四話「コボルトの赤ちゃんを鍛えます!」⑦
※タイトルを変えてみました
今後もタイトル、あらすじなど変わるかもしれません。ご了承ください
そのやり取りをみたマリアは思わず吹き出してしまった。
「モフ丸が最初っからじゃれるって事はあなた悪人じゃないみたいね」
笑われたギンタローは頬を紅潮させ心外といった顔つきになる。
「我は悪い亜人ぞ……なんせこれから悪いことをするのだからな――」
そしてギンタローはその流れでマリアの肩を抱き抱えようとした。
「かの竜族の王子でも手に入れられなかった物を手に入れる。羨望はやがて信仰へと昇華する。利用することを許されよマリア・シャンデラ」
「わっふ!」
しかし、抱き抱えようとしたギンタローに「僕も混ぜて」と言わんばかりのはしゃぎっぷりでモフ丸が彼に飛びかかる。
「ってだから耳はやめんか! ち、力が抜け――」
「わっふわっふわっふ!」
「だ、ダメだ! 解ける……我が幻術が解けてしまう――」
ギンタローの耳に甘噛みしながらモフ丸はほんのり青白く輝きだした。
そして――
「その光は何事ぞ!? って、霧が晴れていく!?」
「わっふ!」
「ちょ、あ、だ、ダメだ……」
その言葉と同時に耐えきれなくなったかのようにギンタローはポンと弾け、煙が立ちこめる。
いきなり爆発しマリアも驚き地面に尻餅を付いてしまった。
「きゃ! ど、どうしたの!? なにが起きたの!?」
爆発した地面が収集とドライアイスのような煙が立ちこめている。
マリアは爆発箇所をなにが起きたと目を凝らして見やると、その煙の中には――
「うぅ、しまった。幻術が解けてしまったぁ」
「えぇ!? 子ギツネ!?」
ちんちくりんの子ギツネがそこに鎮座していた。
動揺するマリア。
子ギツネと化したギンタローは頭を抱えて怯えている。
「うぅ、なんたることかや……かような弱い姿を見られたらまた信仰心が……信仰心が薄れてしまう……」
プルプル震えるギンタローは後悔している。
「キバの狙うおなごを手に入れれば力を取り戻せると考えバチがあたったのか……」
しかしマリアは彼の声など全く聞いてはいなかった。目を大きく見開いてマジマジとギンタローの全身を眺めている。
ギンタローは涙目で卑屈になっていた。
「お主も我のことをバカにするのであろう、ロクの地で奉られていたのがこんなちっぽけなキツネだったなんて」
「――いいじゃない」
「えあ?」
いきなりの肯定に目を丸くするギンタロー。
マリアの目は輝いていた。
「いいじゃない! 一見弱そう、モフモフした毛並み! 条件を満たしているわ!」
「はて? 条件とな?」
マリアはギンタローを抱き抱えると顔面に肉薄して尋ねる。
「ところであなた魔法は使えるの? 使えるわよね! 使っていたっぽいもん!」
「ま、まぁ、魔力を貯めれば幻術などは一通り……」
矢継ぎ早に特技の確認をするマリアに気圧されるギンタロー。
もはや新手の圧迫面接であった。
「やった、待望の補助魔法使いモンスター」
足りなかったピースが埋まったマリア、ご満悦である。
キョトンとしているギンタローなど意に介さず彼女は一方的に要求してきた。
「採用! あなた採用よギンタロー君!」
「さ、採用?」
「そう! あなた私にテイムされて護衛になりなさい!」
まさかのスカウトにギンタローは困り顔になった。
「しかし、我は信仰心を失い、大がかりな幻術を使うには一日一回の制限がある……」
「信仰心? 制限? 関係ないわ! 他人があてにならないなら自分を鍛えればいいじゃない!」
「こんな弱々しい我をか? 護衛ならば他の妖精系モンスターの方がいいのでは……」
「そこがいいのよ! 弱々しくとも確かな実力! 油断を誘えるじゃないの!」
「っ!?」
威厳のない子ギツネ姿がコンプレックスだったギンタロー。
彼の抱えていた悩みは目の前にいるマリアはすべて受け入れると言い切ったのだ。
「う、うおぉ……」
ギンタローの表情は晴れやかになる。
先ほどの霧が晴れ射し込む陽の光に照らされそれはそれは輝いて見えた。
「どうかな?」
「わ、我は……」
ギンタローが答える前にモフ丸が吠えだした。まるで彼の気持ちを代弁するかのように。
「わっふわっふ!」
「お主も我を迎え入れてくれるのか……」
「わっふっふ~ん!」
「あ、ちょっとだから耳は……はふん」
耳をかじられ悶えるギンタローはマリアを見やる。
彼女は慈愛に満ちた暖かい笑みでモフ丸とギンタローを見つめていた。
「その目は……」
自分の事を必要としている、頼りにしている人間のまなざし。
遠いロクの地で落ちぶれてから久しく受けたことのない暖かい期待。
ありのままの姿を受け入れてくれる人間に初めて出会えたギンタローはフルフルと震え出す。
それは恐怖心ではなく武者震いのソレだった。
「……」
「わふ?」
「…………あい分かり申した。このギンタロー、マリア殿に忠誠を誓おう。これからよろしくなモフ丸殿」
「わっふ!」
「も、モフ丸殿! 嬉しいのはわかったから耳はやめてぇ……」
じゃれあう二匹を目にしてマリアは満足げに頷いた。
(仲も良いしいい感じじゃない、このまま目指せ! 死亡フラグ回避!)
しかし、この状況を喜ばしく思わない男が一名いることをマリアは知る由もなかった。
※次回も明日19時頃投稿します
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