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9話〜バーベキューは火力が命〜


「はぁ〜……広い」


 せっかくの休みなので近くのデパートに買い物に来た(早瀬)だったが、あまりの広さに疲れ、フードコートで休んでいた。


 地上六階、地下三階。

 どちゃくそ広い。


 ここに来れば大抵の物が揃うとうたうだけあり、いろんな店が入っている。


「……にしても」


 こっそり異能を使って周囲を見る。


 無機有機問わず、視界に入る物全ての起源が視える。

 起源は人それぞれあって、それぞれ違う。


 でも、その起源の根本は変わらない。

 その根本というのは生。

 命だ。


 その根本の起源と肉体を繋ぐ縁が線となって俺には視る事ができ、視えている状態ならそれに干渉する事もできる。


 例えば、その線を切れば切られた対象は死ぬ。

 逆に切られた線を結び直せば息を吹き返させる事もできる。

 が、吹き返させるのはかなり難しい。

 というのもその線、切れた側からボロボロと崩れていくのだ。

 だから崩れないように最新の注意を払って結ぶしかないのだが、これがまた難しい。


 汁を吸いまくってブヨブヨになったうどんを切らないようにすすり切るぐらい難しいのだ。


 ただ、病の相手を視ればその病の起源を見る事もできるし、その病の起源の線を切れば治療する事もできる。


 義父さんからは人間レントゲンなんて言われていたなぁと、そんな事を思い出す。


 だがこの異能なのだが……


「疲れるんだよなぁ……」


 三分が今は限界だ。

 それ以上使うと目が死ぬ。

 それ以上使うと比喩とかでなくて、本当に見えなくなる。

 次の日には見えるようになるけど、目が見えなくなってしまうのだ。

 光も感じ取れないし、視界は本当に真っ暗になる。

 次の日になればボンヤリとレベルで見えるようにはなるが、その時でも異能は使えるし、起源もちゃんと視えるから怖い。


 炎や水を出したりするタイプじゃない、感覚器官が異能と直結している分不気味だ。


 だってそうだろう。

 輪郭も分からない程にボヤけた視界の中で、起源である生の線だけが視えるのだから。


 一応起源以外も視る事はできる。

 対象の名前、身長体重、スリーサイズに出身地、出身校に家族構成。

 視ようと思えば全部視えるのが俺の異能だ。

 ただそれでも、特に設定せずとも起源を最初から視る事ができた。


 他にも設定を変えれば視界をサーモグラフィーのように変える事もできるし、匂いを視界に映す事もできるし、最大で五分前であればその時の事を視る事もできる。

 ただしこれらは一分しかできない。


 異能者の医師が言うには、その視界は人の脳で処理するには情報が多過ぎるのと、慣れていないかららしい。

 なので、この異能を使えば使うほど長時間使えるようになるらしい。


 とはいえ、バカスカ使ったら目が死ぬ。


「慣れるまではそれなりに時間がかかりそうだな……」


 当面の目標は三分を五分に伸ばす事。

 と、そんな事を思いつつ気休め程度の目薬をさして席を立つ。


「トイレ何処だっけなぁ」


 コーラがぶ飲みは、キツかった。




「は〜、スッキリした」


 無事トイレを見付け、スッキリした。

 やはり、炭酸のがぶ飲みはするべきではないな。

 そんな事を思いながら手を洗っていると、背後の個室から誰かが出てくる。


「……んぁれ。早瀬?」

「ん?彩鳥(いろどり)?」


 個室から出て来たの彩鳥(いろどり)(あきら)

