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The tale  作者: 馴鹿
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一章【臆病者の竜】旅立ち


 誕生日は特別な日だ。

 だけど、窓からそそぐ日差しも鳥の声も、昨日と何ら変わりはない。世界中の人の誕生日ではないから当然だけど。

 それでも階下の母さんや幼馴染の声がどこか弾んでるように聞こえるのは気のせいだろうか。

 

 タオルケットをめくり、普段着に着替える。着古したズボンに黒地のシャツ。どちらも草臥れていたが、胸に編み込まれた赤い心臓の刺繍だけは真新しいままだった。

 どうやっても寝ないアホ毛以外は髪も整え、階段を下った。そこにはいつも通り新聞を読む父さんと、料理を運ぶ母さん。幼馴染のジルは息子の僕より息子らしく振る舞っていた。

 

 「おはよう、リュウト。十六歳の誕生日おめでとう」

 「よっ。これ、誕生日プレゼントな!誕生日おめでとう!」


 そう言ってジルから手渡されたものは小説だった。一月前に本屋さんで見つけたものの僅かに所持金が足りず涙を呑んだ一品だ。嬉しくないはずがなかった。

 ただ、ジルは僕ほど小説が好きな訳じゃない。どちらかと言うとアウトドアなタイプで、加えて興味のない事はあまり覚えていない。それなのに半月前に少し話しただけの小説を覚えてくれたのが嬉しかった。

 目に見えてソワソワしてるジルを見やる。 

 僕は僕に出来る最高の笑顔で言った。

 

 「ありがとう、ジル。嬉しいよ」

 「おう!良いってことよ。代わりに俺の誕生日も奮発しろよ?」

 

 いたずらっぽく笑うジル。本気でそう言ってる訳ではない。そうわかる程には長い付き合いだった。

 ジルの誕生日には何を送ろうか。それまでまだ数ヶ月あるけれど、それを考えるだけで少し頬が緩んだ。


 「ほら、朝ごはんよ。さっさと食べちゃいなさい」

 「そうだぞ。今日は『儀式』の日だからな」

 

 うっ、と僕の心は途端に暗雲に覆われた。父さんは大したことないと笑うけれど、父さんの戦闘力は折り紙付きだ。顔の左半分に奔る三本の傷が物語っている。

 『儀式』。

 このアルス村には十六歳の誕生日に『儀式』と呼ばれる慣習がある。『儀式』と大仰に言っても実際は単なるお使いなのだが、問題はその行き先だった。

 アルス村は周囲を深く険しい山に囲まれた田舎である。一番近い街まで馬車でも三時間はかかり、農業を主な産業としている。村全体が顔見知りなほどに狭く、閉鎖的な村だった。

 閉鎖的な最たる理由は周りを囲む深い山々だ。日中でも薄暗く、毎年遭難者が出る。危険な魔物が出るだとか、お化けが出るだとか、竜が住んでるなんて眉唾物の噂もある程だ。

 とは言え、否、それ故か、周囲を囲う山はこの村の子供たちには格好の遊び場だった。晴れの日は大木を駆け上り、雨の日もぬかるみを踏み抜いて遊んだ。

 それでも魔物が出ることに変わりはない。幼少期、オーガの爪に斬りつけられて以来、僕は半ばトラウマとなって山に近づいたことはなかった。

 だが、そこに行けというのがこの『儀式』なのだ。

 厳密には山の山頂付近にある【竜神の祠】という場所に一人で翼のつけた人形をお供えをしてくること。

 そこから下山するまでが一連の儀式だった。


 「おーい、飯食わないなら俺が食うぞー」

 「あ、コラ、僕のだっての」


 慌ててジルからミル熊のスープを取り返す。ミル熊は芳醇なミルクを出す熊のような魔物だ。一匹で料理一つ分の食材が取れるため、魔物ながらも重宝されていた。

 いつも通りで、いつも通りに楽しい食卓を終えた後は本格的に儀式の準備だ。

 既にお供物は用意してある。頂上への方位磁石も鞄に入れた。子供の頃から育てている花壇の世話もジルに任せた。あと必要なものは僕の覚悟だけだった。


 「早く行ってこいよ。いつまでも【臆病者の竜】なんて称号、持ってたくねーだろ」

 「それ言ってるのジルだけだろ。事実だけど。言われなくても行くよ」

 

 軽口を叩き合いながらもジルの気遣いに心中で感謝した。幼馴染に不甲斐ない姿は見せられない。

 靴紐を結んで、前を見据える。天気は快晴。憎らしいほどの山歩き日和。山へ延びるあぜ道を見据えた。

 

 「プレゼント、儀式から帰ってきたらあげるね」

 「期待しとけよー」


 母さんと父さんが笑って手を振った。その隣でジルも眩い太陽のように笑っていた。母さんのお気に入りの白いスカートが風に揺れる。その風に押されるように僕は出発した。

 

 「行ってきます!」





 

 この時、僕は信じて疑わなかったんだ。儀式を終えた後も、三人が笑って迎えてくれることを。

 朝の日差しが晩の日暮れになって、一日が終わる達成感と少しの哀愁が漂うごく普通の日常が広がることを。

 それが、昼下がりの気怠さが少しの刺激で無くなるみたいに、幻のように消え去るなんて、思っても見なかったんだ。


――――――――――――――――――――――――


威勢よく出発した手前、後戻りは出来ないけれど、幾度後退りしたかわからない。

 一歩歩けば蜘蛛の巣にあたり、二歩歩けば崖崩れ、三歩目は茂みが揺れて兎が出てきた。

 そして今、四歩目の後退りをした。

 


