六話「竜の王子が私の執事になりました」⑤
放課後、魔法学園生徒会室前。
校舎の奥まった場所にあるその一室はまるで職員室かのような入りにくい雰囲気を醸し出していた。
(なんていうか物凄いヤバイ人がいそうな場所ね、マフィアの幹部みたいな人が出てきたらどうしよう)
提灯や代紋が飾られていたら完全にジャパニーズハンシャさん的な事務所の立地……
なんて益体のないことを考えているマリアはサリーに連れられ部屋の前に案内されていた。
彼女は素朴な疑問を口にする。
「あの? サリーさん、どんな用件ですか?」
「サリーでいいわよマリア、だって上も下もない同級生じゃない」
「うぐ、あの時のセリフ……」
「うふふ、ちょっと意地悪だったかな?」
小悪魔的に笑ったサリーはコンコンとドアを軽くノックした。
すると、部屋の奥から威厳ある口調の返事が返ってくる。
「入っていいぜぇ」
その聞き覚えのある声にマリアは目を丸くした。
「この声、生徒会長!? いや登場はもっと先……あ、うん、何でもないわ」
「?」
驚くマリアを不思議がりながらサリーは部屋の中へ促した。
生徒会――
このエルデリン魔法学園において職員と同等くらいの発言力を要する生徒たちの集まり。
そう、学園ファンタジー物のベタな設定に漏れずワルドナの生徒会も様々な権力を持っており、どう考えても「学生が首を突っ込むことじゃないだろう」という事件に首を突っ込んでも文句を言われ無いどころか助けを求められる、そんなご都合ポジション。
生徒会の役職に就いた人間はこの国の未来を担う、将来を約束されるとまで言われる設定てんこ盛りな組織であった。
(現実の生徒会は資料やプリントを印刷するくらいなのに……ファンタジーの世界だからか生徒会という名の学校の自警団的な組織よね)
心の中で呟きながら、マリアはおそるおそる部屋の中へと入る。
目に飛び込んできたのは会社の社長とかが使っていそうな大きい執務机だった。
その机に手を置き、本革の椅子に腰をかけた魔法学園生徒会長がそこにいた。
威厳あるオーラを携えながら生徒会長は、まず一言わびを入れる。
「急に呼んですまねぇなぁマリアさんよぉ……サリー、悪いけどお茶を煎れてくれ。コーヒーで良いかい?」
「あ、はい」
言葉少なに返事をするマリア。
ゲームの中盤くらいで出会うであろう「生徒会長」という濃いキャラを目の当たりにして彼女は圧倒されていたのだ。
固くなっているマリアに気が付いたのか生徒会長は優しく声をかける。
「コーヒーが苦手だったら言ってくれ、人間それぞれ好みってのがあるからな。砂糖もミルクも欲しかったら遠慮しねぇでくれ」
口調はアレだが優しいキャラだったことなど色々思い出したマリアは落ち着きを取り戻し普段の調子に戻る。
「あ、ありがとうございます。会長こそ無理せず好きな物をお飲みになってください。あ、そうだ! イチゴミルクでもいいですよ!」
生徒会長の好物を思い出したマリアはそう進言する。
イチゴミルクと聞いた生徒会長は「いいのかい」と嬉しそうに目を細めた。
「いいのかい? すまないね、初対面の相手にゃカッコつけろと爺様から叩き込まれているんでコーヒーにしているんだが。好きなものを飲んでいいって言ってもらえると嬉しいね……サリー、オイラはイチゴミルクで」
「気にしないでください、何でしたらその大きな机よりこちらのソファーの方でお話ししましょう。疲れるでしょ?」
「マリアちゃん、アンタ気が利くねぇ。んじゃお言葉に甘えるとするぜ。ソファーの方が足ついて楽なんでな……オイラの身長のためにわざわざ机を変えるわけにはいかなくてね」
そう言いながら生徒会長は椅子から飛び降りトテトテとこちらの方に来てソファーにポフンと座った。
生徒会会長、ロゼッタ・ミルフィーユ。
威厳のある風格と低身長プニプニほっぺのギャップがたまらない三年生である。
ベラんめぇ口調のゴスロリ女子生徒会長という、ワルドナのゲーム内でもひときわ濃い属性持ちでスタッフの趣向が透けて見えるキャラと言えよう。
(ゲーム画面越しじゃなく実際に目の当たりにすると設定込みで狙いすぎたキャラよね)
しかも、こう見えてロゼッタは超が付くほどの上級貴族。国の中枢に食い込むほどの権力者であった祖父に溺愛され気が付けば彼の口調が移ってしまったそうだ。
もちろん移ったのは口調だけでなく政治や戦争に至るまであらゆる分野を叩き込まれた……いわゆるハイスペックゴスロリ幼女先輩である。
胃もたれするような設定の人物を目の当たりにし、マリアは内心苦笑いである。
(見た目は可愛いけど……ゲーム本編では切れ者のシーンが多かったし、たしかに対面するとベテラン国会議員のおじいさんを相手にしている感じね。ゲームってここまでこじらせたキャラ出さないと売れないのかしら、大変な業界ね)
自分とは縁遠い業界に畏敬の念を抱きつつ、可愛さ爆発キャラのロゼッタにウサギの耳でもつけたら絶対似合うと思っちゃうマリア。
そんな彼女の前にちょこんと座るロゼッタは素朴な疑問をべらんめぇ口調で投げかける。
「ところでオイラがイチゴミルク好きだって誰から聞いたんでぇ?」
「か、風の噂ですかね。アハハ」
まさかゲーム本編で知ったなんて言えるはずもないマリアは適当に誤魔化した。
※次回も明日19時頃投稿します
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