閑話
エルネストを初めて見かけたのは王宮の訓練場だった。仕事の報告があるからと王宮に行く父について綺麗な大きな庭園を通っているときに、騎士たちが訓練している様子が見えた。
その時の私はまだ幼かった。仕事なんてわからないし、難しい話も聞いていられない、貴族としてのマナーも最低限だけで許される、完璧じゃなくても可愛いと笑ってもらえるくらいの年頃。
彼は私より2つ年上だったけど、それでも当時まだ幼い彼が大人の騎士達に混ざって、それでも同じ訓練をしている様子がなんだかすごくキラキラして見えた。
「どうした、アリシア」
お父様が立ち止まった私に気づいて話しかけてきたのにも反応できなかった。すごく真剣な瞳で剣を振って、何度も転んでも投げ飛ばされてもその度に立ち上がる。
「彼が気になるのかい?」
すぐ隣でお父様がクスリと笑う声が聞こえて、ようやく声をかけられたことに気が着いた。
いつの間にかお父様が私の隣に蹲み込んで楽しそうな顔で私の視線の先を追っていた。
「彼ね、お父様のお友達の息子なんだ。今度挨拶してくれるかい?」
「あの子とお話できるの?」
あのキラキラした彼に。髪の毛は確かに金色で日差しが反射しているけれど、それも少し違うキラキラだと思う。キラキラ光る騎士様に、私はこのとき恋をした。
数日後お父様に連れられて彼に挨拶をした時はすごくドキドキした。先生に褒められた挨拶を必死にした。失敗はしなかった。自分でも完璧だと思ったし、彼のお父様も褒めてくれたの。
「エルネスト・ヴァレリアンだ。よろしく」
年下の女の子相手だというのに、随分と真面目な挨拶だったから思わず笑ってしまった。
私の挨拶を褒めることもなく、お世辞もなく、真顔で真剣に名前を名乗る彼はやっぱりキラキラして見えた。
「あなた、騎士さまでしょう? この前見たのよ。すごくかっこよかったの。がんばってね、騎士さま」
少し無愛想だったけど、真正面から見る彼はやっぱり素敵だったから、私は笑いかけたの。
私、応援するからねって。そう言った私に彼は少しだけ目を見開いて、それから少しだけ微笑んだ。その顔はずっとわたしの中に残って焼き付いて、消えることはなかった。
だからそれは消えることのない私の一番の宝物。
だってまだ二番目ではない頃の、だからと言って一番でもなかったけど、でも私だけに向けられた、私だけの笑顔だったから。