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牛鬼ミノタウロス

==ヴァルトール帝国・針林ダンジョン・九合目・丘陵地帯==



(いわ)く、その挙動は嵐のように俊敏である。

(いわ)く、その本質は森のように泰然である。

(いわ)く、その猛攻は炎のように苛烈である。

(いわ)く、その肉体は岩のように堅固である。


牛の頭を持ち、鬼のような肉体を誇る怪物。


相対(あいたい)したならば逃走を選ぶ他なしーーーーただ、その魔の手から逃れ得るのであれば。



「へー! あれがミノタウロスかー! 思ったよりもデカいねー! テンション上がるねー、ニアくん!」



かつて対峙したキングエイプよりも大きく強靭な肉体、理性を失った赤い瞳、凶悪な二本の角。

洞窟から出て来る神話級のモンスターを除けば、恐らく“それ”が針林ダンジョンにおける生態系の頂点だ。


ーーミノタウロス……実際に目の当たりにすると迫力が違う。


遠目に見ているだけで、されるがままに恐怖を押し付けられる。普通に考えれば勝てる気はしない。そんな怪物が十体以上も現れたのだ。


にもかかわらずーーーー心の奥底からは言い知れぬ高揚感が湧き上がっていた。



「そうだね、リップ……! やっとここまで来たって感じだ」



僕の言葉が思惑通りだったのか、それとも予想外だったのか、彼女はピクリと眉を動かしたあとにクシャっと笑う。



「約束通り雑魚はアタシが引き受けるから、ニアくんはバンバン魔法撃っちゃって! ()っちゃって! なんちゃって!」


「ああ! 任された!」



ようやく目視でケンタウロスの動きが確認出来るほどの距離まで来た。数はざっと十六体、その内の六体が僕達に標準を絞っている。


やはりと言うべきか先に前線を押し上げてくれていたフロウ一行(いっこう)矛先(ほこさき)が集中していた。

その上、彼らがこのままミノタウロスとぶつかればほぼ確実に潰されるだろう。


ーーだからこそ、その前に僕達が本陣を叩く!


ミノタウロスの数は目算で十二体。

半数がケンタウロスを守るように寄り添い、残りの六体が丘を下り始めた。


その内、こっちに向かって来ているのは二体。

僕とリップで一体ずつ、条件は悪くない。


ーーとは言っても、ケンタウロス六体分の矢と周囲のモンスターを退けながら戦うのは骨が折れそうだ。


しかしもともと悪条件は承知の上、差し当たっての問題は獄雷閃が通用するのかどうか。

そんなことを考えているうちに、相手方が痺れを切らして先の一手を放つ。



「土壁!」



こちらに狙いとタイミングを揃えた六本の矢が開戦の合図となった。土壁の左右から一斉に前方へと飛び出した僕とリップ。


その目に映った二体のミノタウロスは迷いなく僕らを見据え突進してくる。

すくみそうになった足を今一度奮い立たせ、僕は引き続き丘の上を目指す。


ーー獄雷閃の射程距離まで、時間にしてあと十秒……九……八……七……



<<まだその時ではない、危機に備えよ>>



はやる気持ちに喝を入れるよう、警告が頭の中に響く。

心の中のカウントダウンと対峙するミノタウロスだけに集中すれば丘上から狙いを澄ませた矢が飛来するのだ。


ーー心の声にばかり頼ってちゃダメだ。自分自身の観察力、危機管理能力を高めないとこの先へは進めない!


ミノタウロスを警戒しながら周りを見れば、横槍を入れようと数体のハイコボルトやハイオークが近づいて来ていた。



「はっはっはー! お前たちの首はもう飛んでいる!」



それらを難なくあしらうリップ。

本当に頼もしい、そして彼女だけは敵に回したくないとも思うほどに。


その間にもミノタウロスとの距離は着実に近づいてゆく。


ーー三……二……一。


二体のミノタウロスは丸腰、この距離で最も警戒するべきはケンタウロスからの遠距離攻撃だ。こちらからの攻撃の瞬間を、そこに生じるわずかな隙を奴らは狙ってくるに違いない。


ーー丘上からの射線を土壁で完全に遮断してしまおうか? いや……仲間や周りの状況が見えづらくなるのは避けたい。それにここで停滞すれば無数のモンスターが群がってくる。不利になるのはこっちだ。