 初めは灰色の大木にぶつかったのだと思った。けれど山に入ってから今まで灰色の樹木はなかったし、加えて妙に生暖かった。

 大木だと思っていたモノがこちらを振り返る。

 僕の身長、百六十五センチ、ほどもある後ろ脚。獲物を睨む金色の眼、何よりも振り向いた額には一本の輝く螺旋状の角があった。

 四足歩行の獣は前脚を大地から放し、二足で立つその姿は視界を覆ってもなお余があった。

 

 「ヴォオオォォォオオ!!!」


 くもぐった獣の咆哮は風圧で僕を吹き飛ばした。背中を正真正銘の大木に打ちつけられた。


 B-下級かきゅう大型魔物 一角灰熊ユニグリズリー

 この山の生態系の頂点に立つ魔物こそ、僕が大木と思ったモノの正体だった。

 

 

 

 魔物。別名【人類の天敵】。

 西暦が5桁を超える以前、突如として何処からか現れた怪物達のことだ。

 既知のどの動物にも当てはまらない容姿や特性、生態を持ち、何より特筆されるのはその凶暴性だった。

 無論、それまでも凶暴な動物はいた。しかし、それらは大半が人間側から不要な手出しをしたり、誤って縄張りに入ることなどに起因するものだ。

 逆に、『好き好んで人を探し出し、捕食や遊び目的ではなく、確固たる殺意と明確な悪意と害意を以って手当たり次第に襲う』動物はいなかった。

 魔物はまさにソレであった。

 彼らは次第にその勢力を伸ばし、人間を、文明を駆逐した。やがて世界は荒廃し、事切れた死体と弾切れの銃火器だけが野に広がった。

 全人口が元の人口の一割を切ったところで人類にも反撃のともしびが燃えた。


 【臨力りんりょく】。

 死に瀕した人間が発揮できる超能力染みたナニカ。

 ある者は無から穀物を生み出し、ある者は万物を断つ剣を生み出し、ある者は不老不死を得た。

 その正体は依然として掴めないが、幾つか確かなことがある。

 一つは危機的な状況、特に死に直結するような状況を一度は体験しなければ発揮できないこと。僕の場合、幼少期にオーガ(これもB-下級大型魔物だ)に斬りつけられたことが該当する。

 逆に、一度でも経験すれば、自在に発揮できるようにる。

 二つ目は、発現の形は千差万別であること。多いのは刀剣や槍など固有武器の出現。或いは炎や水、土などを生み出し操作する能力。回復系も抜かせないだろう。ちなみにジルが僕につけた【臆病者の竜】のあだ名は僕の名前と固有能力から来るものだ。

 三つ目は——



 四足歩行に戻った一角灰熊が突進してきた。踏み込まれた大地は激しい土煙を上げていた。

 額の角が鈍い輝きを放ちながらこちらを睨んだ。


 動け、動け、死ぬぞ!


 お腹に大穴が空く寸前で地面に転がりながら躱す。それでも避け切れずに脇腹から血が流れ出した。オーガの爪に斬られたときを彷彿とさせる熱さは我武者羅に足を動かせた。

 這々の体で一角灰熊と距離を取る。角が木を貫通し、一角灰熊がすぐに動けないことも幸いした。


 頼むからそのままでいてくれ。頼むから。


 熊は無情だった。

 一角灰熊が顔を振り上げると、貫通していた木は聞いたことのない音を響かせながら真っ二つに裂けた。当然角は無傷。それどころかドリルのように時計回りに高速回転している。

 不意にデジャヴを感じた。どこだっただろうか。本物の一角灰熊と遭遇したのはこれが初めての筈だ。

 本物の?なら、偽物は?

 激しく刺激された脳が僕の眼前を白く輝かせた。

 そうだった。思い出した。以前、ジルとある図鑑を読んでいた時のことだ。『魔物図鑑』というシンプルすぎるネーミングの図鑑に、こいつの項目があった。

 その項目に使われていた写真の一角灰熊がちょうど今のようの角を高速回転させていたのだ。

 そして、その下の解説文にはこう書いてあった。

 『一角灰熊は獲物を見つけるとまず突進を仕掛ける。それは角が鉄板をも貫通するほどの威力で、避けるのは至難の技だろう。

もし避けられたとしても、油断してはならない。

特に、角が高速回転してる時は要注意だ』


 一角灰熊の凶悪な角は、時速一八〇キロで撃ち出されるのだから。



 臨力について判明している事の三つ目。

 凶暴なだけの動物に追い込まれるほど全盛期の人類は弱くなかった。故にこれは人類が発達した兵器を持ちながらも滅亡寸前まで追い込まれま理由とも言える。


 それは、魔物はとうの昔から臨力を使いこなしていたという事だ。人間の兵器などより遥かに強力に、より兇悪に。


 ライフルの超遠距離狙撃を躱し、RPG(対戦車砲)や88mm砲だろうがかすり傷しか与えられず、あまつさえ弾き返した。核弾頭てすら死には至らない。

 衛星砲をも地上から撃ち落とし、何重もの合金鋼すら貫く。何千万もの屍の山を踏み潰して歩く。そんな怪物を相手取る兵器は、人類全盛期にも存在しなかった。



 一気に目の焦点が飛来する角に集まる。その速さと反比例して周囲の景色は遅々として進まない。舞い落ちる木の葉すら空中にとどまって見えた。

 躱せない、躱せる訳がない。


 死。


 轟音が響いた。


 

お読みくださりありがとうございました、馴鹿です。わかりにくいところや矛盾点がありましたら、指摘してください。

最後に、このような作品ですがお楽しみになられましたら何よりです。

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