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5話〜第六感〜


 校内探検を終えて昼。

 俺達は食堂でランチタイムを迎えていた。

 全生徒全員が座っても席に余りができる程広い食堂。


 食券式のここは至って普通の食堂だった。


「飯も……普通だな」

「なんか言ったかい?」

「あ、いえ。何も」

「そうかいそうかい。さ、お待たせのラーメンだよ」

「いただきます」

「……普通、ってなんなんだろうねぇ」

「はい?」

「何でもないさ。さ、早く食べんと麺伸びるよ」


 普通。

 確かに普通って何なのだろうか。




「……うめぇ」


 ラーメンだが、美味かった。

 魚介ベースの醤油味。

 ナルトにチャーシューにメンマに海苔と刻みネギ。

 オーソドックスでありながら王道メンバーがスープの上に揃ったラーメンは、まさに最強だった。


 そのラーメンを食べながら先程の続きをふと思う。

 普通。

 俺にとっては生まれた時から異能があったから、異能がある世界が普通だった。

 逆に、異能の無い世界は異常に見えるんだと思う。


 例えその異能のせいで、実の親から捨てられたとしても、俺にとって異能は俺の一部。

 否定はできない。

 ただ実親は俺の異能の目が嫌いで俺と姉さんを捨てたらしい。

 まぁあの頃は俺も小さかったし、異能のオンオフの切り替えが下手くそだったからほぼ常時オン状態だった。


 俺の異能は使用状態になると目が変わる。

 文字通り、普通の目ではなくなる。

 色付きビー玉のように変わる。

 その目が不気味で嫌いだったらしく、捨てられた。


 俺の目を見る度に母は確か…….


(……あれ、何で俺知ってんだ?捨てられたのって確か二歳の頃で)


 覚えているはずが無い。

 なのに知っているなんておかしい。


(あぁ、そうだ。姉さんから聞かされたんだっけか。うん、きっとそうだな)


