四話「コボルトの赤ちゃんを鍛えます!」②
※前半部分を本日16時頃投稿しております
歩む場所すべてが花道と見間違うような優雅な立ち振る舞い。
そして物事に関心がないような冷めた表情は氷の華を連想させる。
人によっては鼻につくであろう佇まいだが、それが画になる美男子だった。
キバ・イズフィールド・アネデパミ。
亜人族の地位向上に奔走し続け自分が無くなってしまった青年。
そして竜族の王子であり転生前のマリア・シャンデラが熱を上げていた男でもある。
その後、転生したマリアにより振舞われた暖かいマッシュルームスープと亡き母を思わせるような笑顔に次第に興味を持ち始めた。
護衛を申し出るも「モフモフ好きテイマー志望」という設定を遵守したい彼女に「毛が生えていないと……」と断られたイケメンである。
「お久しぶりですね、マリア・シャンデラ様」
氷の微笑。
先日意味わからない理由で護衛を断られたことなど微塵も感じさせない変わらぬ冷静さでキバは現れた。
少し違う点があるとするならば季節にそぐわぬ冬物のコートを着ている事だろう。
首元についているモフモフのファーが実に暑苦しそうに初夏の風になびいていた。
キバはファーの部分を撫でてみせる。
「あの……毛ですが」
「あ、はい」
「わふ?」
会話は二秒で終わった。
どうやら「毛が生えていないと」という謎の断られ方に対して「ファー」という彼なりの答えを見つけたようだ。
ただ、「転生したキャラの設定遵守」で「モフモフモンスターが理想」という理由には辿り着けなかった……まぁ仕方のないことである。
「違いましたか……」
暑さと自分の間違いに気がついた恥ずかしさでほんのり汗ばむキバ。
マリアもマリアで諦めず絡んできた本編重要キャラに困惑し同じように汗ばんでいた。
「あの、違うと申されましても、何がなんだか」
「護衛をお断りされたのはこういう服装の方がいいのかなと思いまして……」
「いえ、そういう理由ではなくてですね。説明しにくいし、私なんかの護衛なんて恐れ多いですし……えーっとそのその……失礼します」
「え、あの……」
「わっふ!」
空気に耐えきれず、モフ丸をつれそそくさと退散するマリアだった。
(どうして!? キバ様めっちゃ絡んでくるんですけど!? そんなに手料理美味しかったの!? 嬉しいけどゴメンナサイ!)
ストーリーが変わってしまうことを避けたいマリアは困り顔でその場を後にするのだった。
一方、取り残されたキバはいつもの無表情のまま直立不動でその場に立ち尽くす。
温かな風に暑苦しそうなファーだけがなびいていた。
「変わったお方だ……まぁ、変わり者といったら私もですが」
今まで自分の誘いを断る女性がいなかったキバ。
しかも護衛という従属に近い申し出を断られた……本来なら屈辱的に思うはずなのだが断られたことに対してある種の新鮮さを感じていた。
そして何より、そんな事を言い出してしまった自分自身を不思議に思っていたのだった。
「何となく断られるかも……そう感じてはいましたがやはり寂しいものですね、はてさて」
次はどうアプローチしようか。
少し楽しくさえなってきたであろうキバ。
そんな時である、近くを通りがかった警官が躊躇うことなく彼に声をかけた。
「ちょっとすみません、こんな陽気の日にコートとか……下ちゃんと履いてる?」
初夏にコート。
露出狂のたぐいと間違われたキバはキョトンとする。
「下着ですか? 履いていますが」
怪訝な顔をする壮年の警察は「密売人」か何かか勘ぐりだし、ポケットに妙な膨らみがないかつぶさに確認すしだす。
「じゃあなんでそんなコートを着ているんだい?」
「毛があった方がいいと言われまして、その……」
「毛?」
「はい、毛です」
身体検査をされ異常はないと確認されるも要領を得ない「毛」発言のキバを見て警察は任意同行を要求する。
「あーうん、続きは詰め所で聞くからね。すまんなこれも仕事なんで」
「仕事の大変さは私もわかります、ご協力させてもらいますね」
天然な反応をするキバは素直に調書を取られることになる。
「これも新鮮ですね」とどこか楽しそうに調書を取られる彼を見て詰め所の警官はどこかのやんごとなき人じゃないか? と察したとか。
※次回も明日19時頃投稿します
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