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アノン第四公女様のターン

==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・ブレイザー公爵邸==



夕食を済ませて来た僕とメリーはブレイザー公爵邸に戻ってすぐ各々の自室へと戻った。

いつもなら僕が何度か言葉をかけてかつ、振り返る彼女に何度か手を振ってからじゃないと割り当てられた部屋を使おうともしなかったのに、今日はあっさりと一人にされてしまったので僕はベッドに倒れ込んで考え事をしていた。


ーーあぁ……やっちまった…………めちゃくちゃ気まずい……それどころの話じゃない。僕自身を見て欲しいなんて思ったばっかりに、もう終わったかもしれない。明日からどんな顔してメリーと会えばいいか分からない。



「でも……それでも」



そんな僕の(つぶや)きにまるで呼応するかのように扉が三度ノックされる音が響いた。



「ニア様、少しだけよろしいでしょうか?」



扉の向こうにいるのはこの屋敷の第四公女アノン・ブレイザーだ。彼女が僕に向けた声もまたこちらを探るような丁寧で慎重なものだった。それを断る理由もなく僕は応える。



「ああ大丈夫だよ」


「それでは」



僕からの言葉を受けてアノンが扉を開ける。自分の家だというのに変に気まずそうにゆっくりと。

顔を合わせた彼女は相変わらず美しい花顔(かがん)をしていて、それでいて少し寂しげに微笑んだ。



「その……メリーと何かありました?」



彼女の言葉に少し胸が痛む。そして女性の(かん)というのは心底恐ろしいものだと実感する。



「いやアノンに話すようなことは何も」


(わたくし)に話せないこと……ニア様はお優しいですから、それは私だけでなく誰にも相談出来ないことなのではありませんか?」



そう言われて気付く、女性の勘ではなく“アノンの勘”が鋭いのだと。僕は観念して全てを彼女に打ち明けることにした。



「アノンはすごいなぁ……」


「いえ、(わたくし)は愛するニア様のことだから分かるのですよ」



彼女はそう言って僕の隣に腰かける。僕の太ももにゆっくりと手が置かれた。彼女は優しくさするようにその指先を動かす。

その手に注目しているとアノンは僕の肩に頭を乗せ言った。



(わたくし)、ニア様が思っているよりも(したた)かな女なんです……」


「そう……かな?」


「ええ、だって今の状況を(わたくし)はチャンスと感じているんですもの」



アノンは体重を乗せてそのまま僕をベッドに押し倒す。それに驚いて彼女の顔を見るといつもの清廉潔白(せいれんけっぱく)な表情は欠片(かけら)も無く、淫靡(いんび)妖艶(ようえん)な笑みがそこにあった。



「ア……ノン?」


「安心してくださいませ、貴方様が嫌がることは決して致しません……ただ沈黙は肯定とさせて頂きますが」



アノンの綺麗な顔が段々と近づいてくる。化粧の映えた目元、赤らんだ頬、柔らかそうな唇。重心を支えていない方の手を僕の顎に添え、彼女は目を閉じる。

僕の唇とアノンの唇が触れ合う直前ーーーー僕は顔を伏せ彼女の胸に飛び込むように起き上がりそのまま抱きしめた。



「ごめん、アノン。君の気持ちは嬉しい、僕はアノンのこともメリーと同じくらい大切だ。でも、だからこそ今はまだ君の気持ちに応えられない。こんな中途半端な想いで応えるべきじゃないと思うんだ」


「ニア様…………貴方様は本当にお優しいですね」



僕より身長が高い彼女に抱きつくと恋人というよりは姉弟(きょうだい)のようで、アノンも片手を腰に回してもう一方は僕の頭を優しく撫でていた。それ以上僕に何を聞くでもなく彼女は僕の肩に顔を(うず)めている。



「君にとっては結局中途半端なままで……本当にごめん」


「いいのですよ、待ち続けた四年間に比べれば今こうしていることが大きな進歩ですから。そして今ニア様が心からメリーに想いを寄せていることも理解しています。だからもう謝らないで下さい」


「ああ……ありがとう」



二人きり、少し薄暗い部屋、静寂に包まれたまま時間だけが過ぎてゆく。思い立って僕がつぶやく。



「メリーとのこと……何も聞かないの?」


「はい、私からは何も聞きません。ニア様が話したい時に話したいことをお話しになってくださいませ」


「そっか」


「はい」



僕はアノンの腕の中に抱かれたまま話す内容を整理する。

メリーの出生、ハルさんという存在がいたこと、それを人づてで聞いたこと、黙っていられずメリーに打ち明けたこと。


出来るだけ彼女自身が話すべき内容は伏せて僕とメリーの今現在をアノンに話す。



「メリーには昔……お姉さんのような人がいて、その面影を僕に見ている。メリーが僕に依存しているのはその女性の代わりなんだ」


「それは本人から直接聞いたのですか?」


「いや……メリーの育ての親みたいな人から」


「なるほど、それを聞いてニア様はショックを受けてしまわれたと」



ーー僕はショックだったのかな? あの時の感情は……もっとこう……前向きだったはずだ。



「いや……僕は嬉しかったんだと思う。僕が知らないメリーを知ることが出来て、もっと仲良くなれる。この先もっと心から繋がり合えるんじゃないか……って」


「ええ、お二人が将来を見据えるのであれば、そのわだかまりはいずれ解消しなければならない課題だと(わたくし)もそう思いますわ」


「ああ」



アノンの言葉を聞いて僕の考えも少しずつまとまっていく。


ーーそうだ、僕は嬉しかったんだ。メリーとずっと一緒にいるために真実を受け入れたい。その覚悟はある。



「であれば、メリーに貴方様に対する気持ちを彼女自身の言葉で聞く必要があるのではありませんか?」


「その通りだね……ああ、その通りだ」



ーーメリーが今僕に何を思っているのか、まだ僕はメリー自身の言葉で聞いてない。聞かなくちゃいけない。



「お考えはまとまったようですね」


「ああ、ちゃんとメリーの口からメリーの言葉でメリーの気持ちを聞く」


「ええ、(わたくし)もそれがよろしいかと思います」



アノンに肯定されると得体の知れない自信が心の底から湧いて来る。今なら何でも出来るような気さえする。



「ありがとうアノン」


「はい……(わたくし)は貴方様の婚約者。どんな時もニア様の味方でございますから」




==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・ブレイザー公爵邸==



僕の決意とは裏腹に、メリーはあれから僕と話すことを避け続けていた。

隣で食事をとっていても会話も無ければ目を合わせることさえ無い。一緒に入ろうとも言ってこない。寝室へ忍び込んでくることもない。


話しかけようとすればあからさまに避けられる。



「メリー!」


「ごめん今日は疲れてるから」



なんて一蹴(いっしゅう)されてしまうので、僕の決意も次第に(にぶ)る。その度にアノンに慰められている。情けない。


気づけば早くも針林ダンジョン最深部への遠征“前日”となっていた。

あれから復帰したリヨンさんとの打ち合わせ、他パーティとの決めごと、魔法の修練で目標だった氷撃や岩撃、さらに中級の豪炎撃修得を済ませた。


それでも僕とメリーはいまだに関係の修復を果たせぬままでいたのだった。

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