第93話 氷の強化と凍結エフェクト
ココアといちゃいちゃしながら、エリアの攻略を進めていく。
順調に道程を消化し、蜘蛛や蛇のモンスターへの対応にも慣れて来た頃。私の頭に、ポーン、という聞き慣れた音が。
「お?」
「ん、どうしたの、ベル?」
「いや、今メッセージが来て……おっ、ついに来た、新しいスキル!」
『おおっ!』
『来たな、最近氷使ってたしそれ系?』
「うん、ご明察!」
視聴者さんのコメントに頷き返せば、『おおー!』とか『待ってました!』の声。『久しぶりにゲームっぽいイベントが起こった気がする』っていう声は……うん、見なかったことにしよう。
「それで、どんなの? まあ、普通の魔法の方は知ってるんだけど」
「まるで私の使う魔法が普通じゃないみたいな言い方だね!! いやその通りだけども!!」
『ようやくベルちゃんが自分の異常性に気付いたようだ』
『成長したなぁ……(ほろり)』
「いや、その反応もおかしくない!? ああもう、とにかく発表するよ!!」
まず、ココアも知ってた普通の魔法の方は、《アイスブリザード》、氷属性の範囲攻撃だ。
この辺りはみんな一緒なのかな? と思ったら、氷の場合は一定確率で相手を《凍結》の状態異常にして、少しの間行動不能に出来るらしい。すごい。
それなら、もう一つの方も似たような効果があったりするのかな……?
スキル:アイスドライブ
分類:強化スキル
習得条件:【魔術師】レベル20以上、《アイスゲイザー》にて距離一メートル以内の敵を一定数撃破。
効果:一定時間、ATK小アップ、物理属性に氷属性付与、一定確率で相手を《凍結》状態にする。
「おおっ、予想通り!」
『これはシンプルに分かりやすいな』
『見た感じデメリットないけど、状態異常とATKにちょい補正』
『釣り合いは取れてる感じ?』
『かな?』
新しく習得した属性強化の効果内容に、コメントからも納得の声。
風の時は色々と地味な表記だったけど、今回は状態異常付きだもんね。これで上手くいけば一方的に殴り続けられるとすれば、中々悪くないと思う。
「でもベル、風の時もテキスト外の変な効果があったんだし、一度試してみたら……?」
「言われてみればそれもそうだね。早速やってみよっか」
ココアちゃんに促され、私は少し離れたところで早速杖を構えてみる。
「行くよー、《アイスドライブ》!!」
MPがガクンと減り、強化スキルが発動。杖から白いもやみたいな物が漏れ出て、私の周囲に纏わり付く。
おお、なんか心なしかひんやりした気がするよ。さすが氷の強化スキル、もうじき来る夏には最適だね。
……あれ、逆に言うと夏場に《フレアドライブ》ってやばいんじゃ……ま、まあ、あくまでゲームの中だしね、多少暑くても問題ないはず。多分。
「ベル、何か変な感じある?」
「ああ、特にないよ。動くのにも不都合ないし」
ココアに尋ねられたことで逸れた思考を元に戻した私は、その場で軽くステップを踏んでみる。
そんな私の動きに合わせて、ふわふわと漂う白いもやが凍り付き、雪の結晶みたいになってヒラヒラと舞い散った。うわぁ、綺麗。
「んー、しょっ!!」
そして、試しに杖を思い切りひと振り。
ぶおん!! と空を裂く鋭い音と共に宙を白い線が走り……パキンッ! と音を立て、線に沿う形で大気が凍り付いた。
「おおっ!? 何これ、すごい」
攻撃に合わせて出現した氷塊は、少しの間空中に留まると、そのまま落ちることなく砕けて消えた。
更にもう一度振るえば、それに合わせてまた現れる氷。なるほど、これが《凍結》の状態異常と……属性分の補正ダメージになってくれるのかな?
『氷のエフェクトはやっぱ綺麗でいいねえ、俺一番好きだわ』
『派手で火力高い炎と、綺麗で拘束力の高い氷、便利で当てやすい風ってのが魔法の基本だからな』
『たまには土のこと思い出してあげて』
『いやだってあれ色々と地味だから……』
私の《アイスドライブ》を見て、視聴者さん達もめいめいに盛り上がる。
土属性、後回しにしてたけど、そんなに地味なの? だとしたら、習得順失敗したかなぁ……どうせコンプリートするんだし、最後は派手に盛り上がる奴が良かったんだけど。
まあ、実際に習得してみないとどういうのか分からないし、今から落胆してもしょうがないか。
「よいしょお!! 《魔法撃》!!」
というわけで、実験の締めとばかりに全力で杖を振り下ろし、地面へと叩き付ける。
ATKの補正を上げたらどうなるかと思ってやってみたその一撃によって、私の目の前に巨大な氷柱が屹立した。
うわお、流石にこんな大きいのは予想外だよ。
『でっけえ!w』
『ATKの数値によって演出変わるのか。これひょっとして凍結確率もATKによって変わるパターンなのでは?』
『ありそうだなぁ、ボスとか絶対凍結しないだろ』
『ベルちゃんみたいな極振りならあるいは?』
「さすがにその辺は調べてみないとだね……でも、無意味な演出はしないだろうし、可能性は高そう。まあ、今日のところはあまり検証出来ないだろうけど」
コメントに補足する形で、ココアも自身の推論を口にする。
まあ、今日のところはボスまでの道中を確かめるだけだからね。多分、この調子ならすぐに到達出来るとは思うけど。
「じゃあ《アイスドライブ》の検証もこれくらいで切り上げて、先に進もうか」
「うん」
どんな挙動をするのかは大体分かったし、これまでに比べて普段から手軽に使っていけそうだっていうのは大きい。
そんなことを考えながら、何となしに歩きだそうとして……
「って、わひゃあ!?」
「ベル!?」
アイスドライブの効果で出来た氷柱の根本、少し出っ張った部分に足を引っ掻けて、その場で転んでしまった。
いてて、まさかまだ残ってるとは思わなかったよ。失敗失敗。
「全く、何してるの……」
「たはは、ごめんごめん」
呆れ顔のココアに笑って誤魔化しながら、差し伸べられた手を取ろうと私もまた手を伸ばし……
「大丈夫かい? お嬢ちゃん」
「へ?」
なぜかその手は、間に入った男の人によって握られていた。
突然の事態に、ココアが驚き固まっている中、私の体はひょいと助け起こされる。
「スキルの検証かい? 大事なことだが、足元には気を付けたまえよ。せっかくの可愛らしい顔が傷付いては事だ」
「あ、はい。その、えーっと……あなたは?」
凄まじく歯の浮くような台詞をホイホイと投げ込む男の登場に、何と返したらいいか悩みながらも、どうにか名前だけは尋ねてみる。
そんな私の困惑を感じ取ったのか、男は「おっと失敬」と金色に輝く前髪を払いながら、無駄に気取ったポーズで名乗りを上げた。
「俺の名はアーサー、FFO最強の騎士さ。よろしく頼むよ、お嬢ちゃん?」
ついに現れた百合の間に挟まる男。次回、アーサー死す(嘘予告)




