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四話「コボルトの赤ちゃんを鍛えます!」③


 キバ・イズフィールド・アネデパミ。


 亜人種最上位に位置する竜族。


 その竜族を束ねるのがアネデパミ家であり、その王子たる彼は次期亜人種の王と言っても過言ではない人物である。


 彼の振る舞いは華があり、「導く者はかくあるべき」と生まれながらにして王の素質を持っていた。


 しかし表情に乏しく物事に無関心な素振りをみせる彼を「冷徹な男」と評する人間も少なくはない。


 彼自身も自覚があるようで笑顔を作ることが作業のように思えている節すらある。


 さらに、そのカリスマ性ゆえ色恋話も枚挙に暇がない……無論一方的にだが。


 漂わせる色香は女を惑わせ言い寄る女は数知れない絶世の美男子、それがキバであった。


 そんな彼は今現在――



「……毛?」



 毛について考えていた。


 長時間にわたる警察の取り調べを終えた彼は帰った後も机に座って小一時間首を傾げ続けている。



「……毛とは?」



 もはや哲学者の域。


 もしくは行き過ぎた薄毛治療の研究者。


 考えれば考えるほど謎は深まるばかり、警察の厄介になったことなどすっかり忘れて毛の謎について頭を悩ませていた。


 その様子を幼少期からの付き合いである執事のジョニー(御年65歳)は心配そうに見守っていた。



「坊ちゃま……いったいどうしたというのでしょうか……」



 あんな様子は生まれて始めてだと心配するジョニー。


 彼が見ていることなどお構いなし、キバはうんうん唸り続けた後つぶやいた。



「ファーの付いたコートでダメでしたら全身毛皮? いや、さすがに暑いですし。また警察の方の厄介になるのも申し訳ないですからね」



 ちなみに警察での一幕はこんな感じである――





「こんな陽気の日にファーの付いた服って……職業は?」


「竜族の王子をやっていますが。このファーは――」


「え? 王子? 具体的には何やっているの?」


「主にアネデパミ家……家の事に従事していまして」


「へぇ、じゃあ家事手伝いかな?」


「物心ついたころから公務についていたので……すみません自分でも説明が上手く……」





 口下手なキバが詰め所で困っているところ、慌てて駆け付けた執事のジョニーが説明しなんとか開放され今に至る。


 竜族の王子という立場なのに家事手伝い扱い。


 かなり屈辱的な出来事……のはずなのだが、本人は怒ることなく冷静だった。


 いや、冷静というよりマリアの事で頭の中がいっぱいなのである。


 キバはもう取り調べの事などすっかり忘れて、マリアの「もっと毛が生えたほうが」発言の答えを模索していた。



「体毛濃い方が護衛に向いている状況なのでしょうか? 一体どんな輩に狙われて……皆目見当がつきませんね」



 見当つかないのも無理はない。そんな輩は世界中どこを探しても存在しないのだから。


 彼女は「マリア・シャンデラ」としてのキャラ設定を守るためモフモフした護衛を求めていただけなのだが……彼が真実を知る術は無い。


 誰にも相談できず明後日の方向へ考えるキバだった。



「しかし、マリア・シャンデラ様……よくいる上級貴族の奔放なご令嬢かと思っていましたが先日会った時はまるで別人のようでしたね」



 まさか本当に中身が別になっていることなど知る由もないキバは頬を掻く。



「これも一つの駆け引きというものでしょうか? いえ、どこか違うような」



 ギャップで親近感を抱かせる一種の交渉術かと考えるキバ。


 しかし自分が感じた「温かさ」はそんな小細工ではない、だから興味を引かれたんだと再確認し首を振る。


 彼女の朗らかな笑みを思い出しキバは自然と口角を上げ独り言ちるのだった。



「またいつか彼女の手料理をご馳走になりたいものです……おや?」



 その時である、急に部屋の気温が下がりだす。



「な、なんですかこれは? 坊ちゃま、大丈夫ですか?」



 執事のジョニーが異様な現象に身震いしキバの身を案じた。


 彼に対しキバは「安心して下さい」と冷静に周囲を見渡す。