そして、ミノタウロスが僕のテリトリーへ足を踏み入れた。



「獄雷閃!」



僕は杖を取りながらもスピードを抑えることなく走り続けた。

不規則に動けば、動き続けてさえいれば飛んでくる矢を避けるのはさほど難しくない。


しかし、気にすべき問題はミノタウロスの方だった。

やつらは真っ向から雷撃の閃光を受け止め、多少減速しながらも一心不乱にこちらへ向かってくる。


ーーほ……ほとんど効いてない⁉︎ 体表のぶ厚さはキマイラと同等……それ以上か!


獄雷閃が消失すればまたスピードを上げて詰め寄ってくる二体のミノタウロス。

やつらと僕達の距離は最早その赤い相貌(そうぼう)がこちらを見ていると分かるほど近づいている。



「リップ逃げ……」


「ニアくん、魔法撃ち続けて!」



すくみ足の僕とは対照的にリップはその足を止めなかった。

むしろミノタウロスよりも爛々(らんらん)とした大きな瞳がより一層輝いていた。



「ご……獄雷閃!」



言われるがままに魔法を放つ僕、それをものともせず向かってくるミノタウロス。これ以上の接敵は危険だと誰もが思ったその時ーーーーうち一体が突如動きを止める。



「硬い敵は目を狙う、これ常識よー」



悲痛な咆哮を上げるミノタウロス、その目には槍が突き立っていた。

獄雷閃によって遮られた視界の中でリップが先手を打ったのだ。


ーー経験に裏付けられた戦闘知識とセンス、今の僕に無いものを彼女は持ってる。本当に凄い……!


歳はそう変わらないのにもかかわらず、そこには圧倒的な差を感じさせる。

冷や汗が一滴、頬を伝って(したた)り落ちた。


ーーだから自分には無理と諦める? 臆して逃げる? 一生憧れのまま羨望の眼差しを向け続けるのだろうか? でも……きっと僕はまた手を伸ばしてしまうんだ。性懲りも無く、往生際が悪く、容量良く諦めたり出来ない。そんな自分の弱さを僕は誰より知っている。


僕は無意識に手のひらを見つめた。自分の過去を自分の今を見つめ直すように。そこへ汗の雫が落ちてきて、僕はそれを固く握りしめる。


ーー彼女を見て学ぶんだ。リップから技術を盗んで強くなるんだ。僕は強くなるためにここへ来たんだから……!



スピードを落とさず向かって来たもう一体のミノタウロスは遂に僕らを間合いに(とら)え拳を振り上げる。

しかしーーーーその腕が振り下ろされることはない。



「ふっふっふ……お前がアタシ達を間合いに捉えた時、お前達もまたアタシの間合いに捉えられているのだ!」



リップが投げた自由自在の槍、そこへ巻き付けられたワイヤーが既に二体のミノタウロスを釘付けにしていた。そこへーー



「くらえ、ひっさーつ! 八卦掌底(はっけしょうてい)(じゅう)!」



足元へ素早く潜り込んだリップの掌底がミノタウロスの膝を折る。曲がってはいけない方向に。彼女は変わらず飄々(ひょうひょう)とした様子で歯茎を見せた。



「かーらーの、もう一発ぅ!」



小さな身体から繰り出されたとは思えない重い一撃、重心を低くして全身の体重や運動エネルギーを一点に集めているのだろう。

それでもおよそ覆せるとは思えない体格差だが、その差を埋めているのが彼女の経験、知識、そしてセンスだということは言うまでもない。



「八卦掌底・(ごう)!」



文字通り膝から崩れ落ちるミノタウロスの横腹へさらに強力なリップの一撃が炸裂。

見るからに重量感のある巨躯(きょく)が、軽く腕押しされた暖簾(のれん)のように(ゆが)んでゆっくり地に伏した。


普段の彼女からは想像出来ない圧倒的な力。

追いつきたい目標がまた一つ増えた。


そんなリップを頼もしく思っていたのも束の間ーー



<<時は来た>>



悪寒と共に警告を知らせる声が頭に響く。

考える間もなく次の瞬間。


僕の視界が赤赤(あかあか)と弾け飛んだ。

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