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オラカイト編1話

真夜中。

 ルエラ姫の寝室のバルコニーで、オレとルエラ姫は手を繋いで満月を見上げていた。


 隣のルエラ姫は、黒いリボンカチューシャをつけ、胸までの金髪ストレートヘアで、寝間着姿のサンダルだった。

 ルエラ姫が髪を掻き上げる。


 オレはルエラ姫のボディガードなので、アルガスタ親衛隊の軍服を着ている。

 帽子を被り、マントを羽織り、防弾チョッキを着て、革手袋を嵌め、革靴を履いているので、さすがに窮屈だ。未だに軍服は着慣れない。

 ルエラ姫のボディガードは特別な任務なので、王家の紋章が記された腕章をつけている。

 肩掛けの鞘と、腰にホルスターを巻いて、オートマチック銃で武装している。

 射撃訓練は耳障りなだけで得意じゃない。剣だったら得意だけどな。


オレは帽子を被り直して、左腕を手摺りに置く。

 ルエラ姫は手摺に右手で頬杖を突いている。


ルエラ姫のシャンプーのいい匂いが鼻腔をくすぐる。

 オレはルエラ姫のシャンプーのいい匂いを嗅いでは、うっとりする。

 オレはアルガスタ親衛隊の隊長、ジン公認のルエラ姫のボディガードだ。

 ルエラ姫のボディガードになったきっかけは、お忍びで城下町に遊びに来ていたルエラ姫を盗賊から守ったことだった。

 まあ、幸い盗賊に盗られた物がお金や宝石で良かった。

 親衛隊の隊長ジンに、オレの剣の腕を認められ、オレはそのままルエラのボディガードになった。

 ルエラとは歳が近く、兵士たちにはルエラの女の子らしからぬ荒っぽさに参っていたらしい。

 兵士は愛想のいい人や、不愛想な奴、陰口を叩く奴もいる。

 オレは陰口が叩かれようがなんだろうが、そんなのは気にしない。

 おかげで毎月高い給金を貰い、オレの家庭はすっかり潤っている。

 家では、オレが大将だ。まあ、オレの給金はがっぽり持っていかれるがな。

 父ちゃんがアルガスタ親衛隊で、オレは父ちゃんに剣の稽古を習ってたのもあるだろうな。

 それに、父ちゃんはジンと仲が良かったのもある。


オレはルエラ姫から手を離す。


「ルエラ姫、今日は綺麗なお月さまだ。昨日は、お月さまが雲で隠れてたな。今日は満月だ。狼男が襲ってくるかもしれないぞ」

 オレは頭の後ろで手を組んで、満月を見上げて感嘆した。

 満月から眠気が発せられ、オレは欠伸が出る。


 しっかし、なんだ。

 こんなに武装しなくてもいいだろうに。

 動きにくくてしょうがない。

 それにだ。アルガスタは平和なんだぞ?

 今日は百年に一度の紅月だと、ルエラ姫が言ってたな。

 そんなに警戒する必要もないだろ。どうせ何も起こらない。

 訓練する意味なんてあるのか。


 ルエラ姫が手摺に背もたれ、不機嫌そうにオレを睨み据えていた。

 ルエラ姫の眉の端がぴくぴくと動いている。


「カイト、なんで手を離したのよ? あたしと手を繋ぐのがそんなに嫌なわけ?」

 ルエラ姫が頬を膨らませて拳を振り上げて、牙を生やしオレに食ってかかる。


 オレは面倒そうにため息を零して、肩を竦めた。


「オレはルエラのボディガードだ。恋人でもあるまいし、手繋ぐなんて気色悪い」

 オレは鬱陶しそうに手をひらひらさせて、ルエラ姫に舌を出した。


「はあ!? じゃ、なんで手を繋いでたのよ!?」

 ルエラ姫は苛立って、腰に手を当ててオレの肩を人差指で小突いた。


「仕事だろうが。お前のボディガードだからな。給金が高くていい」

 オレは勝ち誇ったように、腕を組んで嫌味な顔をルエラ姫に向けた。

 ルエラ姫に歯を見せて笑う。


「せっかく、ロマンチックなムードだったのに。カイトのせいで雰囲気ぶち壊しよ! せっかくカイトに告白しようと思ったのに。なによっ」

 ルエラ姫は頬を膨らませ、頬を紅く染めて、腕を組んでそっぽを向いた。


「大丈夫だ。オレが、ルエラ姫を守る。安心しろ。剣の腕は、隊長のお墨付きなんだ」

 オレはルエラ姫の肩に手を置いて微笑んだ。


「カ、カイト……うん、ありがと。あたし、初めてカイトに会った時から、ずっとカイトのことが好きだった。だから、あたしのボディガード解雇しようと思ったけど、今ので撤回するっ。ありがたく思いなさいよ?」

