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6話〜Let's バトル〜


 俺は今、闘技場へと来ていた。

 目の前には真っ赤な髪の少女が立っている。


 こうなった原因は昨日にある。


 仲良くなったクラスメイトと昼飯を食いに食堂に向かっていた時だった。

 後から来た先輩とぶつかり、前にいた女生徒を押し倒してしまったのだ。


 その女生徒というのが目の前にいる赤髪の女子。

 見るからに勝気そうな目付きをしている。


「アンタ、昨日はよくも!!」

「いや謝ってんだけどな〜」

「謝意を感じられないのよ!!」

「そりゃ何度も謝ってんのにそんな態度されりゃそうなるだろ!!」

「ハァ!? 逆ギレする気!?」

「したくもなるっつーの……」


 ため息しか出ない。


 目の前に立っている女子の名は霧穂村(きりほむら)朱音(あかね)

 クラスは隣のB組。

 そして彼女の家は薄明先輩の家程ではないが大きい。

 彼女の家、霧穂村グループは主に異能者の力を限定的に再現した武器を作り、警察の対異能部隊に卸したりしている。


「私、忘れてないから……アンタが私のむ、胸を触った事!!」


 その言葉を聞いた観客がザワつく。


「それは不可抗力でって何度も……」


 周囲の容姿を見て肩を落とす。


 こうなったのは新月先生の悪ノリが原因でもある。

 そもそも今日は、A組とB組合同で闘技場を使う予定だったのだ。

 授業内容としては入試結果のトップによる模擬戦だったのだが何を思ったのか新月先生、この問題を解決するのに使っちゃえと言い出したのだ。


 俺が勝ったら許す。

 俺が負けたら一週間小間使いにして良い。

 そんな条件でだ。


 当初の予定もあり、A組とB組の生徒が俺達の事を見ているのだ。

 中にはどっちが勝つか賭けをしている奴もいる。

 全く、こっちの気も知らないでムカつく奴等だ。


「んじゃ、勝負は見えているけどさっさと始めましょうか。私が勝つに決まっているけどね」

「まだ始まってすらいないのによく言うぜ……」

「あら、だって私は強いから問題ないわよ?」

「じゃあ実際にやってみようぜ」

「両者、エーテル体の用意を」


 新月先生に言われ、俺達は魔力でエーテル体を生み出す。

 生み出す、といっても自身の体をエーテル体でできた体に変えるだけだ。

 魔力で出来たエーテル体のため、どれだけ切り刻まれたり、撃たれても、痛みは感じるが死にはしない。

 ただ、損傷が激しかったり魔力が切れるとエーテル体の肉体は消失し、本来の肉体に戻ってしまう。


 その特性故に医療現場では、大怪我を負った際に怪我人をエーテル体にする事で延命する事もできるそうだ。

 この時本来の肉体は傷付いたその瞬間で保存される為、状態は良くもならないが悪くなる事もない。


 このエーテル体は扱いが上手い人は複数体を同時に生成して操り、分身として扱う者もいるが、当然俺にはそんな事できない。


 また一部ではこのエーテル体を戦闘体と呼ぶ人もいる。

 と言ってもエーテル体を作るのに魔力を使う事もあってか、警察の対異能部隊の人達はエーテル体をあまり使わないそうだ。

 エーテル体を使うぐらいなら防護魔法を使った方が良いらしい。


 といった具合に現場でエーテル体が実戦に使われる事は少なく、もっぱら相手の撹乱や怪我人の延命、学園での戦闘訓練での使用が中心となった。


「では両者、続けて心具の用意を」

「はぁい……行くわよ、砲凰(ほうおう)

「舐めてかかると痛い目見るぜ……湖鷹(こよう)


