五話「魔法学園に登校します!」⑥
いきなり上級貴族であることを疑問視された先輩達は驚き顔を見合わせる。
そして時間がたつにつれ怒りで腹の底煮えくり返ってきたのか、プリム先輩は震える声でマリアをなじるのだった。
「どういうつもり……シャンデラ家は別格とでもいいたいの? あなたの家だって河川の行き来を止められたら大変でしょう?」
震える声で聞き返すプリム先輩。
マリアは気丈な態度で言葉を返す。
「あなたにそれができるなら」
「で、できるわよ! 親に頼めばいくらシャンデラ家の船だろうと――」
そこまで言い切ったプリム先輩の言葉をマリアは強い言葉で制した。
「バカタレ、本当に言っている意味を分かっていないのね」
「ば、バカ!?」
「――親に頼めば。だから偉いのは親であってあなたじゃないのよ、なんで偉そうにできるのか理解に苦しむわ」
「なぁ!?」
驚くプリム先輩と他の上級貴族の生徒たち。
マリアは「そもそも」と前置きした上で説教を続ける。
「上だの下だの生まれで優劣付けようってのがまず間違いなのよ。自分の力で何かを成し遂げた人だけ胸を張りなさい……それでもさっきの発言はいきすぎていると思うけど」
静かに、ゆっくりと諭すようなマリアの声音。
それは我が子をしかる母にも似た口調だった。
「それを言ったら貴方も同じじゃ……」
「そうよ」
「そうよって、開き直り!?」
「だから! 私もこの子達も! 同じスタートラインに立っているのよ! 生まれだの家柄だので学問や青春の邪魔するんじゃないっての!」
マリアの激高に上級貴族の生徒たちは挙動不審になる。中には芯を食われたようで押し黙る生徒もいた。
マリアは畳みかけるように自分の胸をドンと叩く。
「いい? 親の力じゃなくて自分で何かを成し遂げた人間はね! 生まれの優劣なんて何の価値もないってハートで分かるものよ!」
「「――ッ!?」」
この言葉が意外に響いたのか大半の上級貴族の生徒は押し黙ってしまった。
しかし、リーダー格であるプリム先輩だけは「不満」とばかりにギャーギャーとわめきだした。
「いきなり出てきて偉そうに! 貴方は私と同じ上級貴族でしょ、下級貴族をかばう理由が無いじゃないの! 下の人間よ!?」
その言葉にマリアは真顔で答える。
「同級生に上も下もないけど、仮に上の人間だったら下の人間を守ってあげるのが普通じゃない?」
マリアは当然のようにサラリと言ってのけた。
余談だが、弟たちとガキ大将の時もマリアが割って入り同じような言葉でお母さんのようにガキ大将を諭した。完全に子供のケンカに入ってくるお母さんである。
マリアの真摯な言葉が通じたのか、今ではガキ大将は弟たちとすっかり打ち解け、彼はマリアの事を「姉さん」とまで慕うようになったという。
閑話休題。
あまりのド正論をノータイムで言われついに態度のでかいかったプリム先輩も狼狽える。
「う、うるさい! うるさいうるさい!」
狼狽えるというよりヒステリー気味に暴れ出したプリム先輩。
おそらく「自分の力で何かを成し遂げたことがない」その言葉が堪えたのだろう。
ぐうの音も出ない正論に癇癪を起した子供のようになった彼女。
ついには暴力……実力行使に出ようとしてきた。
「これは?」
「魔法です! マリアさん!」
「ま、魔法って……人に向かって使っていいの!?」
同級生の「魔法」という言葉に身構えるマリア。
見境なくなっているプリムは指先に炎の渦をまとい出す。
頬骨や指先といった皮膚の薄い部分が渇き、痛みを覚えるほどの灼熱。
人を殺せるであろう本気の魔法。
他の上級貴族の生徒たちも驚きを隠せずにいた。
「そんなことして取り返しがつかなくなるわよ! 両親が悲しむことはやめなさい!」
「うるさい! 親は……関係ないでしょうが!」
なお取り乱すプリム先輩。
マリアはかばう姿勢を崩さない、そして彼女のことを説得しようと声を張り上げ続ける――その時であった。
「わっふ~ん!」
※次回も明日19時頃投稿します
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