 俺より背がデカくて、外に向けて跳ねた茶髪に右耳と下にピアスを開けている、同じクラスの女子だ。

 繰り返すが、女子だ。

 決して、俺が女子トイレにいる訳ではない。

 向こうが、男子トイレにいるのだ。


「お前も買い物か?」

「あ、あぁ。つか、なんでお前がここに……」

「え?何でって、トイレ」

「いや、ここ男子トイレなんだけど」

「あ〜、それね。女子便混んでたからこっち来ちゃった」

「マジか……学校ではやんなよ?」

「わーかってるわーかってるって」

「なら良いんたけど……って手ぇ洗えよ手ぇ!!」

「……あ、いっけね。忘れてた」

「おいおい……ん?」

「んー?どしたー?」

「いや……なんか胸がザワつくっていうか」

「嫌な予感的な?」

「そうそれ。一体何が……」


 直後、彩鳥が俺を個室に連れ込むのとほぼ同時「男子トイレのドアが開け放たれた。


「……今人の気配が」

「気の所為じゃないか?ほら行くぞ」

「おう」


 トイレに入って来た人物は短い会話を終えると出て行った。


「……な、何だったんだよ一体……」

「さぁね。ただま、普通の人じゃなさそうだったけどね」

「分かるのか?」

「まぁね。ウチ、そういう家の娘だし」

「あ〜、成程。納得だわ」

「おっ、そうなん? もしかして早瀬んちもそっち系?」

「あ〜いや、俺んちはちょっとばっかり複雑だからさ。そのなんつーか、受け入れやすいっていうか」

「あ〜、なるね。なるなる」

「にしてもさ」

「ん?」

「……俺達いつまで壁になってるんだ?」

「あっ」


 直後、彩鳥は異能を解除した。




 その後俺達は彩鳥の異能の力を借りながら、情報を集めた。

 どうやら今、このデパートは一般人に紛れて入り込んだ良からぬ者達によって占拠されているらしい。


 逃げた人もいるが、捕まって人は一階ロビーに集められており、銃を持った見張りに睨まれている。


「……どうする?」

「どうするって、私達だけじゃ無理っしょ」

「そうだよなぁ……お前の異能、直接戦闘には無理そうだし」

「お前もじゃね?」

「うぅせうっせ」


 俺の起源観測眼で視れるのは相手の情報程度。

 線を切る事ができれば、相手の下半身程度なら機能不全にさせる事は可能だ。

 ただし、目が使えるのは三分が限度。

 見張りの数は七人。

 一人切る間に他の見張りが人質に銃を向けてジ・エンド。


 対人においてこの目は非常に強いが、有利を取るには条件がかなり限られてしまうのが欠点。

 それに加えて最大の欠点は、俺がこの目の力を完全に理解していないので、力を十全に発揮できない事なのだ。


 続けて彩鳥の異能だが、彼女の異能は完全擬態。

 自身と無機有機問わず自身が触れている物を擬態させるという、その名の通りの異能なのだが当然、直接的な戦闘能力は持っていない。

 どっちかというと潜入時に効果を発揮する部類だ。

 しかも擬態中は体温と触った時の感触までもが擬態先と同じになるので、見破るのが非常に難しい。

 先程の男子トイレの中でも彼女は俺ごと壁に擬態したのだ。


「という訳で、どうしようか……」

「一人一人シメるしかないっしょ。もしくはまとめて吹っ飛ばすとか?」

「それは危なすぎんだろ」

「だよねぇ……どうする?」

「どうするもこうするも相手の情報が分からない事には」

「……多分だけど、あの銃は大半がおもちゃだと思うよ」

「え? 何で」

「答えは単純。このデパートの出入り口には火薬のみに反応する探知器が設置されている。最近は反異能者によるテロも多いからね。火薬式の銃って持ち込みが難しいのよ」

「それは知ってい……あっ」

「分かった? 多分だけど持ち込んでいる銃の大半はモデルガン。心具こみで撃てるのを持っているのはせいぜい三人ぐらいじゃないかな」

「根拠は?」


 俺の問いに彩鳥はニヤリと笑ってこう返す。


「簡単な事さ。心具として銃を作るのは簡単なのよ。でもね、異能の力で何かを作るのって難しいの。構造はもちろん、個々のパーツの耐久性、どれだけ負荷がかかるかも計算して作らなきゃいけない」

「そうなの?」

「知らなかったんだ……んんっと、それでね。そんな者をあの人数分作るとなると相当な異能者じゃないと無理。それになりよりこんな事を起こす異能者だったらそんな事しないで、異能をチラつかせて威嚇するはずよ。だからアイツ等の大半は多分、異能者じゃないよ」

