その名は獄雷撃
==針林ダンジョン・七合目・テールエイプの巣==
二体分の地響き、二体分の咆哮。
「ーーーーッ」
心なしか二体のキングエイプは邪悪な笑みを浮かべているように見える。
まだ距離は遠い。
こちらからもまだ手出しは出来ないーーが、準備は既に万端だ。
「いつでも来い! 二体いっぺんに倒してやる!」
魔導書は輝きに満ちている。
迫り来る強敵に、一刻も早く雷撃をぶちかましたいと言わんばかりに。
対峙する巨大モンスターも躊躇なく向かって来た。
生い茂る針の木をバッタバッタと薙ぎ倒しながら二体のキングエイプは突進を続ける。
大地を視認出来る範囲でしか魔法陣は生成出来ない。
その範囲にもうすぐ奴らが足を踏み入れる。
「あと三歩、あと二歩、あと一歩…………今だ!」
ーーそして、一発目の雷撃を持って激戦の火蓋が切って落とされた。
「いけ! 雷撃!」
その一撃は見事に二体のキングエイプを同時に捉える。
無邪気に振るわれた凶々しき暴力に立ち止まって耐えるモンスター達。
その巨躯は全体的に焼け焦げ、雷撃のダメージを確かに感じさせている。
ーー効いてる! 次!
「ーーーーッ」
猛り狂うモンスターが轟き叫ぶ。
まだ距離は百メートル近くあろうというところ、それでも咆哮の余波が向かい風となって届く。そしてーー
二体のうち一体のキングエイプが先行。
もう一体は雷撃の効果範囲に巻き込まれない距離をとって向かって来る。
ーーもう対応された……! でも、まだニ発は打てる距離だ。余裕はある!
「もう一発、雷撃っ」
二発目は先行する“一体だけ”に直撃、大ダメージを受けた巨体が体勢を崩す。
後に続くもう一体はその瀕死のキングエイプを担いで向かって来る。
ーーその顔が直視できるほどに距離が縮まった。
後続を撃破するには少なくともあと二発の雷撃を当てる必要がある。
「起動力を落とすにしても、あともう一発……」
それが出来なければ今度はこっちが奴らの突進の餌食になるだろう。
次の雷撃を放つまでの魔力安定期間、集中力を持ち直すまでのクールタイムが惜しい。
ーーもっと速く、一秒でも速く!
「雷撃!」
仲間の巨体を担ぐキングエイプを確かに捉えた。
ーーしかし、ヤツは健在だった。
それどころかその身体はほとんど無傷に近い。
「手応えはあったのに……どうして!」
答えはヤツの下敷きになった骸にあった。
後続のキングエイプは先行した一体の巨体を“盾”にして、雷撃の猛攻を防いだのである。
ーーあいつ……仲間を盾に! してやられた!
「ーーーーッ」
勝ち誇ったような咆哮。
キングエイプの表情は確かにニヤリと口角を上げた。
ーーその距離は既に五十メートルを切っている。
既にヤツらの射程圏内が近い。
まず、あと一発を当てられなければ待っているのは確実な“敗北”だ。
生唾をごくりと飲み込む。
ただ、僕は意外なほど落ち着いていた。
ーー焦りは集中の妨げになる。
ここまでの経験でそれが理解出来ていた。
だからこそ次なる一発のために最速で準備を整える。
ーーもっと速く、もっと……
ふと、頭の中に直接イメージが湧く。
ーー雷撃の固定概念を捨てる。
低位の魔法“雷撃”を発動しようとして繰り出される“赤黒い雷撃系の閃光”。
だからこそ、あれを「雷撃」と呼んではいるが確かに二つの魔法はそれぞれ別のものであるはずだ。
それらを混同しているから、魔法の発動にラグが発生する。
ーーそうか、“雷撃”を発動しようとするんじゃない。あの“地獄の雷撃”そのものを呼び出すんだ。
僕はイメージの再構築を図る。
その間、約二秒ほど。
仲間の屍を超えて襲い来るキングエイプ。
ヤツはさらにスピードを上げ、五秒間のクールタイムを待つ猶予を与えないつもりだ。
その距離はもう目と鼻の先。
ーーそれでもあくまで冷静に……
イメージは地の底から立ち昇る“地獄の雷撃”。
母なる神の裁き、怒りの鉄槌、渇き、無類の衝動。
聖女の加護にのみ懇願を許された“地母神の怒り”。
ーーそれは生きとし生けるものの蛮行を許さない。
「獄雷撃」
そう呟くとともに間髪入れず魔法陣が形成。
僕の眼前すれすれを赤黒い雷撃ーーもとい“獄雷撃”が立ち昇る!
僕を射程圏内にとらえ、勝ちを確信していたであろうキングエイプに合計二発目が直撃した。
獄雷撃の効果時間は約十秒ーーヤツはその範囲内をゆっくりと近づいてくる。
「化け物か! いや……化け物には違いないけど!」
赤黒い閃光の中をボロボロになりながら進むキングエイプ。
ーーやがて獄雷撃が余韻を残して消失。
ものの十メートル程の距離で僕らは睨み合った。
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