 ルエラ姫が恥ずかしそうに俯いて、オレに想いを告げた。

 ルエラ姫が自分の肩に置かれたオレの手の甲に、自分の手を重ねる。


 オレはルエラ姫の告白が可笑しくて笑った。


「なんだ。お前もオレのことが好きだったのか? だったら、オレもお前が好きだ」

 片方の手で、ルエラ姫の背中を思いっきり叩いた。


ルエラ姫はオレの手を振り払い、オレから離れた。


「ちょっと、ついでみたいに言わないでよ! 王女のあたしに告白させるなんて、恥ずかしくないわけ?」

 ルエラ姫は顔を真っ赤にして拳を振り上げ、腰に片手を当てる。

 振り上げた拳が震え、眉の端がぴくぴくと動いている。


「なに言ってんだ、自分が言うからだろ。せっかく、オレが言おうと思ったのに」

 オレは残念そうに肩を竦め、頭の後ろで手を組み、満月を見上げる。


 ルエラ姫は否定するように、額に手を当てて首を横に振る。

「嘘よ、絶対嘘。ああ、もう! あたしの告白を返せー! カイトのばかやろー!」

 悲鳴を上げて頭を掻きむしり、想いが爆発して中段蹴りが飛び出した。


 オレの脇腹にルエラ姫の中段蹴りが思いっきり入る。


「うっ」

 オレは痛みで思わず声が漏れて後退る。

 怒りが込み上げ、拳を振り上げる。


「や、やったな。オレの天生牙で、ルエラ姫の髪を切ってやろうか? ちょうどいい、ルエラ姫の髪を天生牙で切りたかったんだ」

 オレは肩掛けの鞘から天生牙を抜くと、天生牙を振り回した。


 天生牙は、ルエラ姫のボディガードになった時に、ルエラ姫から祝いで貰った剣だ。

 オレはお返しに、ルエラ姫の誕生日プレゼントに、ルエラ姫に黒いリボンカチューシャをあげた。


「ちょっと! 危ないじゃない! 天生牙、なおしなさいよ!」

「なにいってんだ! そっちが仕掛けたんだろうが!」

 バルコニーを回るように、オレとルエラ姫は追いかけっこをした。

 オレは、天生牙を振らないように気を付けながら。


 その時、バルコニーの手摺に一羽の大鷲が舞い降りてきた。

 大鷲は、バルコニーの手摺にとまった。


オレとルエラ姫は、顔を見合わせた。

 食い入るようにバルコニーの手摺にとまった大鷲を見る。


 大鷲のおでこにはごっついゴーグルが装着してあり、大鷲の腰にホルスターが巻かれ、二丁のオートマチック銃が挿してある。


「くえっ、くえっ~」

 大鷲は大きな翼を広げた。

 大鷲の大きな羽が、バルコニーに落ちる


「なんだよなんだよ。ぶちゅっとキスしろよ。なんなら、押し倒してもいいんだぜ? くえっ、くえっ~」

 手摺にとまった大鷲は急に人語を喋り出した。

 可笑しいという様にオレとルエラ姫を指さして、お腹を抱えて笑っている。


 オレは天生牙の刃先を、人語を喋る大鷲に向ける。


「お前、何もんだ?」

 オレはルエラ姫と手を繋いで、大鷲を睨み据える。


 ルエラ姫は、さっとオレの背中に隠れた。

 ルエラ姫はオレの肩に両手を置く。


「おっと、オレはお前と戦うつもりはねぇ。刀をなおしな。姫様に用がある。つっても、相棒のアスカが姫様に用があるんだけどよ」

 人語を喋る大鷲は、腕を組んだ。

 大鷲は、オレとルエラ姫を交互に見る。


「ねぇ、カイト。喋る鷲って見たことある?」

 ルエラ姫がオレの腕から身を乗り出し、人語を喋る大鷲を興味津々に見ている。

 ルエラ姫は眼をぱちくりさせている。


「あるわけないだろ。こいつ、どこから来たんだ?」

 オレは天生牙を鞘に納め、肩を竦めて顎に手を添え、まじまじと大鷲を見る。


「くえっ~、くえっ。おっと、お喋りはここまでよ。あんまり喋るとアスカに怒られちまう。まだ喋って欲しいって? じゃ、食いものよこせ。鰯いわし二匹だ。ってのは冗談でい。あばよっ! せいぜい、姫様を守りな! くえっ、くえっ~」

