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四話「コボルトの赤ちゃんを鍛えます!」⑥



「何でしょうか、か。存外鈍いのぅ」



 ちなみにマリア、色恋沙汰に関しては極端に疎い。


 母性あふれる性格で男子から密かに人気だった彼女。


 しかし数々のアプローチをことごとく無自覚に玉砕し、影で「撃墜王」または「ステルス戦闘機マリア」とまで呼ばれていたという。


 そんなわけで誘惑を誘惑とも思わないマリア。


 彼女はいきなり声をかけてきたことから、彼をこう解釈した。



「あ、もしかして公園のガイドさんですか?」



 公園のガイドさん。


 史跡のある大きな公園や歴史的建造物のある場所にたまに見かける存在。


 来訪客に公園や建造物の成り立ちから周辺情報まで教えてくれる公務員である。


 基本壮年のおじいさんが多く一度捕まったら最後、長い解説が始まり予定が狂わされてしまうことが多々ある……しかも善意なのでなかなか断りにくい。


 目が合ったら近寄ってきてバトルもせず二十分テキストを読ませてくるポ○モントレーナーと言ったらわかりやすいかもしれない。


 閑話休題。



「が、がいどとな?」



 この状況を理解していないどころか自分のことを「公園の解説員」と勘違いしてくる少女にキツネの亜人の表情は暗くなった。



「せっかく力を使ってわざわざ出向いたというのに、少々傷つくのぉ……おっと平常心じゃ」



 そう自分に言い聞かせると彼は自己紹介を始める。



「我の名前はギンタローと申す。ロクの地に根付く妖狐の末裔と聞いたら耳にしたことあるじゃろ?」


「ロクの地? 妖弧? なにそれ?」



 しかしマリア、ゲームで訪れていない土地には疎いためポカンとした顔をするしかない。


 みなさんご存じみたいな雰囲気で切り出したギンタロー。


 まぁまぁの恥をかき相当へこんでいるようで耳がしんなりとしていた。


 気を取り直し、平然を取り繕って彼は言葉を続けようとする。



「故あって今は方々をさまよっている。彼の地に帰るため腐心しているのだが……」


「自分探しの旅ですか?」


「うむ、まぁそんなところか」


「そういうのは就職して土日にやった方がいいですよ、ダラダラやるより二泊三日って時間を決めた方が見つかりやすいものですし」



 無軌道な就職浪人扱いされるギンタロー、しかもマリアの言葉が本気で心配しているのが感じ取れたので余計心にダメージを受ける。



「あ、いや、仕事に就いていない訳では……いや、信仰を失った我など無職にすぎないと言うことか? それを認めたら我が一族の根幹が揺らぐのだが……っ、いかんな」



 このまま彼女のペースに巻き込まれてはダメだとギンタローは再度気を引き締め直す。



「やるではないか、マリアとやら」


「はい?」


「わふ?」



 小首を傾げるマリアとモフ丸にギンタローは警戒心を露わにした。


 相手は竜族の王子キバが気にかける人間。


 言葉巧みに誘惑を避けられていると勘違いし始めた彼は勝負を決めにきた。



「単刀直入に言おうマリア・シャンデラ。我は主が欲しい」


「欲しい?」



 いきなりプロポーズ紛いの発言。


 しかしそれを自分のことだととうてい理解できないマリアは別の解釈をする。



「あぁ、それならそうと遠慮せずおっしゃって下さい、ちょっと多めに作ってきてしまったので」


「え? 多め?」


「だってこのいなり寿司が欲しいんですよね?」


「いなり寿司?」



 彼女の口から飛び出す聞いたことのない単語にキツネの亜人は首を傾げる。


 そんな機微など意に介さずマリアは「気になります?」といなり寿司について解説を始めた。



「この世界じゃポピュラーじゃないかもしれませんが行楽にはこれが定番なんですよ」


「行楽……」



 「おばあちゃんが作ってくれたの甘くて美味しかったな」と昔を懐かしむマリア。


 そういいながら彼女はバスケットからいなり寿司を差し出した。



「さっき言っていた放浪の旅をしていておなかが空いていたんですね。よろしければどうぞ」


「い、いやそういう訳ではないのじゃが……」


「遠慮せずに。私、お腹を空かせている人はほっとけないんですよ」



 「夕飯食べてって」と子供の友達にご飯を勧めるお母さんのようにギンタローをシートに座らせるマリア。


 言われるままギンタローはシートに座る、体育座りで。



「手は洗いましたか? おしぼりで拭いてからじゃないと食中毒とか起こさないでくださいね」


「う、うむ。馳走になる」



 食べなきゃ話が進まないと察したギンタローは大人しくいなり寿司を食べることにした。



「これは油揚げを甘く煮詰めたものか? ロクの地にも似たようなものがあったが……どれどれ」



 ゆっくりと一口。


 次の瞬間ギンタローは目をしばたたかせる。



「こ、これは……甘露なり!」



 あまりの美味さに残りを頬張るとすぐさま次のいなり寿司に手を伸ばす。


 マリアはそれを嬉しそうに眺めていた。



「いい食べっぷりですね~、どんだけお腹空いていたんですか」


「いやいや、こんな美味いもの、いままで供えてもらったこともない」


「お供え?」


「こっちの話じゃ! うましうまし」



 あまりの美味さにキツネの耳がヒョコヒョコ動くギンタロー。


 ハンターはその動きを見逃さなかった。



「わふん……」



 モフ丸は美味しさで躍動しているギンタローのキツネ耳を甘えるようにじゃれつき噛み始める。



「わっふわっふ~」


「あ、そこ我の弱いところ……ってこらこら!」



 ギンタローはモフ丸を抱き抱え優しく地面に降ろしてあげると唾液でビッチョビチョになった耳を袖で拭いた。



「いきなりなんぞ、まったくもう」


「わふ」


「わふではない、いきなり耳は反則であろう」


「わっふ!?」


「違う、だからと言って段階を踏めば良いというものではないからな」



 そのやり取りをみたマリアは思わず吹き出してしまった。

 ※次回も明日19時頃投稿します




 ブクマ・評価などをいただけますととっても嬉しいです。励みになります。


 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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