 そう一人で納得しながら麺を啜る。


「あ!! いたいた、探したよ〜!!」


 そんな俺に槍投げでぶん投げられた槍の如くぶつけられる言葉。

 聴き慣れた、家族の声。


「……姉さん、そんなデカい声出すと周りが驚くから」

「隣貰うね〜」

「……別に誰の物でも無いでしょ」


 エヘヘと笑いながら隣に座ったのは俺の姉である早瀬陽菜。

 俺と違って異能の扱いが上手く、既に国内外問わず多くの企業から卒業後は是非うちに来てくれと誘いが来ている。


 俺と違い、明るく長めの茶髪はサラサラで触れば絹にも勝る程の手触りだろう。

 俺を見る目も澄んでおり、見た物を引き込む魅力を持っている。

 全く、飾りっ気のない俺の黒髪黒目とは真逆だ。


「へ〜、遥はラーメンなんだ。お姉ちゃんは天ぷらうどんだよ〜」


 キラキラと向日葵のような笑顔でそう言う姉さん。

 彼女がその笑顔を向けるのは家族だけ。

 どれだけ仲の良い友人でも、その笑顔を向けられるのは俺と義父さんと義母さんの三人だけ。


 あの時だって、姉さんは俺の味方でいてくれて、あの笑顔でずっと側にいてくれた。


「美味しそうだね」

「でしょ〜」


 笑顔のままうどんを啜る姉さん。


「遥はうどん好きだもんね〜」


 気持ち悪いと思うほど幸せそうに姉さんは笑う。

 笑いながらうどんを食べている。

 ニコニコ笑いながらうどんを食べる。


「あ、陽菜ちゃんいたいたってあれ?弟くんじゃない。確か名前は」

「樹里〜。遅いよ〜」

「遥です」

「そうそう遥くん。また会えたね〜」

「……知り合いなの?」

「ん? まぁね。この前屋外訓練場で的当てしていたら来たのよ。施設見学していたみたいよ?」

「見学していたの? 一人で?」

「え、いや。先輩と」

「誰?」

「え?」

「誰?その先輩。女よね? 同室の女よね?」

「う、うん。天羽先輩って人だけど」

「天羽……天羽結衣ね」

「……何かマズかった?」

「そんな事は無いけど……」

「陽菜ちゃんは大好きな弟くんが取られないか心配なんだよね〜」

「樹里」

「うん?」

「思ってもいない事言わないで。面白くないよ」

「あはは……ごめんごめん。やっぱりバレるよね」

「当然でしょ」


 姉さんに嘘は通じない。

 姉さんには異能とは別に不思議な力がある。

 その不思議の力は世間では第六感(シックスセンス)と呼ばれている。


 姉さんの場合、相手が嘘を吐いているかいないかが分かるのだそうだ。


 第六感。

 その名の通り、六番目の感覚。

 異能者なら全員持っているわけではなく、また異能者ではなくても持っている者がいるという。


 その効果は異能程ではないが様々ある。

 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五感に関するものから、直感に優れるものや姉さんのように嘘が分かる人もいる。


「にしても樹里も大変よね。貴女の第六感って確か聴覚関係でしょ?」

「まぁねぇ。聞こえ過ぎるのも大変よ」

「え、薄明先輩も持っているんですか?」

「まぁね。私はこのイヤリングで雑音を消しているんだけどね」

「イヤリング?」

「うんそう。これなんだけどね」


 そう言って先輩は自分の耳を見せてくれた。

 青い雫型のイヤリングだ。


「人体用ノイズキャンセラーって所かな。他にも私自身の異能も使って音は極力拾わないようにしているんだけどね」

「先輩の異能ですか……それってどんなやつなんですか?」

「それは戦う時までの秘密だよ」

「そ、そうですか……って他学年とも試合ってあるんですか?」

「うん、あるよ。夏休みと冬休みと卒業式の前にね。その学期での成績の上位者同士で試合をやるよ」

「マジっすか……」

「戦えると良いね」

「で、ですね」

「じゃあ私はそろそろ行くね。姉弟でごゆっくり〜」


 手をヒラヒラ振りながら歩いて行く先輩。

 相変わらず綺麗な人だ。


「……遥、樹里の事好き?」

「えっ……うーん、綺麗な人だとは思うけど」

「好きなの?」

「……まだ分からないかな」

「……そう」


 ジッと姉さんは俺を見る。

 俺が嘘を吐いていないかを見ているのだろう。

 俺の目を真っ直ぐ見ている。


「……ありがとうね。いつも、貴方はそのまま、綺麗なままでいてね」

「う、うん?分かった」


 どう言う意味だろうか。

 分からないがとりあえず頷いておこう。


「お父さんとお母さんから昨日手紙が届いたの」

「義父さん達から?」

「うん。落ち着いたら電話してくれって書いてあったわよ」

「ん、分かった。その内ね」

「きっと喜ぶわよ。さ、ご飯食べちゃお。って麺が……」

「あぁ、伸びちゃったね……」


 お互いに伸びた麺を食べながら、俺達はその日の昼を終えた。




「さぁて午後は今後の予定について話したいんだけど」


 午後、教壇で新月先生が話している。


(昼のラーメン……美味かったなぁ)


