そうだったんですか」
「よかったマリアさん」
一方、サリーとロゼッタは未だに目が点のままであった。
ようやく落ち着いたサリーはマリアにキバとの不思議な関係を聞いてみる。
「マリア、キバ様との関係をできればあなたの口から聞きたいのだけれど」
サリーの問いかけにキバが反応する……この辺も天然である。
「馴れ初めという奴ですかね?」
「この天然トカゲ、少し黙らぬか」ヒソヒソ
一から説明するのも大変……というかマリア本人も明確に「何故キバが自分に付きまとうのか」はっきり答えようがないのである。
一応胃袋をつかんだとは思っているが、それ以上に何かあるのではとさすがのマリアも考え出しているところだ。
まぁキバ本人も何となくマリアといれば感情を取り戻せるのではと自分の気持ちに気が付いていない節があるのだが……
(めんどくさい、逃げよう)
マリアは説明を放棄し、退散を選択した。
「それでは会長、サリーさん、失礼します」
「あ、うん……っと、おう」
やっと元の口調に戻ったロゼッタに一礼するとマリアは風のように去っていく。
同級生たちとキバやモフ丸もその後に続いた。
去りながらマリアは生徒会に誘われたことを思い返す。
(お咎めなかったのは良かったけど、生徒会か……うーん目立つのはちょっとなぁ、ただでさえキバ様で目立つのに)
「どうしましたかマリア様、何か別のお悩みでしょうか?」
貴方の事とはさすがに言えないマリアは何とも言えない微笑みで誤魔化すのだった。
一方、取り残されたロゼッタとサリーはソファーに座り直すと神妙な顔で会議を始める。
「しっかしまいったねぇ。驚きすぎて昔の喋り方に戻っちまったよ」
「ふふ、ずいぶん可愛らしい喋り方でしたね」
「茶化すなよ。しかしマリア・シャンデラ……えらい傑物だな、あのキバ・イズフィールド・アネデパミを執事に迎えるなんざ」
しばらく無言のあと、ロゼッタはゆっくり口を開いた。
「欲しいな」
「えぇ」
サリーも静かに同調する。
「アネデパミ卿を味方陣営に引き込めるという事は亜人族そっくり味方にできるのと同義ですね。やりようによっては上級下級の貴族問題を早期に解決できます」
「上級貴族、下級貴族の対立に亜人をかませて三すくみ構造にもできるし仲裁の口利きをしてもらってもいいな」
「特に古いしがらみに囚われず自由に商売をしている下級の方がお金を持っている現状、上級の利権欲しさに何か動き出してもおかしくありません」
「上級も上級でその利権をフルに行使して下級つぶしに走ったら経済がえらいことになる」
小さなあんよを組み替え見た目はくつろぐ幼女だが口からでる言葉はやり手政治家のソレである。
そのギャップにサリーはもう慣れているのか真剣に意見をかわす。
「生徒会の持っているパイプを通してマリアさんとアネデパミ卿で貴族全体に睨みを利かせればその杞憂もなくなりますね」
「何にせよ人間の権力争いに一切かかわろうとしなかった竜族を味方に……デカいぜこりゃ」
モブな悪役令嬢を全うしようとするマリア。
しかし「ワルドナ」の世界はキバの干渉によって彼女中心に動き始めようとしてたのだった。
※次回も明日19時頃投稿します
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