第17話
「皆様真剣に結婚したくてここに来てるんですよ!」
「ウチだって真剣だっつーの!!」
「・・いやっ、真剣さを感じませんね」
「んなもんテメーの主観だろうが!」
主観・・
何気に難しい言葉知ってんだよなぁ。
(もしや東大?)
(↑んなわけ)
・・って感心してる場合じゃないぞ。
まじで一歩も引かないな。
(ああ言えばこう言う)
「っ・・そもそも、
酔っ払ってケガをするなんて、
恥ずかしくないんですか」
「・・説教してんじゃねーよ」
姫川様が明らかにいたたまれない顔をしている。
・・もうひと押し!
「しかも、、女性が顔にケガなんて・・」
「・・」
よし!効いてる!!
(ラッシュ!ラッシュ!)
「・・それに、
両親を『パピー』と『マミー』で登録しないでくださいよ!
わかりづらいです!」
「・・ってか人のスマホ勝手に見んなし!」
・・やばい。
息を吹き返した。
「じっ・・状況が状況だからしょうがないじゃないですか!」
「・・訴えたらウチが勝つぞ」
姫川様は勝ち誇った顔をしている。
・・くっ!!
(まさかのカウンター!)
・・やっぱり、
姫川様には勝てそうもない。。
・・
お父様には勝ったのに・・
(↑勝ってはいない)
敗北感を噛みしめていたらつい、
言うはずじゃなかった本音がこぼれてしまった。
「めちゃくちゃ心配したんですよ・・」
「!・・」
でもこの一言で、
終始臨戦態勢だった姫川様の態度が変わり、
口調も優しくなった。
「・・別にダイジョブだよ!
ウチには衛兵・・いや近衛兵がいっぱい居るから!」
「・・」
・・もしかしたら、
ワザとふざけて、仲直りするキッカケを与えてくれたのかもしれない。
・・でも、
ここでふざけられた事に、
僕は少しイラッとしてしまった。
「別にどっちの兵でもいいですよ。
ってかアナタにそんな兵いないでしょ」
「マジレスすんな!」
「もし居るなら、アナタが転んだ時、
その兵達は何してたんですか。
即刻クビにしてください」
「だからマジレスすんなって!」
これにより姫川様も、再度不機嫌になる。
「・・ったく!マジでなんなん!?
・・あの日か??」
「・・僕は男です」
「わかってるっつーの!
冗談だよ!」
・・マジでデリカシーがないわ。
「冗談でも、そういうデリカシーの無い発言はやめてもらえますか?
・・やっぱり、アナタみたいな方に、大切な会員様を紹介できません」
「はぁ!?」
「どうせ割り切った相手を探そうとしてるだけなんですよね?
この間のパーティーでも、隙だらけの軽い感じではしゃいでましたもんね。
結婚相談所じゃなくて、出会い系を使ったらどうですか?」
「・・・
マジでざけんなよ」
・・僕は一体何を言ってるんだ?
こんなこと、本当は言いたくないのに・・
止まらない!
「正直言ってアナタって、、
チャラいを通り越してチョロいんですよね」
「チョロいのはテメーだろ!」
「!・・・・
とにかく、お引き取りを・・」
「あぁ!?」
「・・もう、、来ないでください」
「っ!クソが!」
姫川様は去っていった。
・・
片付けを終え、奥の事務所に居る新山さんに紙袋を渡す。
「・・これ、姫川様から頂きました。
皆さんで食べてください」
「どうも。
・・
!これっ・・」
新山さんが何か言ったような気がしたが、
一刻も早く帰りたいので聞こえなかったフリをして、
僕もフロマージュをあとにした。
・・
僕は最低だ。
何も悪い事をしていないお客様に
『もう来ないでください』なんて言う職員がどこにいる?
前代未聞だ。
この事が新山さん達にバレたら、
僕はきっと怒られるんだろうな。
・・いやっ、クビかな。
もしかしたら既に、姫川様から電話でクレームが来てるかもな。
・・まぁ、もはやそんな事はどうでもいい。
自己嫌悪に押し潰されそうだ。
僕は、職員失格だ。