六話「竜の王子が私の執事になりました」⑥
その誤魔化しにサリーが乗っかってくる。
「飲み過ぎて噂になっているんですよ。少し控えたらどうですか?」
「どうもやめられなくてな、ま、気が向いたらな」
酒飲みの言い訳に聞こえるがゴスロリちみっこ生徒会長のイチゴミルク事情である。
差し出されたイチゴミルクをチビチビやりながら晩酌状態のロゼッタ。
そんな彼女を目の前にして健康を気にするお母さん気質のマリアはついつい口を出してしまう。
「会長、甘いの取りすぎて病気になったら大変ですから、お砂糖控えめかもしくは普通の牛乳にしたほうが良いですよ」
「マリアちゃんもそう言うのかい……ミルクだから体にいいと思っていたんだよぉ」
「あ、ごめんなさい。つい……アハハ」
威厳ある口調とは裏腹に年相応にシュンとするロゼッタをマリアは可愛いと思ってしまう。
そんなお母さん気質のマリアに彼女は口元を緩めた。
「いいってことよ、なかなか言うねぇマリアちゃん。やっぱいいねぇ」
グラスに入ったイチゴミルクをグイとあおり、気を取り直したロゼッタは上唇にミルクを付けたままマリアの顔を覗く。
「ところで聞いたぜぇ。今日も上級貴族の生徒とバチバチやり合ったんだってな」
「バチバチだなんてそんな……」
幼い顔に似合うちっちゃい指でバツ印を交差させるロゼッタ。見た目と仕草が合っていない。
その会話にサリーも加わってくる。
「あんな風に泣き顔をさらされて文句の一つも言わないと面子が保てないとでも思ったんでしょうね。上級貴族の特権階級に染まってしまった連中の考えることです」
上級貴族先輩を辛辣に切り捨てるサリー。
事細かに覚えている彼女にマリアは驚きの表情だ。
「あんな風って……そんなじっくり見ていたの?」
「うん、ゴメンね、バッチリ見ちゃってた」
サリーは舌を出してマリアに謝る。
一方、マリアは頬に一筋の汗を流して狼狽えた。
(つまりギンタローの幻術で追い払ったところも見られていたのね)
モンスターの力を利用して先輩を泣かせる、冷静に考えたらかなりアウトよりの行為をした……マリアはそのせいで呼ばれたのではと逡巡しながら推察した。
(ゲームの世界とはいえ生徒に魔法は法に触れるのかな? いや、先に手を出そうとしたのは向こうだし、こっちは幻術だから怪我は負わせていないけど……幻術取り締まり法違反とかあるの? とはいえ……)
言いたいことはある、しかし幻術とはいえ魔法を使って手を出したのは事実。
言い訳はできないと彼女は腹をくくった。
「あの、私、どのような処罰を受けるんでしょうか?」
ちょっぴり動揺しながら覚悟を決めるマリアを見てロゼッタは笑う。
「ビビんなって、別にとって食ったりしやしねぇよ。むしろその逆だ」
「逆?」
ロゼッタの代わりにサリーが答えた。
「マリア・シャンデラさん。貴方を生徒会に迎え入れたいと思っているの。もちろん役職付きで」
「私が!? しかも役職付きって!?」
生徒会の役職に就くこと、すなわち将来を渇望されるエリートの証明。
処罰とは真逆……マリアは予想外の提案に目を丸くした。
※次回も明日19時頃投稿します
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