第18話
帰り道、
歩けば歩くほど、
惨めな気持ちに苛まれた。
何とか自分を肯定しようとする自分自身に嫌気がさしたし、
どうにか姫川様のせいにしようとしてる自分にも嫌気がさした。
・・ふと、
過去に働き盛りだった頃を思い出す。
とにかく仕事がきつく、忙しかったあの頃。
そんな時に友人から
電話で恋の悩みを相談され、
『きつい・・死にたい・・』
と言っていた友人に対し、
『何を恋愛ごときで!
仕事の方が数百万倍きついっつーの!!』
っと怒った記憶がある。
・・
・・今になって、
多少、、その気持ちがわかるとは。
・・
・・わかりたくなかったよ。
こんな思いをするなら、
こんなに苦しいんなら、
結婚相談所になんて行くんじゃなかった。
・・
・・姫川様になんて、
出会わなければよかった。
翌日、フロマージュの出勤日だったが、
風邪を理由に欠勤した。
・・もちろん、風邪など引いていない。
こうして、僕はフロマージュに行かなくなった。
・・
味気ない日常が、ただただ過ぎていく。
当然ながら、
姫川様から連絡は来ないし、
こちらから連絡もしない。
(ってかブロックされてるだろうし)
別に期待もしていない・・
・・と言えば嘘になる。
時々、通勤中にトーク画面を見てしまう。
動物園に行ったのが、何年も前の事のようだ。
(顔のケガ、治ったかな・・)
・・もちろん、
僕はもう怒っていない。
でも、
姫川様はまだ怒ってるのかな?
・・怒ってるよな〜。
・・
・・正直、、連絡したい。
謝りたい。
・・でも、キッカケが無い。
連絡をするキッカケが。
・・
・・いや、ウソだ。
あるじゃないか。
動物園で撮った、
五十嵐様と姫川様のツーショット写真が。
これを送ればいい。
『送るの忘れてました』
ってメッセージと共に。
それで、どのくらい怒ってるのかがわかる。
・・
・・やっぱ、できない。
この写真を送ることで、
五十嵐様の事を、思い出してほしくない。。
・・
・・僕はこんなにも醜かったのか。
フロマージュに行かない休日にも慣れてきた。
・・いやっ、
元の日常に戻った、の方が正しいな。
いつも通り、
録画したドラマや映画を観て過ごす休日。
(↑既に数十回観た作品)
(↑面白さが保証されてるからね。冒険はしないタイプ)
『トゥルトゥントゥントゥントゥントゥン、トゥン、トゥントゥントゥントゥルトゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥン、トゥン・・』
・・一瞬期待したが、すぐに気付いた。
この着信音は違う。
トークアプリのではなく、通常の電話だ。
相手は・・
フロマージュだ。
「・・はい。もしもし」
「もしもし。佐伯さんですか?
新山です」
・・電話に出る前からなんとなく、
新山さんだろうな、っと思ってた。
「はい。佐伯です・・」
「佐伯さん。
・・もう来ないんですか?」
「・・」
何も言えない・・
「・・どちらにせよ、
退会するなら一度、ご来店ください」
「・・はい」
「では、お待ちしております」
・・自分でも、
このままじゃダメだと思ってた。
辞めるなら辞めるで、ちゃんと退会しないと。
(月会費も発生してるわけだし)
・・でも、怖い。
やっぱり、怒られるんだろうか。
・・
怒られるよな・・。
もういい大人なのに、怒られたくないな・・。
初めて来店した時よりも、
初勤務日の時よりも、
フロマージュに行くのが怖かった。