 人語を喋る大鷲はまくしたてると、バルコニーの手摺から飛び立った。

 大鷲の大きな羽がバルコニーに舞い落ちる。


 オレとルエラ姫は、喋る大鷲を黙ったまま見送る。

 オレとルエラ姫は、大鷲が飛び去った空を見上げていた。

 ルエラ姫がため息を零して、オレの肩に顎を載せる。


「なんだったのよ。あの鷲。あいつのせいで興ざめよ。せっかくいい雰囲気だったのに。あ~あ、キスでもすればよかったなぁ」

 ルエラ姫がオレから離れて肩を落とし、ぶつぶつ文句を言いながら、バルコニーの手摺に両手で頬杖を突く。

 ルエラ姫はつまらなそうに、両手で頬杖を突いたまま満月を見上げている。


 オレは、ルエラ姫がキスしようとしていたことに驚き、一瞬動きが止まる。


「まあまあ、ルエラ。って、キスしようとしてたのか!? ほんとか!? それは、その、心の準備がいるな。なんだ、その……」

 オレは照れたように頭の後ろを掻いて咳払いし、恥ずかしそうにルエラ姫をちらちらと見た。


 ルエラ姫は手摺に両手で頬杖を突いたまま、満月を見上げてため息を零した。


「なに本気になってるのよ。冗談に決まってるでしょ! バッカみたい」

 ルエラ姫が不貞腐れて頬を膨らませ、オレに振り向き唸りながらオレを睨み据える。

 ルエラ姫は顔を赤らめ、オレに舌を出して顔を戻した。


 オレは怒りが込み上げ、拳を振り上げた。

 オレの振り上げた拳が震えている。


「なんだと! キスくらいいいだろが。今度は怪我ではすまんぞ?」

 オレは天生牙を鞘から抜いて、八相の構えをして、ルエラ姫に不敵に笑った。


「なによっ!」

 ルエラ姫がオレに振り返って、牙をむき出す。

 オレに掴みかかろうとしたとき。


 ルエラ姫の寝室の扉が静かにノックされた。


「ルエラ姫、入っていいかな?」


 扉越しに響く、よく通る低い男の声だった。


 ルエラ姫がオレに襲い掛かるポーズのまま立ち止った。


「ほら見なさい。見張りの兵士に注意されちゃったじゃない」

 両手を腰に当てて、思わず小声になる。

 オレの責任だと言わんばかりに、ルエラ姫は目を細めてオレを睨み据える。


「すまんすまん。はしゃぎすぎた。オレが出るよ」

 オレは片手で頭の後ろに手を当てて、手をひらひらさせて舌を出した。

 オレは天生牙を鞘に納めると、ルエラ姫の寝室の扉に向かった。


「行かないで、カイト。今日は百年に一度の紅月よ? 今日は朝からなんか胸騒ぎがして変なのよ……」

 ルエラ姫の心配そうな声が降って来て、ルエラがオレの軍服の裾を掴んだ。


 オレはルエラ姫に振り向いて、白い歯を見せてルエラに笑った。

 ルエラ姫はオレを見つめ、ルエラの眼がさざ波の様に揺れている。

 ルエラ姫は両手でオレの裾を掴んだ。

 オレはルエラ姫の手首を掴んで、ルエラ姫を抱き寄せた。

 ルエラ姫の頭を優しく撫でる。


「心配しすぎだろ。ルエラ姫は、オレが守るよ。行ってくるぞ」

 オレはルエラ姫の額にキスをして、ルエラ姫の身体からそっと離れた。

 オレはルエラ姫に背中を向けて、手を上げて振った。


「絶対よ? 何があっても、あたしを守って……カイトは、あたしのボディガードなんだから……」


 オレの背中越しに、ルエラ姫の悲しい声が突き刺さる。

 また、ルエラ姫の寝室の扉がノックがされる。

 オレは、ルエラ姫の寝室の扉を静かに開けた。


「こんばんは。ルエラ姫はボクが攫うよ。ボディーガードくん」


 少女の凛とした声。