 お互いに心具を展開する。

 俺の湖鷹は刀の形をしている。

 対する相手の心具はガトリングの形をしている。


 なんと相手の心具は遠距離型だった。


「ステージはそうだね。初めてだし廃ビルフロアで行こうかね」


 次の瞬間、俺達二人の立つエリアが何の変哲もない闘技場から、魔力によって作られた廃ビルへと変わる。

 外を見れば青空が見えるがそれも作られたもの。

 外からは俺達の様子が見えるはずだ。


「それでは両者正々堂々と……頑張ってね〜」


 気の抜けるような合図で試合は始まった。


 まず始まったのはガトリングから行われる連続射撃だった。


 ギャリギャリギャリっというけたたましい音と共に放たれる魔力の弾丸が俺目掛けて放たれる。


「っぶねぇ!?」


 それを真横に飛び、柱の影に飛び込んで躱す。

 ただまぁそれでも弾が止む事は無い。


「ちっ……」


 瞬く間に柱はボロボロにされていく。

 俺が跳ぶのと同時に柱は砕け散った。


「ちっ、ドカバカと撃ちやがって……」

「あらあら。逃げてばかりじゃ勝てないわよ!!」


 エリア内を走り、時に柱のように障害物で射線を切って弾を躱しながら隙を探す。

 だが霧穂村の奴、笑いながらガトリングぶっ放している。

 これがトリガーハッピーという奴かと思いながら逃げる。


「攻めて来ないならさっさと負けを認めたらどうかしら!! そしたら一週間、小間使いとしてコキ使ってあげるから!!」

「そうなるぐらいなら舌噛み切るわ!!」

「じゃあさっさと噛み切りなさいよ!!」

「嫌なこった!!」

「っ、生意気な!!私の異能で!!」

「っ!?」

「焼き尽くしてやる!!」


 次の瞬間、ガトリングからは火炎弾が放たれた。

 どうやら霧穂村の異能は火炎操作のようだ。

 簡単な異能だし、俺の異能を使うまでも無いだろう。


 俺の異能。

 実の親から捨てられる原因となった異能。

 直接戦闘に関係する訳ではないが、使いようでは強い部類だと個人的には思っている。


 俺目掛けて放たれる火炎弾は着弾すると盛大に爆発。

 その爆煙に紛れて俺は物陰に飛び込む。


 たいした時間稼ぎはできないと思うが、少しは休めるだろう。


「どこに隠れたぁ!!」


 相手は相手でキレ気味にガトリングを乱射している。

 幸いな事に俺がいる方とは見当違いな方を撃ってくれてはいるが、じきに俺の方に向くだろう。


(どうする……奴の弾幕を潜り抜けられない事はないが、それでも確実とはいえない)


 潜り抜ける策はある。

 だがそれは半ば暴論に近い理論が上手くいけばの話なのだ。


(難しいよなぁ……)


 さてどうするか、そう考え始めた時だった。


「お前みたいな羽虫に構っている時間はねぇんだよ!!」


 おいおい、クラスメイト達が見ている中でそんな暴論やめなさいよと思ってしまう。

 が、そんな俺の思いが通じる訳も無く、その口は閉じない。


「私はパパに期待されてるの!! 霧穂村を背負って立つ人間として!! 期待されているのよ!! アンタみたいな庶民とは大違いなの!! 分かったか!! 分かったら出て来い!!」


 奴の言葉を聞いて、頭の中がスゥーッとクリアになっていく。


「さっさと出て来い!! 庶民のクソガキャァッ!!」


 あぁ、そう言うのなら出て行ってやろう。


「あ?……おっせぇんだよ!!」


 なんて事だ。

 お望み通り出て行ってあげたのに、苛立ちは収まらないようだ。




 (朱音)の前に庶民はやっと出て来た。

 刀一本で私の砲凰と異能に勝てると思ったのかしら。

 まぁ良い、さっさと終わらせて私の実力を周囲にアピールしてやろう。

 砲凰から異能を付け足した弾を撃ち出し、目の前の庶民を撃ち倒す。

 頭の中で映像は完成した。

 完成したなら次はそれを実行に移すのみ。

 だったのだが……


「……えっ、あれっ」


 私は指を動かせなかった。

 奴が、庶民が私の事を見ているのだ。


 さっきまで黒かったはずの目は青に色を変えている。

 その目で見られただけで爪先から指の先までが一気に緊張し、動けないのだ。


「なぁ……」

「っ!? ……あ、アンタ何を!!」


 やっと出せたのはそんな言葉だった。


「……どうだ、馬鹿にしていた庶民に、底の底まで見透かされる気分は」

「は、はぁ? アンタ何を言って」

「俺の異能ってさ、相手の起源を見れるってものなんだよ」

「は、ハァ!?」


 何それ!

