第88話 新装備と撮影会
「にゃっ、にゃにゃにゃ、にゃにしてるにょ!?」
「あはは、全然呂律回ってないよ?」
私の行動がよっぽど予想外だったのか、ココアちゃんが顔を真っ赤にして狼狽えてる。
うん、可愛いからもう一度しっかり抱き締めておこう。ぎゅー。
「あ、わわわ……! ま、まって、まって……! う、嬉しいけど、なんで、そんなっ、急に……!?」
「いや、ボコミ見てたら、あーだこーだ理由をつけて我慢するのバカらしいなって思っちゃって。もう好きなものは好きって言うことにしたの」
「ぼ、ボコミぃ……!!」
お前のせいか! とでも言わんばかりに、ココアちゃんがボコミを睨み付ける。
でも、当のボコミは私に放り捨てられた勢いで、頭から壁に突き刺さってるんだよね。
いや、うん、こんなことになるとは思わなくて。なんかごめん。
「くっ、ペアルックはペアルックでも、本当は夏が近いからとゴリ押しで作らせたビキニアーマーの方をココアさんに試着させたところに、満を持してお姉さんを突入させて理性を打ち砕く予定だったのに……まさかそんな私達の小細工関係なしに突然こんなことになるなんて、予想外です……!!」
「あ、あれって、そんなこと企んで作らせてたのか……! うらぎりものぉ……!」
「ベルはいつだって私達の予想を超えていくからね……何を狙っても思い通りには動いてくれないのよ。でもそれが面白いでしょ?」
「はい! 予想とは違いましたけど、これはこれで悪くないです……! うふふ……!」
「エレインまで……お、おまえら、おぼえてろぉ……!」
その横で、エレインとサーニャちゃんがなんだか意気投合していた。
いや、私はただ自分に従っただけで、二人の予想を外そうなんてこれっぽっちも考えてませんでしたけど? ていうか、ビキニアーマーって何? それすごく気になるんだけど。もう少し待ってから来れば良かったかな。むむむ。
「べ、ベル、そろそろ、離れて……!」
「えー」
「装備、せっかく作ったんだから……は、早く着て欲しいの!」
「……ビキニアーマーの方?」
「ちがう!! ていうかそんなのないっ!! わすれて!!」
「ふふっ、分かってるよ」
このままココアちゃんを抱いていたい気持ちもあるけど、せっかく作って貰った装備も大事だし、まずはそっちだよね。
というわけで、茹で蛸みたいに真っ赤になったココアちゃんを一旦解放すると、譲渡された装備一式を早速装着してみた。
名称:「白翼の天使」シリーズ
種別:ローブ、インナー、パンツ、グローブ、ブーツ
装備制限:レベル30以上
効果:MP+100、DEF+10、MIND+30、AGI+100
スキル:浮遊、状態異常耐性、MP回復速度上昇
「……わーお」
見た目はペアルックという言葉通り、ココアちゃんが今着ているのとほとんど同じ。それでいて、性能がやばい。
防御性能は以前の『新雪の魔女』と比べてむしろ劣ってるくらいだけど、代わりにAGIへの補正がすごい。前の三倍以上だ。
それでいて、MPの最大値上昇に加え、MPの回復速度を上げる装備スキルまで備わってる。
最近は《マナブレイカー》だけじゃなくて、《空歩》に各種属性強化にと、MPを使う場面が増えてたから、このスキルはすごくありがたい。
それと、《浮遊》って……これがウィングブーツ本来の効果かな? 一応詳細を見てみよう。
スキル:浮遊
分類:補助スキル
効果:《突風》エリアの中で、三十秒間空中を移動出来るようになる
ほうほう、なるほど。
突風エリアって、あのやたら風が強いところだよね? ああいう場所限定で、空を飛べるようになる……って解釈でいいのかな?