 少女は灰色のツインテール、右眼には精巧な眼帯をしている。

 眼帯からは紅いレーザーが伸び、眼帯のレンズが伸縮したりして、オレのデータを採っている。

 服は華やかな着物を着て、マントを羽織り、手には穴あきグローブを嵌め、両手の爪にはカラフルなマニュキュアが塗ってある。

 膝下からすらっと足が伸び、素足で草履を履いている。

 両足の爪にも、カラフルなマニキュアが塗ってある。


 オレのお腹に、オートマチック銃の銃口が向けられ、少女は不敵に笑った。

 引き金が引かれ、銃口から火を噴き、薬莢やっきょうが床に落ちる。

 そして、少女はオレに銃を撃った。


「ぐっ」

 オレは銃弾の衝撃波でオレの身体はくの字に曲がり、ルエラ姫のベッドまで吹っ飛んで仰向けに倒れる。


 オレの身体に青白い電気が走り回り、青白い電気が痛そうな音を立てている。

 オレの身体は痺れて動かない、オレの軍服のお腹に血が滲んでいる。

 オレはお腹を手で押さえ、なんとか止血した。


 防弾チョッキ、弾が貫通しちまった。

 あの銃、特殊な銃だな。


 少女がルエラ姫の寝室に足を踏み入れるのが見える。

 少女は真っ直ぐルエラ姫に向かって歩く。

 少女がオレに不敵に笑って、オレの横を通り過ぎる。


「お邪魔するよ。キミは痺れてしばらく動けないよ、ボディーガードくん。さあ、ルエラ姫。ボクと来てもらおう。抵抗するなら、話は変わってくる。どうする?」

 少女の冷たい声が聞こえる。


 オレは痺れる身体をやっと動かしてうつ伏せになり、少しずつ匍匐ほふく前進しながらルエラ姫を見る。


 ルエラ姫は見知らぬ人間を見て、バルコニーで尻餅を突いて後退りしている。

 ルエラ姫の右足のサンダルが脱げているのが見える。


「嫌、嫌よ。こ、来ないで。あ、あなた誰よ? 見張りの兵士はどうしたの? 何が起きてるの……」

 ルエラ姫は、恐怖で声が震えている。首を横に振るばかり。


「くえっ、くえっ~」

 さっきの人語を喋る大鷹が、開け放たれたルエラ姫の寝室の扉から侵入してきたらしく、人語を喋る大鷲はルエラ姫のベッドの手摺りにとまった。


「くえっ、くえっ~。事情も知らないで、攫われるのも面白くねぇよな! 姫様は、民衆の前で晒し首にされるのさ。その血は、魔王復活に捧げるってなもんよ。今宵、アルガスタの王族は攫われ、一週間後にアルガスタの王族は民衆の前で晒し首だ。傑作だね、こりゃ。アスカ、さっさと仕事を終わらせようぜ。オレは鰯が食いてぇんだ」

 人語を喋る大鷹が大きな翼を広げて、翼を折りたたんだ。

 人語を喋る大鷲がオレとルエラ姫を交互に見て、お腹を抱えて笑った。


「そうだね、ジェイ。今宵は、魔王復活の第一段階だ。魔物たちも紅月で不死身になる。余興を楽しませてもらうよ」

 少女が言い終わった後、少女は掌を広げた。

 少女の掌の上に載った小さな銀色の球。

 少女は掌を翻し、小さな銀色の球を床に落とした。

 床に落ちた銀色の球は閃光の後、煙が噴出された。


 け、煙玉か。

 オレは咳き込んだ。

 オレは煙の中で、怒鳴っているルエラ姫に手を伸ばす。


「放せっ! 魔王の生贄なんてごめんよ! カイトー! 絶対助けに来て! じゃないと、呪ってやるからねっ!」

 煙が充満する中。

 アスカがルエラ姫を肩に担いでオレの横を通り過ぎる影が見えた。


 オレは悔しくて、床を何度も叩いた。

、なにやってんだ、オレは。

 このままだと、ルエラ姫は魔王の生贄になる。それでいいのか?

