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四話「コボルトの赤ちゃんを鍛えます!」④


 そんな一悶着が起きていたなど露知らず、散歩を終えたマリアはモフ丸とともに馬車に揺られていた。


 今回目的は買い物ではない。


 そう、目指しているのは市場街ではなく別の場所だった。


 馬車から身を乗り出したマリアは風になびく髪を押さえながら目の前に広がる光景に感嘆の声を上げる。



「見えてきたわよモフ丸」


「わふ?」


「広いでしょ、あそこがエルデリン国立記念公園よ」



 エルデリン国立記念公園。


 爽やかな草原となだらかな丘、白樺の木々とその合間を縫って流れる小川が美しい郊外の観光名所である。


 子供連れにも安心でハイキングやキャンプといった行楽スポットとして有名だ。


 奥の方に行けばモンスターが出てこなくもないが下級のポムスライムや大きめのウサギ種などしかいない。



「設定上は普通の公園だからお父様もお母様も一人で行くのを許してくれたのよね」



 マリアは友人から教わっていた、ここがワルドナゲーム内の「レベル上げの場」であることを。


 この国立公園はゲーム内ではイベントやデートスポットの為だけでなく「イベントフィールドや序盤に戦い損ねたモンスターと出会える場所」の役割もあった。


 アイテムやモンスター図鑑をコンプしたいやりこみプレーヤーへの救済と言っていい場所だろう。


 ゲーム本編が始まってすらいない……序盤のモンスターしか出ない今、赤ちゃんコボルトのモフ丸にとって絶好の狩り場である。



「ここでモフ丸は鍛えればある程度護衛として目処が立つはずね」


「わっふ」


「あとは回復系の魔法が使えるモンスターを仲間にできたらいいんだけど……ここで出会えるかな?」



 マリアは万に一つ怪我をしてしまった場合の事を考えると回復系サポート役も欲しいと考えていた。



「うーん、モフモフしたサポート役っていたかな? ヤタベエさんに相談しようかな?」


「わふぅ? わっふふ?」



 一方モフ丸は彼女の抱えているお弁当入りのバスケットに興味津々である。


 マリアはバスケットにすり寄るモフ丸の喉元をワシャワシャ撫でてやった。



「ご飯はあとでね、空の下で食べるお弁当は格別なんだから。今はこれで我慢して~ホレホレ」


「わっふん」



 そんなスキンシップをしている内にマリアたちはエルデリン国立公園へとたどり着いたのだった。


 風走る草原が暖かな陽を浴び青々と輝いている。


 マリアとモフ丸は馬車から降りると新鮮な空気を胸一杯い吸い込んだ。



「くわぁぁ! サイコー!」


「わぁぁふっ! わっふ~!」



 前世は日々家事で忙しかったマリア。


 あまり縁のない行楽スポットに彼女のテンションは上がっていた。



「家事と勉強のせいで公園でのんびりなんて機会なかったし、ホント新鮮ね。現実世界の近所に似たようなところがあれば毎日通うんだけど」



 そんな益体無いことを考えているマリア、気分は完全にピクニックであった。モフ丸も大草原にはしゃぎ倒している。



「癒されるわね~っと危ない、忘れるところだったわ」



 微笑ましい光景に本来の目的を忘れかけるマリアはモフ丸を呼び止め低レベルモンスターの出る奥の草むらへと進入しようと試みた。



「ゲーム画面じゃ草むらに入ることなんて気にしていなかったけど……実際こうしてみると、いきなり何か出てきそうで怖いわね」



 蛇とかが出てきそうな雰囲気に怯えながらモフ丸としばらく進むと――



 ポムゥ!



 ゴムボールの様に跳ねるポムスライムが現れた。丸い輪郭に怖くない目つき、序盤の雑魚にふさわしい出で立ちだった。


 余談だが……実はこのポムスライム、ワルドナだけにとどまらず色々なシリーズの序盤モンスターとして登場しスピンオフは数知れず。


 「ゲームはやったこと無いけどポムスライムは知っている」という人間もいるほどマスコットとしての地位を確立したモンスターである。


 関係者がゲーム本社に赴いた際は必ずと言っていいほどポムスライム型の缶に入ったクッキーをおみやげに渡され、メディアミックスを数抱える作家は「もらいすぎてキングポムスライムになっちゃうよ」なんて自虐風自慢をしてくるとかしないとか……


 閑話休題、そしてフィクションです。


 マリアはポムスライムを見るや嬉しそうに声を上げモフ丸に声をかける。



「あ、モンスター! やってみよっかモフ丸」


「わっふん!」



 まずはモフ丸の実力を計るためポムスライムと戦わせるマリア。


 コボルトの赤ん坊、ぱっと見は普通の犬と変わりないこの子がどこまで戦えるのか……いや、果たして戦えるのか心配なのであろう。


 彼女は優しくモフ丸をけしかける。



「ムリしないでねモフ丸! ひっかき攻撃!」


「わっふん!」



 某モンスター収集ゲームよろしく技の指示を出すマリア。


 モフ丸は眼光を鋭くすると一目散にポムスライムへと駆けだしていく。



「わっふ!」


「ぽ、ポムゥ!」



 なんと一撃でモフ丸はポムスライムを倒して見せた。ポムスライムはそのままドロップアイテムを残し弾けて消えてしまう。


 その見事な勝利にマリアは目を輝かせて賞賛した。



「すっごいじゃないモフ丸!」


「わふ~ん」



 ドロップアイテムであるポムスライムの核をくわえて持ってくるモフ丸の首をマリアはワシャワシャ撫でてあげる。


 彼女は満面の笑みでモフ丸を抱きかかえた。



「こーんな可愛い子が戦えるのか心配だったけど杞憂だったわね」


「わっふっふ」



 最悪戦えない場合ペットとして普通に飼うことまで考えていたマリアはモフ丸の実力に大層喜んだ。



「よーし、この調子でレベル上げしていくわよ!」


「わっふ!」



 テンションの上がったマリアはさらに雑魚狩りを慣行。一通りのモンスターを倒しモフ丸の得手不得手を把握しようと試みる。



「わっふわっふ! わっふ!」



 モフ丸は遭遇するモンスターをバッタバッタと倒していく。


 得手不得手どころかボールやフリスビーで遊んでいる犬のようにはしゃぎながらの雑魚狩り。しかもバテる気配無し。


 圧倒するモフ丸に先に指示を出すマリアの方が疲れてしまうくらいだった。



「ちょ、ちょっと休憩モフ丸……」


「わふん?」


「すごいわねモフ丸、追いかけるだけで大変だったわ。これだけ元気なら一年後には絶対いい護衛になっているわ! めざせ死亡フラグ回避!」



 鼻息荒く意気込むマリア。


 モフ丸も「よく分からないがご主人が意気込んでいる」と一緒になってやる気を見せていた。

 ※次回も明日19時頃投稿します


 ブクマ・評価などをいただけますととっても嬉しいです。励みになります。

 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 

 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。


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