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六話「竜の王子が私の執事になりました」④


「と、とにかく私は教室に向かいますのでキバ様は――」


「一緒に教室に向かうのですね?」


「そんなわけないでしょう! 一緒に机を並べて何を学ぶんですか?」


「マリア様の事を学ばせていただきたく……」



 キバとマリアの掛け合い。


 このやりとりにプリル先輩たちは再度絶句した。


 そう、これは完璧に「自分たちじゃ手の届かないアイドルと気心知れている間柄」状態。もはや恋人のような雰囲気すら――以下略。


 さすがに無限ループが起こりそうな現状に辟易し始めるマリアは少々強めにキバに指示を出す。



「キバ様、皆が見ていますのでモフ丸たちの元に戻って頂けると」


「マリア様と一緒にいる所を見られて問題があるのですか?」


「問題というか……亜人族の次期王様候補が一介の貴族と仲良しにしているのは少々問題があるような」


「今は一介の執事ですよ、できれば四六時中一緒に居たいものですが」



 四六時中――彼の胃袋を掴んでしまったと思っているマリアはこう考えた。



(朝昼晩と自分の料理を食べたいって考えているのね……意外にキバ様食いしん坊なのね)



 実際は胃袋だけでなく心も掴みかけているなど鈍感なマリアには欠片も気が付かないようだ。


 ご飯が目当てとわかったら強くは言えない、むしろ可愛くさえ思えるマリア。


 ちょっぴり優しくこの場から離れるようキバに促すのだった。



「モフ丸たちとどこかで待機していただけると助かります、お昼には合流しましょう」


「わかりました、それが貴方の望みとあれば」


「お昼は一緒に食べましょう、今日はスライスマッシュルームとベーコンを使った塩フレンチトーストですよ」


「……………っ! 楽しみです」



 キノコ好きかつ塩フレンチトーストという未知の組み合わせにキバは期待に胸を躍らせているようだ。


 そして、このさりげない気心知れたやりとりを見せつけられ、プリム先輩たちの口から魂が出かかったのは言うまでもないだろう。



「な、何なのマリア・シャンデラ……」



 呆然とするプリム先輩。


 この機をマリアは見逃さない。



「チャンス、今のうち行きましょ」


「はい、では後ほど」



 呆然とする一同を後目に教室へと駆け足で向かったマリアだった。



「……づ、づかれたぁ」


 到着するやいなや、机に突っ伏すマリア。


 朝からジェットコースターのような忙しなさにバイタリティ溢れる彼女もさすがにぐったりである。



(いくら何でも目立ちすぎでしょキバ様……さすが本編でも名のあるモテモテキャラといったところね)



 モテモテイケメンと一緒に登校……


 黄色い声に好奇と嫉妬の混じった視線の雨霰……


 経験した事の無い疲労感に襲われた彼女は机に突っ伏し続けていた。



(まぁでも初日だし、そのうち周囲も慣れてくれるでしょ。ストーリーにイレギュラーさえ起きなければ大丈夫大丈夫。悪役令嬢っぽく振る舞って、義理の妹ミリィを養子に迎えて、命狙われたその時殺されなきゃ良いだけの話……)



 平穏無事にモフモフライフを送れば死亡フラグも回避できる……そんなスローガンを心の中で掲げているマリアに――



「マリアさん、ちょっといいかしら?」



 新たなイレギュラーの予感到来である。



「さ、サリー先輩!?」



 サリー・インプション。


 ワルドナゲーム内のプレイアブルキャラで開発スタッフに溺愛されている万能キャだ。



「先輩?」



 同級生に先輩と言われキョトンとするサリー。


 その仕草も非常に可愛く人気キャラなのも頷ける。



「あぁ、ごめんなさい、ついつい」



 ゲームプレイヤーの立場として対応してしまったがマリア・シャンデラとは同級生であることを思いだしすぐさま取り繕う。


 そんな挙動不審な彼女の行動もサリーは優しく受け止めてくれる。



「ふふ、マリアさんやっぱりおもしろいわね」



 柔らかい口調に優しい声音。中の人が超有名声優を起用しているのも相まってマリアは同姓なのに心がときめいてしまう。



(ホントもう、ゲームの世界じゃなかったらすぐにでも仲良くなりたい子よね)



 現世だったら連絡先をすぐにでも交換したいくらい。


 しかしゲーム本編、しかもプレイアブルキャラとは距離を置かねばどんなイレギュラーが起こるか想像もつかない。



(イレギュラーも怖いけど、仲良くなってゲーム本編にガッツリ関わったらそれこそ死亡フラグのオンパレードだものね)



 マリアは至極残念そうな顔をした。


 そんな彼女を見てサリーは笑いながら話を続ける。



「えっとね、この前見ちゃったの、上級貴族の先輩から同級生を守っている貴方を」


「あ、あれ見ていたの?」


「その件でね、あとで生徒会室に来て欲しいんだけどいいかな?」


「……はい?」



 イレギュラーがコツコツと足音を立てて近づいてきているのを感じ取ってしまうマリア。


 一筋の汗が彼女の頬を伝うのだった。

※次回も明日19時頃投稿します

※ブクマ・評価などをいただけますと助かります。励みになります。

 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 

 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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