 百年前に討伐隊によって封印された魔王。アルガスタで有名な話だ。


 天生牙、オレに力を貸してくれ。ルエラを守りたいんだ。

 オレは歯を食いしばって、天生牙を握り締め、天生牙を引き寄せる。

 オレの涙が、天生牙の刀身に沁みる。

 涙が一粒、天生牙の刀身に沁み。

 二粒、三粒、四粒、五粒と、天生牙の刀身に涙が沁みる。


 その時、オレの涙に反応したのか、天生牙が眩く青白く煌めく。

 天生牙?

 オレは天生牙を見つめた。オレに応えてくれたのか?

 それを合図にオレの身体を青白い光が包み込み、オレの身体が軽くなった。

 さすがにお腹の傷は治らないか。動くにはこれで充分だ。

 オレは天生牙を床に突き刺し、お腹を押さえて立ち上がった。


オレはよろめきながら、ルエラ姫の寝室の扉を出た。

 床にオレの血が滴る。

 ルエラ姫の寝室を出た傍の壁に凭れ、左右を見る。

 ルエラ姫の姿が見当たらない。

 どこだ、ルエラ姫。今、行くぞ。


その時、廊下の柱時計が午前0時を知らせる鐘が鳴る。

 窓ガラス越しに月を見上げる。

 さっきまで青白かった月がみるみる紅く染まっていく。


「これが……ルエラ姫が言ってた、百年に一度の紅月か。二人で見たかった。それにしても、不気味な月だな」

 オレは窓ガラス越しに、紅月を見上げて鼻で笑う。


 その時、廊下の紅い絨毯の上に黒い魔法陣が現れ、魔法陣が紅く光る。

 魔法陣の中から、低級魔物が現れた。次々と魔法陣が現れる。

 野犬の様な魔物、烏の様な魔物、猿の様な魔物、鬼の様な魔物、大鎌を持った死神のような魔物。

 どの魔物も眼が紅く光り、獣は涎を垂らし低く唸り、武器を振り回している。


 こいつら、オレの血に寄ってきたのか?

 王族を攫う仕事をサボって、そんなにオレと遊びたいのか?

 オレは天生牙を床に突き刺し、おもむろに立ち上がった。


「オレの最期の仕事だ。ルエラ姫、すまん。そっちに行けそうにない。思った以上に傷が深い。じゃあ、お前ら、行くぜぇ!」

 オレは天生牙を握り締め、お腹からの出血に構わず、魔物に向かって駆け出した。


 天生牙一振りで、魔物の身体が一つの光の玉となって弾け飛んだ。

 これが、天生牙の本当の力なのか?

 天生牙の刀身が青白く光っている。

 魔物を倒す度に、傷が癒えるような気がする。


 オレは次々に魔法陣から現れる低級魔物を斬り倒しながら、廊下を駆けた。

 お腹の傷を押さえながら。意識が遠のいて倒れながらも。


その時、窓ガラスから、火矢が窓ガラスを突き破り、火矢が壁に突き刺さる。

 魔王軍の奴ら、城を燃やす気か。


 オレは煙臭い廊下を口許を手で覆いながら進み、階段をよろけながら下りる。

 階段の踊り場で、階段を上がってくるジンと出くわした。


 ジンがオレの肩に手を置いた。


「カイト、まだいたのか。ここは危険だ。早く脱出するんだ。わたしは他に生存者がいないか、見回ってくる」

 ジンは上を見上げて、オレに注意を促す。


 ん?

 なんでシンがルエラ姫を担いでるんだ?


