02
「?どうした、もう食べないのか?」
充が、不思議そうに直登の顔を覗き込む。充のこういう、小さな変化にも気付く所はとても良い所だと思うが、今回ばかりは厄介だ。直登は苦笑を浮かべた。
「ああ、今日はあんまりお腹減ってないんだ」
そんな、見え透いた嘘を吐く。けれど、充はその嘘に気付いているのかいないのか、「そうか」としか言わない。直登は小さく息を吐いた。
「直登、大事な話があるの」
母親にそう言われたのは、つい先日。普段通り、学校へ行った帰りだった。改めてそう言われると、なんだか凄く、心配になる。
何?離婚?母の口から告げられる前に、そう聞いてしまおうかとも考えた。
「この前、あなた検査受けたでしょう?」
検査?ああ、確かに受けた。ずっと体調不良が続いていて、病院へ行った時に。
「それが?」
「………」
母親が、言い難そうに口を噤む。なんだ、何なんだ。妙にどきどきする。これが、何かへのときめきか何かからくる動悸なら良かったのだけれど、生憎、どう考えても不安からだ。
「何?すっげぇ重い病気でしたー、とか言わないよな?」
沈黙がどうも痛くて、わざと茶化すような口調で言ってみる。しかし、反応はない。
直登がいい加減痺れを切らした頃に、母親は漸く口を開いた。
「…あなた、癌なんですって」
「は…?」
なんだ?今、何て言った?
「そ、れは…何かの冗談…」
「冗談でなんか、こんな事言えないわ」
厳しい口調でそう言う母親の目には、微かながら涙が溜まっている。それが、今の話を本当だと決定付けていて、直登は生唾を飲み込んだ。
「で、でもさ、癌って言っても抗癌剤治療とか、へたすりゃ手術でもすれば治るだろっ?」
それは、質問というよりも哀願に近かったかもしれない。
癌?どうして俺が。そんな思いが、直登の脳内を駆け巡った。普通通り…そう、本当に普通に、高校生活を送って来たのに。
「転移…してて…」
ぼろぼろと、堰を切ったかのように溢れ出す涙。母親が泣くのを見るのは、これが初めてだった。
もう、何も言わないで。この先、言われる事は分かってしまった。
「…俺、死んじゃうんだな」
口に出して、やっと実感が湧いた。いや、湧いてないのかもしれない。まだどこかで他人事のように考えているのかも。
「そっか…」
涙が出るでもなく、ただ、呆然とするだけだった。
別に、これが俺の運命だというのなら、逆らう気はない。しっかりと受け止めるよ。だけど、どうしても気になる。
神様、もし本当にいるのなら、教えて下さい。どうして、俺だったのですか?