 話を聞きながらそんな事を思い出す。


 先生は早速、今月行われる実技試験の事を話している。

 実技試験は学年別に行われる試験で、組合せは同じ学年の中からランダムに選ばれる。

 心具と異能を駆使して行われる、実践形式の試験だ。

 ただ魔力から作ったエーテル体で試験は行われるので、腕を切り落とされても死にはしない。

 ただ、めちゃくちゃ痛いそうだ。


 この際だからついでに魔力についても思い出す。

 日本ではこの呼び方の方が聞き慣れているなら魔力と言われているが、海外ではスタミナとも言われている。

 心具の材料でもあり、射撃系心具の弾を作る材料でもあり、エーテル体を作る材料でもあり、魔法を使うのに必要な力が魔力だ。


 魔力の使い方は人それぞれである。

 想像力が豊かな人であれば魔力で何でも作れる。

 他にも戦闘では魔力を壁のように展開すれば守りに、背中や足の裏から放出すれば移動にも使える。


 その人次第で輝きもするし腐りもするのが魔力なのだ。


 心具も異能も魔法も戦闘では重要だ。

 直接戦闘に関わる心具。

 異能も効果によっては戦闘に関係してくる。

 そして魔法は当人の苦手分野をカバーするのに主に使われる。


 それらの使い方、戦い方をここで学ぶのだ。

 が、何せ話が長い。

 俺はその、子どもっぽい性格のせいか長い話を聞くのが苦手だ。

 この悪癖は何としてでも直さねばならない。


「と、言うわけでその内試合の組み合わせの知らせが生徒手帳に届くと思うから、確認を忘れないように」


 生徒手帳。

 電子化が進んだ今、生徒手帳はその名に反して手帳の形をしていない。

 形としてはペンに近い形をしている。

 それにはGPS、通話機能、カメラにライトに検索機能と、様々な機能を持たされているハイテク手帳だ。

 折り畳まれているパーツを広げる事で記録した写真や映像が表示される。

 技術の進化は恐ろしいぜ。


 因みにだが、入学の際に好きな色を選ぶ事ができたので俺は青にしました。


(なげぇなぁ……)


 そんな事を思いながら話を聞く。


「という訳で、自分の出番が来たら皆頑張るように!! 良いね?」


 ウインクと共にそう言って締め括る先生。


 その日はそれで学校は終わりとなった。






「あ、うん。義母さん。遥だよ。姉さんから手紙が来たって聞いてさ。うん、うんうん。ちゃんとご飯食べているから安心してよ」


 その日の夜、義母さんに電話をしたのだが、とても喜んでくれた。


 義母さんも異能者なのだが、精神干渉系では国内で五本の指に入る凄腕の人だ。

 その旦那さんである義父さんも凄腕の異能者だが、何の異能が使えるのかは何度聞いても教えてくれない。


 ただそれでも、血の繋がらないが家族として愛情を注いでくれた事には感謝している。

 あれだな。

 産みの親より育ての親だなと思ってしまう。

 まぁ実親は顔も知らないから比べる事すらできないんだけどな。


「あぁそれで義父さんはいないの? 少し話が……そっか、今電話中なんだね。ううん、平気だよ。義父さんによろしくね。うん、義母さんもね。じゃあね」


 そう言って電話を切る。

 義父さんとも話したかったが、数週間前まで普通に話していたんだ。

 夏休みとかに帰れば良いし、時間のある時に電話をすれば良い。


 そう思いながら部屋の明かりを消す。

 もう寝よう。

 眠って。

 疲れを取ろう……






「……あれ、靴が無い」


 夜、なかなか寝付けなかった天羽はたまたま玄関を見た。

 そこには当然、部屋で暮らす天羽と早瀬の靴があるはずだっだ。

 が、あるはずの早瀬の靴だけが消えていた。


「……夜風にでも当たりに行ったのかな」


 寝付けない時は彼女もそうする事があるのでそう思い、自分の部屋へと帰って行く。


「まだ慣れないんだろうなぁ」


 そんな事を思いながら、彼女は布団に入った。











「うぅっ……ぐすっ」


 二階建ての一軒家。

 その二階にある自分の部屋で少年は膝を抱えながら泣いていた。


 その部屋の窓をジッと、一人の少年が見上げている。

 その真っ黒な目で。


 しばらく見た後、少年は何処かへと歩いて行った。




「……気になってついて来たは良いが、アイツ何者だ? この前会った時とは雰囲気が違ったが」


 少し離れた電柱の影からその少年を見て彼は呟く。


「まぁ良いか。にしても……」


 彼はその後、少年が見上げていた窓を見上げて呟く。


「面倒事はごめんだぜ……」


 頭を掻きながらそう呟いた。

お読みくださり、ありがとうございます。


あの〜、もし宜しければブクマとお星様を頂けますととても嬉しいです。


次回もお楽しみに

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