「おい、ジン。なんでルエラ姫を肩に担いでるんだ?」

 オレはジンの肩に担がれたルエラ姫を見て、オレは首を傾げた。


「廊下でルエラ姫が倒れてたんだ。他の兵士にルエラ姫を預けようにも、他の兵士が見当たらなくてな。恐らく魔物にやられたんだろ」

 ジンはルエラ姫を担ぎなおす。


なんか変だな。オレはまた首を傾げる。

 ルエラ姫は、あの女に攫われたはず。

 大事な生贄を、廊下に置き去りにするものなんだろうか?

 いや、それはないだろ。


 それに、こいつから殺気を感じるぞ。

 こいつ、オレの知ってるジンじゃない。

 誰かがジンに化けてるな。オレを油断させるために。


「カイト、こいつは偽物のジンよ!」

 ルエラ姫の大声が聞こえる。

 ルエラ姫が目を覚ましたのか、じたばたしている。


 ジンは何故かため息を零した。


「ボディーガードくんの知っている人間に化けても、殺気までは消せなかったか。ボクにしては上出来の変化だ」

 ジンは頷いてから、アスカに姿を変える。

 アスカの変身の様は、まるでカメレオンが姿を変える様だった。


 アスカの殺気が一気に解放された。

 オレはアスカの殺気で動けず、オレの眼はさざ波の様に揺らいでいる。

 オレの手から天生牙が滑り落ちた。

 階段の踊り場に落ちた天生牙が軽い音を立てる。


 アスカが顎に手を当てて、まじまじと床に落ちた天生牙を見つめる。


「天生牙か。面白いものを見せてもらったよ、ボディガードくん。余興はここまでにしよう。キミはここで死んでもらうよ」

 アスカは床に落ちた天生牙を拾うと一振りした。

 アスカは不敵に笑い、オレの胸に天生牙を突き刺し、天生牙を引き抜いた。

 アスカは天生牙の刀身についた血を眺めて、天生牙を投げ捨てた。


「カイト!? あんた、カイトになにしたのよ! 放しなさいよ!」

 ルエラ姫はオレに振り向くが、状況を呑み込めず、必死に抵抗している。


 オレはよろめいて、階段の踊り場の壁まで後退る。


「急所外しちゃったか。まあいいや。さて、ルエラ姫には絶望してもらおうかな。ボディーガードくんの最期を見届けなくちゃ」

 アスカが閃いたように指を弾いて鳴らし、アスカはホルスターからオートマチック銃を抜いて、オレに不敵に笑った。

 アスカはオレに銃口を向け、オートマチック銃は高い機械音を鳴らす。


「チャージショット」

 アスカは静かに言うと、躊躇せずオレを撃った。

 撃つ瞬間、銃口から火が噴いて、薬莢が床に落ちた。


「ぐっ」

 オレは口から血を吐いて、銃弾の衝撃波でくの字に吹っ飛んだ。

 さっきの銃弾より強力だった。

 銃弾の衝撃波により、階段の踊り場の壁を突き破った。

 オレは断崖絶壁に投げ出された。


 オレは階段の踊り場に、ぽっかり開いた穴を見る。


アスカはホルスターに銃を収め、ルエラ姫を肩に担ぎなおす。

 アスカは踵を返して階段を下りてゆく。

 ルエラ姫が階段に吸い込まれてゆく。


「カイトぉぉぉぉぉー! イヤぁぁぁぁぁ!」

 ルエラ姫が叫んで、オレに手を伸ばす。


 オレは歯を見せて笑い、親指を突き出した。

 ルエラ姫の涙が風に運ばれ、オレの頬を優しく撫でる。


「くえっ、くえっ~。奈落の底へ真っ逆さまだな。さぞ、姫様が泣くことだろうよ。こりゃ傑作だぜ! くえっ、くえっ~」

 ジェイがオレの傍にやってきて、お腹を抱えて笑っている。

 くちばしに天生牙を銜えて。

 笑い過ぎて額のゴーグルがズレて、くちばしを開けて天生牙を落とした。


「ほらよ、お前さんの武器だろ。冥土の土産として持っていきな。短い時間、せいぜい楽しめや。くえっつ、くえっ~」

 ジェイは高笑いしながら、空高く羽ばたいた。

 ジェイの大きな羽が舞い落ちる。


