六話「竜の王子が私の執事になりました」⑨
べらんめぇ口調がどこかへ行き、素になるロゼッタ。
お久しぶりと言われたキバは心当たりがないのか首を傾げた。
「はて、どこかでお会いしましたか?」
「わ、私、大国防衛大臣の孫になりますロゼッタと申します」
「あぁあの御大のお孫さんでしたか。大きくなられて気が付きませんでした」
すっかり忘れていたキバをギンタローがたしなめる。
「相変わらず人に対して無関心すぎやしないかキバよ」
「ずいぶん大きくなられたので分からなかったというのもありますが……確かに公務の時は色々と割り切っていますね。改善している途中なのでお許しいただけますか」
「我ではなくそこのおなごに謝れ」
キバとギンタローがコソコソ言い合う中、サリーが恐る恐る尋ねる。
「あの、アネデパミ卿とお見受けしますが……本日公務で訪れるとは伺っておりませんが」
キバは真面目な顔で答える。
「公務ではありません、本日はマリア様の執事として魔法学園に来ましたので」
「し、執事ぃ!?」
これまたらしくない驚きを見せるロゼッタ。
事の重大さを分かっていないキバは真顔で「はい」と答えた。
「だってあなた亜人の次期王で竜族の王子ですよね」
そこまで言われてもキバはあっけらかんとした態度だった。
「たしかに肩書はそうでした」
「過去形!?」
「今はマリア様に就職しましたのでそっちの方は副業と言う形になりますかね」
「マリアちゃんに就職!?」
「はい履歴書などの職業欄にはシャンデラ家の執事と書かせていただいております」
マリアに就職――
これまた誤解を生みそうな発言に当人であるマリアが困る。
「ちょキバ様、違うでしょ」
「えーと、どこが違うのでしょうか? マリア様に就職したつもりなのですが」
可愛く首をかしげる天然なキバに訂正する気力を失うマリア。子供にあきれるお母さんのソレである。
動揺するサリーとロゼッタに代わってマリアが状況の説明を始める。
「別に先日の処分で呼ばれたわけじゃないの。相手にも非があったし、それは不問に終わったわ」
「外から見ていましたが……それにしては深刻そうなご様子でしたが」
サラリと外から覗いていたと告白するキバ。
マリアは苦笑いするしかない。
「えっと……見ていたの?」
「執事ですし、何かありましたらすぐさま駆け付けギンタローの首を届けねばと」
「首を届けるってずいぶんホラーなデリバリーね」
ウー○ーイーツも真っ青な出前にマリアは一周回って感心すらしていた。
「ほれみよ。マリア殿も困っているではないか」
「大きな声で人語はお控えください」
「くぉのッコンコン!」
首デリバリーはともかく、不問という事に同級生一同は安堵の息を漏らした。
キバも薄っすらだがホッとした表情を見せている。
※次回も明日19時頃投稿します
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