 何よ起源が見れるって!!

 訳が分からない!!!


 パニックになりつつも何とか引き金を引こうと、懸命に指に力を込める。


「ちゃんと狙えよ……そんなブレブレの銃で俺に当てられるのか?」

「っ、ッサゲンナ!! 当てて見せるに!!」

「無理だなぁ……」

「は、はぁ!?」

「弾が当たる確率って知っているか……」


 彼はブツブツと呟くように話し始める。


「一説じゃあ数千分の一だそうだ。ただそれはお互いがプロの確率。今この場において、ガタガタの銃身のお前じゃあもっと低いだろうよ」

「ば、バカ言うな!! 私は、わ、私は期待を背負ってい……」

「なぁその期待ってよ……何の期待だ?」

「…え?」

「そりゃ異能に対してか? それともお前の性格か? 人望か?」

「そ、そりゃあ……異能もあるけれど」

「へぇ、そりゃあめでたいなぁ……そんなお前に分からねぇだろうなぁ」

「な、何を……」


 やっと動けた。

 一歩。

 たった一歩後退するのに一苦労だ。

 そして……


「お前が家族に自慢している異能で、俺は親に捨てられた。お前にとって誇りでも、俺にとっては呪いにしかなってねぇんだよ」

「そ、そんな事私のせいじゃ」

「あぁそうだな。お前のせいじゃないな。でもお前はお前の都合で自慢して、俺を不快にさせた。だから、俺は俺の都合でお前を潰させてもらうが……」


 首を傾げ、真っ黒な両目でしっかりと私を見て彼は言った。


「良いよな?」


 その直後、私は瞬きしてしまった。

 敵が私を注視しているにも関わらず。

 自ら、視界を消したのだ。


「……あれ?」


 次に私が見たのは、私の体だった。

 次に見えたのは天井。

 そして私は床に落ち……

 激突する直前でエーテル体が崩壊し、生身の体へと戻った。


「はっ!? ……ヒュッ!?ギッ!?」


 慌てて私は両手で首を触る。

 繋がっている。

 そこに傷は無い。


「どうだぁ? いっぺん死んだ感想は」


 そう問いかけるのは対戦相手の早瀬遥。

 その手に刀は無い。

 当然だ。


 だって彼は私が瞬きした刹那の間に刀を投げ、私の首と胴を切り分けたのだ。


「えっ、あっ……あぁっ」

「まぁ試合は俺の勝ちで良いよな?」

「ひっ、はっ……うっ!!」


 コクコクと頷く事しか私にはできない。

 頷きながら私は、彼を見続ける事しかできない。

 恐ろしいと感じると同時に不気味さを感じさせる彼から、視線を逸らす事ができない。


 とてつもない程のプレッシャーが皮膚に突き刺さる。


 視界が回る。

 気分が悪くなる。

 視界が揺れる。


 今私は立っているのか座っているのか、はたまた倒れているのかが分からなくなる。


 喉が渇く。

 舌が回らない。


「あっ……あうあう」

「どうした?何か俺に言いたいのか?」


 彼の顔がグニャリと歪む。


「っひぃ!?」


 そこが限界だった。


「霧穂村、エーテル体崩壊に加えて戦意喪失を確認!! よって勝者、早瀬遥!!」


 私が白目を剥いて倒れたのを確認した教師による勝利宣言が、直後にアナウンスされた。

お読みくださり、ありがとうございます。


遥、無事初戦を白星スタート!!

ってのは良いのよ!!


エーテル体の説明で???ってなる人いると思います。

俺も書いててうーん?と思いましたが、本来の肉体と魔力で作った肉体を交換していると思ってください。


次回もお楽しみに!!

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