 オレは落ちてくる天生牙の刀身を掴んだ。

 天生牙の刀身を掴んだので、オレの掌が切れて、血が手首を伝う。

 行くぞ、天生牙。最期までお前と一緒だ。


 オレは瞼を閉じた。


ルエラ姫、すまん。

 最期にお前に会えてよかった。

 ルエラ姫の言う事を聞けばよかったんだ。

 なのに、オレは聞く耳を持たなかった。死ぬのが怖い、怖いんだ。

 オレは涙を流して、お腹の上で天生牙を抱き締めた。

 オレの身体が逆さまに、断崖絶壁に沈んでいく。

 風がオレの身体を、死への恐怖へと誘うように撫でる。

 さよなら、アルガスタ。

ゾット帝国元騎士団カイトがゆく!を書いてたのですが、ゾッ帝の世界観が理解出来ずに全削除してしまいました。

筆者の下調べを怠る怠惰さ、筆者のゾッ帝シリーズへの不理解が招いたことです。

今は軽く精神を病んでいます。なので、オラカイト編の訛り修正でもしていこうかなと思った所存です。

外伝やその他ゾッ帝二次創作を見ると、世界観をある程度理解していて尊敬します。

筆者も『11歳編』『15歳編』『17歳編』を書いていきたいです。そのためにもまずは世界観を理解し、その上で辻褄が合うように改変していかなくてはなりません。

本当に本当に落ち込んでいます。すみません。

取り敢えずそれぞれの編の大筋は


・『11歳編』:カイトが不吉な予知夢を見て、父方祖父から受け継いだスカイブルーのオーブの謎を解き明かすためにガランでデートする予定のネロとミサを巻き込んでゾット帝国ラウル地方の禁断の森&ラウル古代遺跡へと冒険しに行く。そこでディーネ&フィーネと出会ったり、ルエラ皇女と出会う。いわゆる禁断の森編のリメイク。


・『15歳編』:親衛隊に入ることにしたカイトは、騎士団に入ることにしたネロ&ミサと別れる。別れた後にガランで不良達に襲われているルエラ皇女を助ける。ルエラ皇女のボディーガードになりたいので、親衛隊長のジンの元で13歳〜14歳の1年間修行する。そして14歳からルエラ皇女のボディーガードに。

ボディーガードになって1年経って、ガランにてネロ&ミサと再会。カイト&ルエラ、ネロ&ミサでダブルデートになってなんやかんやガランで4人と遊び倒す。いわゆる箸休め。

初期は遊んでる時に魔王教団の準幹部の男『エスティロイサ』に襲われる予定(というか最初はそのつもりで書いてた)だったんですけど修正版ではそれは無しにします。

エスティロイサは17歳編の後半で再登場させます。


・『17歳編』:これが本編。カイトはスカイブルーのオーブを持っていた事から勇者に選ばれ、ネロ&ミサ&ルエラ皇女とパーティーを組んで魔王討伐の旅に出かける。本来なら騎士団(討伐隊から変更)が魔王を倒すはずだったがそれは取りやめに。

17歳編開始3日前の紅月の夜にルビナ&ルエラ皇女姉妹、その他ゾット皇族の数人が魔王教団の団員に攫われて血を採取される。カイトは魔王教団の団員と戦うが敗北する。そしてその血が魔王に捧げられてなんやかんやで魔王復活。

R-15な展開が多い。古代ラウル皇帝ウィリアムと皇妃アリーシャと同名の次期騎士団長の俺様系イケメンと次期副騎士団長の地味系女騎士が出てくる。


とまあこんな感じです。

最後は魔王を倒し、カイトはルエラ皇女と結婚。ネロはミサと結婚。

カイトは気まぐれ&父からの勧めで道場を開き、スカイブルーのオーブを売って遊んで暮らす。それが嫌なルエラ皇女は結婚後に健全な店で働く。

ネロは父の跡を継いで騎士団の科学者になり、ミサは専業主婦に。

そしてカイトとルエラ皇女の孫の孫がアラン(佐藤葛城)で、ひ孫が佐藤光秀&佐藤栞の予定。

今は気力が削がれて鬱なので、鬱が治ったら書きます。すみません。

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