第5話
「佐伯さん。前回はどうでしたか?」
「散々でしたよ〜。
途中心の中で何度新山さんに助けを求めたか」
「それはそれは。
でもどうです?
だいぶ慣れてきたでしょ?」
「それは、まぁ。
最初は結婚相談所の職員になるなんて
どうなることかと思いましたけど、
8時間のフルタイムじゃなくて
1時間くらいですからね。
意外とどうにかなるものですね」
相槌は聞こえないが、新山さんも『うんうん』という顔をしている。
「今日は新山さんもいるから安心です!
男性だろうが女性だろうが、ドンと来いですよ」
ちょっと調子に乗りすぎたかな?
「頼もしいですね。
・・では、行きましょうか」
「えっ?どこに??」
なんか嫌な予感がする・・
「パーティー会場です」
「えっ!!」
「会員様向けの懇親会があるので」
新山さんは何でいつも突然なんだ!!
「あらかじめ言っといてくださいよ!」
「先週決まったので、伝えられなかったんです」
(↑さも当然顔)
そっか・・
先週新山さん休みだったから会ってないもんな・・orz
懇親会かぁ・・。
(会社の飲み会すらあんまり参加しないのに)
「会場に行って何をすればいいんでしょうか?
・・まさか!?司会進行とか!?
僕そんなの無理ですよ!!」
「安心してください。
それは会場のスタッフがやります。
私達はただ、見守るだけです」
ちょっと考えて、新山さんが続ける。
「・・まぁ立食パーティーなので、
空いたお皿や空いたグラスぐらいは
渡されるかもしれませんね。フフッ」
新山さんは軽く吹き出すように笑った。
(ジョークのつもりだったんだろうか?)
とりあえず、僕も軽く笑った。
(引きつった顔してたと思うけど)
〜会場への道中〜
はぁ。足取りが重い。
「見守るって言いましたけど、本当に何もしないんですか?」
「・・っと言いますと?」
「・・う〜ん、、例えば、、、
第一印象は誰が良いか、聞き回るとか?」
「フフッ。
そんな恋愛バラエティ番組でよくありそうなことは一切無いので安心してください。
本当にただの懇親会ですよ」
・・
じゃあ告白タイムからの
『ちょっと待ったぁ!』的な展開も無さそうだな・・
(↑ちょっと残念。生で見たかったなぁ)
残念がりながら歩いていると、突然振り返った新山さんに面食らう。
「えっ!?何すか!?」
「そういえば佐伯さん、名刺はちゃんと持ってきていますか?」
名刺?
確か内ポケットに・・
あった!
「はい!あります!」
「良かった。
ではちゃんと、好みの方に渡すんですよ。
もちろん、プライベートの連絡先を書く事も忘れずに」
「えっ!なんで!!?」
僕の反応を見た新山さんが、呆れているのが目に見えてわかる。
「佐伯さん。
アナタ、何のために結婚相談所の職員になったんですか?」
「いやっ、もちろんわかってますけど・・
他の会員様も見てるかもしれないのに
連絡先を書いた名刺を渡すなんて・・
逆に悪評が立つんじゃないですか?」
「渡し方次第ですよ。
今のご時世、狙っている相手に対して
連絡先をわざわざ名刺で渡す人はなかなかいません。
スマホを出せば、済むことですからね」
新山さんが、スマホをフリフリして見せながら続ける。
「いいですか?
会員の皆様は他の会員様の
一挙手一投足はかなり気にしますが、
正直、職員の事なんてほぼ見ていません。
しかも、渡すのは名刺です。
業務的な何かだと思うでしょう。
丁寧に名刺を渡せば、なおのこと良いです」
「・・」
なるほど・・と思いつつ、
なんとなく、罪悪感を感じてしまう。
昔、夏にナンパ目的でプールの監視員のバイトをするような人が大嫌いだった。
(真面目にプールの監視員をしている方すいません)
でも、、今まさに自分はそういう事をしてるんじゃなかろうか、と思ってしまう。
(ちょっと違う気もするけど・・)
・・
何を今さら!!
このSプランに参加した時点でそうだろ!
もう後には引けないんだよ!
・・っと自分に言い聞かせたものの、一向に覚悟が決まらない。
あぁ・・
新山さんの歩くスピードが速く感じる。
一生会場に着かないでほしい。。。