六話「竜の王子が私の執事になりました」⑦
驚くマリアに対しロゼッタは気にするなと続けた。
「一年坊から生徒会なんて意外によくあることだぜ。そこのサリーだって次期生徒会じゃ副会長予定だ」
「いやでも、私なんかが何で」
「お前の啖呵にオイラが惚れた。理由はそれだけだよ、驚くこっちゃねぇ」
「驚く事じゃないって言われましても……」
マリアは驚きを通り越しむしろ困りだす。
ワルドナゲーム内における序盤の死体役「マリア・シャンデラ」。
モブ中のモブな悪役令嬢である自分が生徒会に入ったらゲーム本編に与える影響は未知数。
むしろ誘われているこの状況が何か大変なことの予兆なのではと戦々恐々しているのだった。
(端役の私が国に影響力のある生徒会に入りでもしたら……私の命を狙う側からしたら絶対慎重になるわ。それにゲームのメインキャラであるサリー先輩とも仲良くなりでもしたら……)
絶対にゲームの本編に影響が出てしまう、最悪ストーリーに絡むようになってさらに命を危険に晒してしまう可能性が高くなる。
(せめて義理の妹ミリィに命狙われるその日まで普通の悪役令嬢を演じきりたい)
そんな事を考えているなど知らないロゼッタは彼女を口説き始めていた。
「今ぁお国が大変なんだよ。上級下級って変な区分けのせいで変なプライドからくる小競り合いが絶えなくてな。爺ちゃんもくだらないことに時間を割くくらいなら剣でも振っていろって嘆いていたぜ」
「身分抜きで優秀な人材を登用するのが最近の国の方針なんだけど……」
口ごもるサリーの代わりにロゼッタが言葉を続ける。
「上級貴族は下級貴族と並べられるのがイヤと抜かす。下級も下級で一部の連中がこれを期に上級を潰そうと考えている奴もいて困ってんだよ」
「はぁ」
ゲームではさらっと流されるだけの設定だが、こうやって人から直接聞くとずいぶん根深い歴史のように感じられる。
マリアは社会派な問題を聞かされ背筋を思わず伸ばして聞いてしまっていた。
そんな彼女の肩をサリーが叩く。
「だから私たち生徒会はね、上級下級の垣根を越えて頑張れる人間を歓迎しているのよ」
「垣根を越える? 私がですか?」
「身分なんて関係なく仲間を身を挺して守った……惚れ惚れしたよ。しかも上だの下だの決めるなら上は下を守るべきだろって中々言えないぜ、大したもんだよマリアちゃん」
「わ、私ははただ……」
当たり前のことを口にしただけ。
それなのにエリート街道まっしぐらの生徒会に抜擢され困惑していた。
(どういうこと!? 当たり前のことをしただけなのに何で私が生徒会に!?)
上級貴族らしからぬことをしたためなどとマリアは気が付くことなくウンウン唸るしかなかった。
「どうかな? マリアさん」
サリーの問いかけにマリアは申し訳なさそうにした。
「お誘いは嬉しいのですが……」
「あ、そ、そうなの……」
断られシュンとなるサリーを見てマリアは心が痛む。
(ごめんね、メインキャラと仲良くしたり、ましてや生徒会なんて……どんな弊害が出てしまうかわからないから)
不安が拭えないマリアはサリーや生徒会と距離をとろうと考えている。
一方、ロゼッタは会長らしく動じることなく彼女の決断を称えた。
「そうか、きっとやりたいことが他にあるんだろうな」
「え、えぇまぁ」
死亡フラグ回避とは言えないマリアは笑って誤魔化すしかない。
※次回も明日19時頃投稿します
※ブクマ・評価などをいただけますと助かります。励みになります。
皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。
また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。