五話「魔法学園に登校します!」⑦
――シュタッ!
マリアのピンチを感じ取ったモフ丸がギンタローを背に乗せ颯爽とマリアの前に現れたのだ。
いきなりキツネを背に乗せた犬が現れ一同は驚きを隠せない。
「な、何よ、何なのよ!?」
「モフ丸!? ギンタロー!?」
喜ぶマリアの顔を見てギンタローは親指を立てる。
「状況は把握しましたぞ我が主! おっといかん……コンコーン!」
「えちょ!? 喋らなかったそのキツネ!? ……って、何!?!?」
ギンタローが印を結ぶと足下から靄が現れる。
そしてその靄が上級貴族の生徒たちにまとわり始めたのだ。
訳の分からない何かに先輩達も狼狽えるしかない。
「ギンタロー、この魔法は何? まさか命を取る系の奴じゃないわよね」
なんかすごそうな魔法に「即死系!?」と若干ビビったマリアはギンタローに尋ねる。
ギンタローは印を結んだまま「大丈夫ですぞ」と彼女を安心させる。
「ご安心召されよ、軽い恐怖を与える幻術ですぞ。自分の嫌いなもの、苦手な物が大きくなって目の前に現れる、そんな初歩的幻術です」
「初歩っていうけど、結構エグくない?」
「幻術は使い手が一流に限られますからなぁ、我とか。それにこんなまやかし、腕の立つ人間には効きません。でも――」
ギンタローが指をさす方では上級貴族の生徒たちが身悶えしながら絶叫し出していた。
「ぎゃぁぁぁ! デッカい蜘蛛が!」
「人参!? 無理無理こんなデカい人参食べたくない!」
「脂ぎったおっさんが! でっかいおっさんが!」
若干シチュエーションがよく分からない生徒もいるが全員恐怖ですくみ上がっていた。
「――小童相手ならごらんの通りです」
二本足で立って得意げに鼻の下を指でこするギンタロー。
モフ丸も真似して得意げになる。
「わっふ!」
「モフ丸殿も見事な跳躍でしたな。無敵のコンビ結成ですぞ」
マリアは怯えすくみ逃げ出す生徒たちを見てちょっと同情した。
「知らないデカいおっさんが目の前に現れたらさすがの私もビビるわね。幻術、なんて恐ろしい……さて」
マリアは同級生たちの方に振り向いた。
彼らは戸惑いながらマリアにお礼を言う。
やはり上級貴族の娘相手に苦手意識は拭えないようで若干腰が引けている。
「あ、ありがとうございます……」
そんな苦手意識を払拭するような温かい笑顔でマリアは応えた。
「気にしない気にしない! だって同級生じゃない!」
「で、でもマリアさんは上級貴族で――」
「同級生に上も下もない! 同じ学び舎でまだ社会に羽ばたいていないひよっこ風情よ私たちは」
「そ、そうですか……そんなこと考えたこともなかった……」
感銘を受けたのか同級生たちの顔に笑顔が戻る。
マリアは再度「気にしないで」と笑顔を向けた。
「じゃあまた教室で! さ~てお腹空いたわね~」
「あ、あの」
呼び止められ振り向くマリア。
「うん?」
「一緒に……ご飯食べませんか?」
「……」
一拍おいて、マリアはニカッと爽やかな笑顔を返す。
「もちろんよ!」
「わっふ!」
「っこ~ん!」
悪役令嬢(笑)設定を忘れ素で返事をするマリアだった。
そして、その様子を校舎から眺める一人の少女の姿があった。
※次回も明日19時頃投稿します
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