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猿の逆襲

==針林(しんりん)ダンジョン・七合目・テールエイプの巣==



獄雷撃(ごくらいげき)の直撃を二度受けてなお、歩みを止めないキングエイプ。

ヤツは満身創痍(まんしんそうい)巨躯(きょく)(むち)を打って迫り来る。


ーーその執念恐るべし……僕も全身全霊(ぜんしんぜんれい)をもって迎え撃とう!


僕は息を飲んで、決着の一撃を放つ。



「これで最後だ! 獄雷げ……っ!」



最後の詠唱を終えるまさにその直前ーー嫌な予感が全身を伝う。


背後からの急襲、複数のテールエイプ達が洞窟からこちらの様子を(うかが)っていたのだ。

彼らは魔導書を持つ僕の左手を狙い攻撃を始めた。



「投石……!」



背後からの投石にいち早く気づいた僕は身をかがめて回避行動を取る。

大した攻撃ではないが、魔法の詠唱には多大なる影響を与えた。


ーーその間にもキングエイプは少しずつ距離を縮めている。


そのままテールエイプの巣を背にしたままでは戦えない。

僕は目の前に突き立てた槍をキングエイプに投げつけ、最高速度で背後に回り込んだ。


ーー正確には回り込もうとした。


しかし、キングエイプは槍を避けることもせずこちらへ一心不乱に攻撃を仕掛けて来たのだ。



「ーーーーッ」


「やばいっ……」



地面ごと払い()けるように、キングエイプの長く硬い腕が僕の動きをとらえる。

もし直撃すれば一撃で形勢逆転、待つのは敗北のみ。


ーー今から後ろへ回避しても間に合わない……行くべき道は一つ!



「前だぁああああああああああ!」



僕は決死の覚悟でキングエイプの(ふところ)へ潜り込む。

リーチの長い腕がかえって(あだ)となり、攻撃は不発。


この位置なら投石も当たらない。

キングエイプは腕を叩きつけるために腕を振り上げている。


僕は槍が刺さった胴体を狙って魔法の詠唱を開始。



炎撃(えんげき)っ……!」



火球はキングエイプの裂傷(れっしょう)を拡げ、確かなダメージに振り下ろす手を止める。


ーーよし、効いてる……そのままたたみかけるぞ!



「炎撃……炎撃……炎撃……炎撃!」



炎は着実に敵モンスターの巨体を内外から焼き尽くした。

しかし、火だるまになりながらもなお倒れない。


ーー決定的な一撃が必要だ。


僕は突き立てた槍に向かって跳躍(ちょうやく)、敵の硬い皮膚に押し込むようにして突撃した。

反撃はない、キングエイプはそのまま仰向けに倒れ込む。


それでもなお、再び立ちあがろうとしている。

僕は再び距離をとって集中力を高めた。


ーー確実にとどめを差す!



獄雷撃(ごくらいげき)……」



冷静に、安らかに、丁重に。

僕は決死の戦いを繰り広げた相手を(とむら)うように決着の一撃を放つ。



「ーーーーッ」



キングエイプの断末魔(だんまつま)は獄雷撃の轟音にかき消されて聞こえなくなった。

その魔力が注がれる感覚に勝利の喜びを重ねて実感する。


ーー敵ながら恐るべき執念だった。


幸いなことにそれ以上の増援は無し。

残されたテールエイプは降参ーーとばかりに、隠した武器を洞窟から放り投げて逃走した。



「あった……僕の剣! それと黒い杖に、二刀一対の真っ赤な双剣か…………さすがに持ちきれないなぁ」



ーー持ち主が居るんだろうから冒険者ギルドまで持ち帰ってあげたいけど……


ハイコボルトからドロップした長槍と合わせると相当な荷物だ。



「流石に全部は持っていけないなぁ……」


「ニア君! やっぱりそうだ、あの赤黒い雷撃…………本当に君の魔法だったのね……!」



ーーここへ来てから既に一度聞いた女性の声、小さな子供に話しかけるような穏やかで優しい声色だ。


突然の来訪者に僕は慌てて振り返る。

そこにいたのは昼間に会った冒険者パーティの赤い髪の女性。



「あ……あなたはあの時の、確か……ニスカさん?」


「そう、ニスカよ。君にこんなことを頼むのは本当に情けないんだけど、約束通り助けて欲しいの! ローが……仲間達が大変なのっ……!」



必死さに長い赤髪が跳ねる。彼女はもともと露出の多い軽装だったが、その全身に傷を負いさらに危うい服装になっていた。


目のやり場に困ったが、そんなことを考えていられる状況ではないということくらい僕にも分かる。



「お……落ち着いてください。何があったんです?」


「突然見たこともないモンスターに襲われて……! ローは“キマイラ”だって言ってた」


「キ……キマイラ!」



キマイラは獅子(しし)山羊(やぎ)の双頭を持つ幻獣。

十メートルを超える巨体を持ち、屈強な四つ脚と背中の翼で素早い攻撃を仕掛けて来るという。その圧倒的な戦闘力に加え、火や雷の魔法まで使えるとも言われている。


主に針林ダンジョンの“最深部”でのみ出現が確認されているモンスターだ。


ーーけれど,まだ最深部まではかなり距離があるはず……!



「皆さんはダンジョンの深部まで行っているのでしょうか……今から行って間に合うかどうか……」


「いいえ、すぐ近くなのよ! いつもはハイコボルト、ハイオーク、キングエイプあたりしか出ないはずこの場所で突然っ……!」



ーーこのすぐ近く……!



「昼間はバカにするような態度をとってごめんなさい……恥を承知で私達を助けてくれないかしら……!」



話を聞く限り、事態は急を有する。

しかし即決するにはいささか話が大き過ぎる。


ーーあの魔法使い、アルフのことだってまだ許したわけじゃない。けど……そこにはメリーだっている。


ダンジョン最深部のモンスター、キマイラ。

今日冒険を始めたばかりの僕が対峙していい相手ではないだろう。


それでも、助けを求めている人を置き去りにしていくことは出来そうにない。それに加えて心の奥底からはもっと“あの魔法”を試したいという好奇心が湧き上がっていた。


ーー幻獣と呼ばれるような相手にも“獄雷撃が通用するのか”どうか。



「助けて……お礼は何でもするからっ……!」



何度も必死に懇願(こんがん)する赤髪の女性ニスカ。

そんな彼女を放って帰れば男も(すた)るというもの。



「分かりました……案内してください……!」



僕の心には不安が半分、好奇心がもう半分。

それでも刻一刻と僕の知的好奇心が不安を塗りつぶしていくのを感じる。


ーーついでに帰り道も案内してもらおう、そうしよう。


帰路を探し始めてから小一時間ほど。

あと数時間もしないうちに日が暮れてしまうだろう。


僕の初めての冒険は思いもよらぬ方向へ向かうのだった。

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