「わかっています、おそらく彼でしょう」


「彼?」



 慌てることなく虚空を見やるキバ。


 彼の見つめる空間に霧状の物が集まってくるとだんだん人間の形になっていく。


 キバはそれを見て冷静に声をかける。



「何の御用でしょうか」



 霧状の人影がその問いかけに妖艶な声音で答えた。



「ふむ、トカゲの分際で相変わらず勘が良い」



 キバは冷静な態度を崩さず舌戦に応える。



「ついに落命し化けて出たわけではないでしょう、キツネさん」



 霧の人影は雅に笑う、口元に手を当てている姿が見えるかのような笑い方だった。



「フフフ、さあて……亜人族の次期王を名乗る男が何を悩んでおるのか興味がわいただけよ」



 霧の人影は空を移動しキバの頬を撫でると後ろへと回り込んだ。


 そして妖艶な銀髪の男が徐々に浮かび上がってくる。



「我を差し置いて亜人の王を名乗るのも今の内じゃ、我が本来の力を取り戻したら王の座を奪うことなど容易い……努々忘れるでないぞ」


「どうでしょう、信仰心を失って力を無くしたあなたが亜人の王になりでもしたら人間の食い物にされてしまうのは目に見えています」



 ギリッと歯を軋らせる音と共に、少し低い声音で銀髪の男がつぶやく。



「小童め、粋がるなよ」


「お話は以上でしょうか? ではお引き取り下さい」



 突き放すような態度のキバに銀髪の男はカマをかけてみせた。



「我よりも、先ほど口にしていたマリア・シャンデラなるおなごのことが気になるのかえ?」


「っ!?」



 実にわかりやすく動揺したキバに銀髪のキツネ亜人はほくそ笑んだ。



「希代の色男が女の名前をつぶやくとは、どうやらただ事ではないとみたが……ズバリじゃな」


「盗み聞きとは趣味が悪いですよギンタローさん」



 ギンタローと呼ばれたキツネ耳の亜人は「これは野暮なことを聞いたようじゃ」と煽って見せた。


 彼は口に袖を当て言葉を続ける。



「死んだような目をしておった主が興味を持つおなごとは、実におもしろそうじゃ」


「私、そこまで興味を持っている風に見えていましたか?」


「……この天然トカゲが」



 呆れ口調の後、ギンタローはニタリ笑うと自身の考えを口にした。



「数々の浮き名を流した「キバ・イズフィールド・アネデパミ」が狙っているおなごを我が手込めにしたとなればどうなるだろうか……と考えているのだよ」


「あなたがマリア様を?」


「いわゆる寝取りというやつよ、次期亜人の王が求めしおなごを奪う……威光が取り戻せると思わぬか?」


「そうは申されましても私とあの方には特に何というわけでは――」


「愉快愉快……ククク……」



 ギンタローは楽しそうにキツネの耳をピクつかせると再び霧になり空間に漂いだした。



「では吉報を待っておれ、我がそのマリアとやらを手込めにしたという知らせをな」



 それだけ言い残すとギンタローは窓の隙間から外へと出て行ってしまった。


 言いたい放題言われたキバだったがむしろギンタローを心配する素振りを見せる。



「手込め? 「本体」があの姿じゃ難しいかと思いますが……」



 悪友を心配するような口調のキバ。


 しかし妙にそわそわし出し実に落ち着きのない様子を見せると数秒も経たない内におもむろに立ち上がった。



「坊ちゃま、いずこへ?」


「えーっと、散歩です」



 執事のジョニーの問いかけに短く答えるとキバは足早に屋敷から去っていく。



「……ようやく訪れた春ですかな」



 色々察した彼は「坊ちゃま、頑張ってください」と小さく応援してあげたのだった。


 ※次回も明日19時頃投稿します


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 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 

 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。


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