《エアドライブ》ですっごい吹き飛ばされたのは、あれも《浮遊》と似た効果があるから? だとすれば効果にそう書いてあるはずだし、少し違うんだろうか。
まあ、それもこれも、実際に試してみればいい話か。
それよりも、今はまず。
「ココアちゃん、早速スクショ撮ろう、スクショ!」
「ふえぁ!? ちょっ、そこはまず浮遊の検証とかじゃ……!?」
「そんなのどうせお昼食べた後なんだからいいの! ほらほら!」
「わ、わかった、わかったからひっぱるなぁ……!」
「エレイン、サーニャちゃん、撮影お願い!」
「はーいっと」
「お任せください! 最高のアングルで撮ってあげます!!」
というわけで、まずは新しい装備での写真撮影会。エレインは普通に、サーニャちゃんはあれこれと色んなアングルで撮りまくってくれた。
私がココアちゃんに抱き着いてる絵とか、逆に抱っこされてる絵とか……後、ワッフルを二人で可愛がってる絵も撮りたいって言われた。これ、途中からサーニャちゃんの欲しい絵面になってない? いや、最初からか。
とはいえまあ、幼獣と戯れるココアちゃんはとっても可愛いので普通にアリだけどね。
ただ、キスしてるところをスクショに撮って残そうという提案は、ココアちゃんに断固拒否されてしまった。残念。
「じゃあ、せめてこれくらいは……」
「ほあっ!?」
スクショを自撮りモードで使いながら、ココアちゃんのほっぺにキス。真っ赤になった可愛らしい顔を見事写真に納めることに成功した。うへへ。
「う、う~……! ベル、そのスクショ、絶対誰にも渡しちゃダメだからね……!?」
「分かってるって」
こんな可愛い写真、独占するに決まってるじゃん。
サーニャちゃんはちょっと残念そうだったけど、「でもそういう独占欲みたいなのもそれはそれで……」とかなんとか、陶酔した表情で呟いてた。
うん、楽しそうだからよしとしよう。
「さてと、撮影会もいいけど、そろそろログアウトした方がいいんじゃない? 時間も時間だし」
「あ、それもそうだね。それじゃあ、浮遊スキルの検証は予定どおり午後からやるということで、都合が良ければまたみんな集まろうか。サーニャちゃんも、良ければ一緒に配信プレイする?」
そんなこんなで時間も過ぎ、エレインからそんな提案が。
ひとまずそれに賛同しつつ、サーニャちゃんに午後の予定を尋ねてみる。
けれど残念ながら、返ってきたのは否定の言葉だった。
「いえいえ、今日のところは十分堪能させて貰いましたから、お邪魔虫は退散します! またいずれご一緒しましょう!」
「うん、分かった。またね、サーニャちゃん」
「はい! ココアさん、次会う時はもっと思いっきりお姉さんとイチャイチャしてるところ見せてくださいね♪」
「み、みせるかばかぁ!」
ふふふ、と笑いながら去っていくサーニャちゃんに、ココアちゃんが吠える。
でも、なんやかんやキス以外はサーニャちゃんに言われるがまま私に甘えてくれてたし、まんざらでもないって思ってくれてたのかな? ふふふ。
「……ベル、ログアウトしたら覚えててよ……」
「うん? どういうこと?」
「なんでもない! お先!」
サーニャちゃんに続き、ココアちゃんもログアウト。あらら、怒らせちゃったかな?
残された私とエレインは、お互いに視線を交わして肩を竦め合った。
「それじゃあ、私も落ちるよ。あー、午後は私もお店の手伝いしてるから、検証と攻略二人で頑張ってみなよ。姉妹水入らずでさ」
「ええ? でも、いいの?」
「その方がいちゃつきやすいでしょ? サーニャほどじゃないけど、私も二人には上手くいって欲しいからね。まあ、ボス戦くらいは参加させて欲しいかなってくらい?」
悪戯っぽくウィンクを飛ばす親友に、「ありがとう」と笑い返す。
本当、この子には世話になりっぱなしだなぁ。
「というわけで、ログアウトした後、雫ちゃんにココアとのことどう言い訳するか考えときなよ?」
「大丈夫、そっちはなんとかなるよ!」
多分ね。
「そう、ならいいけど。それじゃあ、また学校でね」
「うん、またねー」
エレインと手を振り合い、私達もログアウト。
そうして、本当に誰もいなくなったホームの中、オブジェと化していた一人の変態の声が響く。
「お姉様だけでなく、他の皆さんまで誰一人、私を助けることなくログアウトしていきましたわね……! これはひょっとして、また誰かがログインしてくるまで放置されるパターンですの? こ、ここまで苛烈な放置プレイをパーティ全員で仕掛けてくるなんて……やばすぎですわ……! はあはあ」
結局その後、ボコミを壁に刺したままだったことを思い出した私が慌てて戻って来るまで、この子は自力脱出の術を探ることもなくもじもじと奇怪な動きを続けていたらしい。
オチを全部変態に持っていかれた気がする問題。




