舞散る花弁の中に
時は四月の中旬。もう、桜が散り始める時季だ。
桜とは、なんて早く散ってしまうのだろう。直登は、教室の窓からぼんやりと外を眺め、ふとそんな事を思った。
「ナオ」
不意に背後から呼ばれ、振り向く。誰か、なんて見なくても分かる。
「何?充」
新井充。直登のクラスメイトであり、幼少期からの幼馴染みだ。
「何、じゃなくて。授業もう終わってるんだけど?」
「え、嘘」
「ほんと。いつまでそうやって座ってるつもり?」
充が呆れたように溜息を吐く。
もう授業が終わったという事は、今は昼休み。
こんな事してる場合じゃない、早く弁当食べないと。充はそう言って、直登を急かした。
「あれ?」
直登は、こて、と首を傾げる。
「なんで外に出んの?」
弁当食べるだけなのに。
いつの間にか、充は外へと直登を連れ出していた。ぶわっ、と視界を遮るように桜が舞う。
「桜、綺麗だったから、たまには外で食べようかと思って」
にっこりと、女子が見ていたらきゃあきゃあ騒ぎそうな顔で、充は笑った。
充は、昔から格好良くて、よくモテた。直登も別にモテなかった訳ではないが、充程ではない。どちらかというと、可愛い部類なのだ。
「綺麗だろ?桜」
顔が良い上、気遣いまで出来る充を、直登は本当に良い友人だと思う。
「うん。でも、弁当に花弁が入っちゃいそうだね」
「あ、確かに」
直登の一言で、二人は同時に吹き出した。
笑いながら、こんな幸せな日々がずっと続けばいいのに、と思う。こんな事、普通に生活していたら考えもしないのだろうけど、直登は思わずにはいられなかった。
こんな風に、学校に来て、充と笑い合って。特別な事なんていらない。ただ、普通の日常を送る事が出来れば、それだけで良かったのに。どうして、俺の日常を…幸せを、神様は奪ってしまったのですか?
直登は、半分しか食べていない弁当の蓋を、そっと閉めた。