「詳しいな」

「そういう家で育ったからね」

「成程」

「全員射撃系心具かもって思ったけど、あそこまで全員で同じ形もありえない」

「成程、な。ただ問題は」

「どれが本物の撃てる銃かって事ね」


 彩鳥の言葉に頷くが、見破る方法なら分かるし、その手段はある。


「んじゃ、俺の出番かな」

「え?」

「俺の目ならどれが本物か分かる」

「マジ?」

「おう。そういう目だからな」

「すげぇな。んじゃ早速見てくれない?」

「分かってる分かってる」


 そう返しながらアイツ等が持つ銃を視る。

 彩鳥の予想が正しければ撃てるのは少ないはず。

 果たして結果はどうなるか。


「……どうだった?」

「撃てるのは、二人だ」

「二人か……私の心具使えば何とかなるかな。いや異能で床に擬態させちゃえば手は使えないか」

「え、床に沈めんの?」

「できるよ?」

「んじゃそっちで」

「私はどっちやれば良いの?」


 という訳で、非正規ながら悪党討伐を始める俺達なのでした。




「ったく。異能省の奴等、無駄に交渉を伸ばそうとしやがって」

「でも急がねぇと部隊送り込まれるんじゃねぇか?」

「問題ねぇよ。いざとなりゃコイツ等を人質に」


 俺と彩鳥の頭上で悪党がそんな話をしているが、コイツ等は目的の相手じゃない。


「それにドアっていうドアに爆弾を仕掛けてあるからよ。無理に入ろうとして開けた瞬間ドカンよ」

「それなら安心だな」


 アホめ。

 と思いながら、床に擬態しつつ進む。

 そして


「……おわっ!?」

「取ったぁ!!」


 一人が頭を残して床に引き摺り込まれ、それと入れ替わるように俺が飛び出す。


「なっ!? てめ……」

「買い物の邪魔すんじゃねぇよ!!」


 俺の心具・湖鷹の峰を目当ての悪党の脳天に振り下ろし、意識をどっかに吹っ飛ばす。


「うっし!!」

「う、なんだコイツ等!!」

「野郎、ふざけやがって!!」

「あ、それ撃てないんだろ?知ってるぜ」

「んなっ……」

「何故それを!?」

「バカ!! んな事言ったら」

「あ、本当だったんだ」


 いや、目で視たから知っているけど。

 と、そんな事を思いながら心具を構える。


「こいつ、異能者かよ……」

「このっ、俺達の世界を奪った盗人どもが!!」

「あ? んな事知るかよ。つか生まれる前の事持ち出すなよ」

「ぐぬぬ……」


 撃てないん銃を投げ捨て、ナイフを取り出す五人の悪党達。


「ま、やるなら良いぜ。異能者の俺と、異能を持たないアンタ等。ナイフ一本で、どこまでやれるか試してみるか?」


 異能者という部分を強調して相手を威圧してやる。

 相手も俺が異能者と知って向かって来れないでいる。

 俺の異能は目だけなのだが床から飛び出して来たし、そっち系の異能者だと思ってくれたようだ。


「痛い目に遭いたくなかったら、おとなしくしやが」


 かっこつけて俺がそう言っていた時だった。


「ぜ、全員動くなぁ!!」

「キャァッ!?」

「うぇ!?」


 背後から聞こえた悲鳴に振り返るとなんと人質の一人だったおばさんが、同じく人質にされていた子どもにナイフを突き付けていたのだ。


「ま、雅人!!」

「お母さん!!」

「う、うるさいぞ!! そこの異能者……よくも邪魔をしてくれたな!! 少しでも異能を使う素振りを見せてみろ。ガキがどうなるか、分かってんだろうな!!」

「っ……」


 流石に子どもとおばさんの距離が近過ぎる。

 これじゃ彩鳥が床に引き摺り込んでも、引き摺り込みきるまえに子どもに危害が及ぶ。

 どうするか。

 そう思った時だった。


「入るの苦労したんだよねぇ……つかなんだよ。無能者かよ」


 おばさんの背後に突然、二人の先輩が現れたのだ。

 片方は篝火先輩。

 もう片方は……


「お、お前どうやっ」

「どうって……」


 背後からそっとおばさんに触れる。


「異能で?」


 触れられたおばさんはなんと、先輩と自身の間に生まれた黒い穴に一瞬で引き摺り込まれて消えた。


「いつ見ても不気味な穴だな」

