第21話
「あの・・『全ての要望を満たしている女性でもない』っというのは・・?」
「自分でも気付いてるんじゃないですか?」
・・
気付いてないから聞いてるんでしょうが!
もったいぶらないでよ!
(イライラ)
恐らく僕が気付いてない事に気付いたのか、新山さんが続ける。
「・・最初に『あくまで勤務時間内は真摯に対応してください』と言ったはずです。
わざわざ休日に付き添ったりする必要はないんですよ?」
「!!・・それは、、
・・向こうにいきなり言われたから、、
・・しょうがなく・・」
「・・フフッ、やっぱり」
「?」
「・・先ほど挙げた『ウザイ』と『テキトー』ですが、・・実はそんなに嫌いじゃないんでしょ?」
「!!」
「なんなら、ウザイくらい絡まれたいとすら思ってるんじゃないですか?
・・もちろん、異性からのみ」
(↑あれ?もしかして前に『そっちの気があると思ってます?』って聞いたこと根に持ってる?)
・・なるほど。確かに。
(時々ホントにウザイと思う事あるけど)
「・・そうかもしれません」
「そうでしょう?」
自分の予想通りだった事が嬉しいのか、
新山さんは少しだけニヤッとした。
「さて、そして『危なっかしい』ですが・・
・・こればっかりはどうにもなりませんね」
ズコッ!
(↑よくテレビでやってるコケそうになるやつ)
(↑実際にはコケそうになってないよ。頭の中だけ)
どうにもならんのかい!!
「・・まぁ要は、
心配で心配でたまらないって事ですね?」
「!!・・なんかその言い方嫌です!」
「だってそういう事でしょう?」
「・・なんというか、、あの人は、、
僕のペースをことごとく乱すんですよ!
今まで一人でのらりくらりやってきた、
僕のペースを」
「まぁそれが、パートナーがいるという事ですからね」
「・・だとしたら、知りたくなかったです。。
正直、、出会わなきゃよかったです・・」
・・
「さて、最後に『チャラい』ですが・・」
新山さんは、僕の話を無視して続けた。
(こんなに頑張ったのに・・)
「・・そもそもあの方は、
本当にチャラいんですか?」
「えっ?
いやっ・・チャラいでしょう!」
「・・アナタ、本当は気付いてるんじゃないですか?」
・・出た!気付かせ待ち!
(もういいって)
「見かけや雰囲気がチャラそうなだけで、
中身はそこまでチャラくないのでは?」
「!!何を根拠にそんな・・」
「もちろん、明確な根拠があるわけではないのですが・・
パーティーの時に、姫川様を結構見てたんですよ。私にはパーティーを監視する義務がありましたので。
・・姫川様は、、嫌でも目立つタイプでしたし」
パーティーか・・
だいぶ懐かしいな。
・・ふと、あのキスを思い出し、
恥ずかしさが込み上げる。
そんな僕に気付く気配もなく、
新山さんが続ける。
「雰囲気が軽そうな方ってやっぱり、
パーティーでは人気なんです。
・・言い方は悪いですが、
簡単にいけそうだから」
「!!いやっ・・いけそうって・・」
・・話してる最中に、
またあのキスを思い出す。
・・
・・そうだよな。
簡単にキスするんだから、男達からしたら、かなりチョロいよな。
男なんて、
醜い考えのヤツしかいないのだから。
(↑偏見のかたまり)
「でも、、うまーくかわしてましたよ。
携帯を片手に連絡先を聞こうとする男性の皆様を。
基本、女性にばかり話しかけてましたし」
「えっ!?
・・いやいや!僕が見た時は、
男性に話しに行ってたような・・」
「そう!そこなんです!
佐伯さんが見た時だけ、男性に話しに行ってたように、私も見えたんです!」
(心なしか新山さんのテンションが上がってる気がする)
「・・それって、まさか・・」
「そう、私の気のせいじゃなければ、、、
それは駆け引きですね」
「!!」
カケヒキ・・?
駆け引き!?
あの姫川様が!??
・・どう考えても猪突猛進タイプだろ!
(↑失礼)
・・だが、
思い返してみれば僕も小学生の頃、
気になる女子の前で、ワザと違う女子と話してたような・・
(↑似た者同士)
(↑小学生の頃の僕とね)
「・・だから、、、
不器用なだけなんじゃないですか?
・・佐伯さんと一緒で」
「!!」
・・そう、薄々気付いてた。
チャラいわけじゃなく、
逆に純粋なんじゃないかって事に。
いつもふざけてるフリをして、
本気で結婚相手を探してるんじゃないかって事に。
・・でも、諦めてるんじゃないかって。
自分には無理だって。
・・そして、あのキス。
普段はガサツで、デリカシーのかけらも無い姫川様から繰り出された、
優しく、繊細なキス。
どこか、切なさと儚さを感じたキス。
・・だからあの時、何も言えなかった。
これが、あの時の違和感の正体。
・・もちろん、
本人から直接聞いたわけじゃないから、
僕の推測に過ぎないんだけど。
「・・でも、、
『男紹介して』って言われたんですよ・・」
(↑相変わらず素直じゃない)
「・・だから、、
あの方は不器用なんですよ」
少しニヤッとして、
新山さんが大きな手提げの紙袋を差し出す。
・・?
・・あっ!
あの時、姫川様が持ってきた紙袋だ。
中を確認して、ハッとする。
「菓子折りの下に入ってましたよ。
あの時、佐伯さんを呼び止めたのに・・
そそくさと帰っちゃったんで渡せなくて」
・・ぐっ。
「これっ、、佐伯さんにですよね?」
新山さんは明らかに僕宛てだとわかりきった顔で問いかけてきた。
「・・ですね」
中には小さなキリンのぬいぐるみが入っていた。
・・タグの部分に、
あの時行った動物園の名前が記載してあり、
その下にマジックで『さえキリン』と書いてある。
「・・何なんすかね?
・・ほんとに」
・・
人前で涙ぐむのか?
この僕が?
卒業式ですら泣かなかったこの僕が?
気持ちを察した新山さんが、
優しく問いかける。
「やっぱり、、、
出会わなきゃ・・よかったですか?」
・・
「・・わからないです・・まだ・・」
正直な気持ちだった。
・・でも、
やる事は決まった。
〜帰り〜
「色々と話を聞いていただき、
ありがとうございました」
「いえいえ。では」
新山さんは、もう怒っていないようだ。
「佐伯さん」
呼び止められたので、今度はちゃんと立ち止まった。
「はい?」
「ファイト!」
ビクッ!
「・・はっはい!
ありがとうございます!」
(普段あんまり声張らない人が、急に声張ったらビビるなぁ)
(↑新山さんキャラ変してない?こんなキャラだったっけ?)
でも、、気合は入った!
(あざっす!!)
よしっ!!
・・仲直り大作戦だ!
僕は燃えていた。
・・恐らく人生で初めて。
(↑しょうもない人生だったんだな)