「良いでしょ〜。中でちゃんと分けられてるんだぜ〜?」


 篝火先輩と呑気に話しているのは、牙楽羅先輩。


「テメェガキ異能者が!!」


 そう言うや悪党達は掌を先輩達に向け始める。

 どうやら、異能はないが魔法は使えるらしい。


「くらえ!!」


 そして放たれる魔法。

 火球やら雷撃やらいろいろ飛んでくる。

 それから自分や近くの人を守ろうと動く人質達。

 だが牙楽羅先輩は落ち着いた様子で人質の前に出ると手をかざし


「虚空追放」


 すると目の前に先程より巨大な穴が展開され、全ての魔法をそのまま丸呑みした。


「なっ!?」


 それを相手は驚いているが、それを見て牙楽羅先輩は一歩下がり


「んじゃ、後はお願いね」

「あぁ、任せろ」


 静かに呟く篝火先輩。

 直後彼の眉間あたりがチリッと光り直後


 相手の絶叫を飲み込む程の大火力の火柱が出現した。


「おーい。殺すなよ?」

「え、生捕りだったの?」

「その方が金が良いんだよ」

「あ〜……まぁ、良いんじゃない?」

「お前が良くても俺が金欠なんだよ」


 先輩二人は火柱を前にそんな会話をしているが、慣れているみたいだ。

 牙楽羅先輩は頭掻いているし、篝火先輩に至っては欠伸までしている。


「まぁ安心しろよ」

「あにゃ?」

「ほれ」

「おぉ〜」

「生かしておいてやったから」


 火柱が消えると焼かれたと思っていた敵達は白目剥いて気絶していた。


「これで稼げるやったやった〜」


 それを見て幼子のように笑顔になる牙楽羅先輩。

 だが、そこでこの話は終わらなかった。


「っ、切札はぁ……まだあんのさぁ!!」


 なんと一人だけ立ち上がったのだ。


「あ?」

「おりゃ? ……ん〜これは」


 それを見て先輩達は面倒そうだなぁという表情に変わる。


 というのも立ち上がったのだ一人は俺達に見せ付けるように何かのスイッチを握っていたのだ。


「コレを押したらなぁ、俺に巻き付けた爆弾がドカンだぞ!それが嫌なら動くな!! 分かったら動くな!!」

「あ〜、どうするよこれ」

「俺パス。お腹空いたからさ……ふぁ」

「んなお前等!! これが見えねぇのか!?」

「いや見えてるけどさぁ」

「正直、お前にそれだけの度胸ねぇだろ」

「んだとこの……」

「まぁ、聞き流してくれても良いんだけどさ」

「……さっさと腕下げた方が良いぞ」

「あ?」

「ま、忠告はしたからな」


 スイッチを見せながら先輩達が何を言いたいのか分からない犯人。

 その背後は、ちょうど二階と三階から入って来た日の光で照らされている。


「い、いったい何を」


 そして、二階の窓ガラスが一枚割れ、スイッチを握る手が吹っ飛んだ。


「篝火〜」

「ほい」


 すかさずスイッチを、その手ごと燃やす篝火先輩。


 吹っ飛ばされた自身の腕を押さえて呻く犯人。

 直後入口という入口から警官隊が突入し、瞬く間に犯人達を拘束していった。


「さっすが薄明。ナイスショット」

「だな」


「にしても、いくら心具を使っているとはいえおっそろしいよなぁ……なんせ、有効射程が二キロ。最大射程は三キロ弱、だっけか?」


「さぁな」

「いやいや、お前去年戦ってたじゃん」

「あぁ、そういえばそうだったな……まぁ、引き分けが限界だったけど」

「いや、お前も十分化け物だわ」

「お前に言われたくねぇなぁ」

「ハハハッ。褒め言葉どーも。にしても後輩くん……よく頑張ったねぇ。偉い偉い」


 そんな化け物先輩は俺を見るや、笑顔でそう言うのだった。

お読みくださり、ありがとうございます。


三キロ先まで弾って届くのかな……。

まぁ良いか。

魔力とか全部飛ばすのに回したって事で。


次回はどんな話にしようかな〜。


火織が引き分けた薄明先輩はどんな力を持っているのかなぁ……

お楽しみに!!


ブクマ、星ポイント、本当にありがとうございます。

次回もお楽しみに!!

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