第83話 撲殺兎とテイマー少女
ぶっちゃけココアがウサミミ装備してるの覚えてる読者さんどれだけいるのだろう(汗)
今回は雫視点です。
我ながら、どうしてこうなったんだろう?
そんなことを考えながら、私はココアの姿で決闘開始のカウントダウンを眺める。
「さあ、いつでもどうぞ?」
私の前に立つのは、つい今さっき出会ったばかりのプレイヤー、サーニャ。お姉ちゃんと"仲良く"なりたいと言って、私に決闘を吹っ掛けてきた。
ほとんど初対面と変わらないのに私の正体を看破されたことと言い、ただものじゃない。お姉ちゃんにすらまだバレてないのに。
……うん、なんだろう、それはそれでなんか腹立ってきた。少しくらい気付いてくれてもよくない?
いや、気付かれない方が都合がいいんだけど……むぅ。
って、今はそんな話じゃない。
「そう……? なら、やらせてもらう」
胸に掲げられた聖印を掴み、サーニャとの距離を測る。
問題なのは、そんなただものじゃない女の子が、何の切っ掛けかお姉ちゃんを好いているらしいこと。
お姉ちゃんはとにかく他人に甘くてお人好しなところがあるから、きっとどこかで知らないうちにフラグを建ててたんだろう。本当にお姉ちゃんは女たらしなんだから。
さすがに、この間の猫を助けた一件が理由ってことは……ないと思うけど。
「いくよ……! 《エスケープドオーラ》!」
決闘のカウントダウン終了と同時、私は自分に強化魔法をかけて走り出す。
サーニャは見たところ、フォレストウルフの幼獣を連れてるテイマーみたい。
テイマーはそれ専用の職業があるわけじゃなくて、スキルによって仲間に加えたモンスターを戦闘の要にするプレイヤーの総称。
モンスターと一緒にプレイヤーが戦うパターンもあるけど、特に武器を持っている様子がないこの子は、多分モンスターにバフをかけて戦わせる僧侶タイプ。テイマーの中では一番オーソドックスなやつだと思う。
つまり……本体は弱い!
「やぁっ!!」
急接近しながら、ショートカットキーを使って素早く呼び出したのは、巨大なハンマー。柄を握り締め、思い切り振りかぶる。
僧侶自身が弱いからあまり知られてないけど、生産系の《鍛冶》スキルを習得していると、近接武器に適正がない僧侶でも武器としてのハンマーが装備可能になるんだよね。実質、これが僧侶の持てる唯一の直接攻撃手段だ。
決して、お姉ちゃんが撲殺系だからってそれを意識したわけじゃない。
これまで配信の中では披露したことなかったから、多分この攻撃は予想外なはず。
そんな確信を持って振り抜いたその一撃を、けれどサーニャは余裕の表情で回避した。
「ふふふ、甘いですよ。ワッフル、《成獣化》!」
「ウオォォォン!!」
「っ……!?」
私から距離を取ると同時、フードから飛び出した幼狼がスキルの効果で一気に成長、私に飛び掛かってくる。
くっ、まずい……!
「《ディフェンシブオーラ》、《プロテクションギフト》!」
防御系スキルの二重発動によって、成獣となった緑狼の一撃を最小限のダメージで抑え込む。
慌てて距離を取り、《ヒール》で減ったHPを回復させるんだけど、一息吐く暇をサーニャは与えてくれなかった。
「ほら、まだまだ行きますよ! ワッフル、《アタック》!!」
「バウッ!」
「……ぐっ」
スキルによる指示に従い、突っ込んで来る狼。
反射的に、いつものように魔法で反撃しようとしていることに気付いた私は、手の中にあるハンマーを見て慌てて回避を選択する。
「ふふ、そんなことじゃあお姉さんのパートナーの座、私が盗っちゃいますよ?」
「っ……させない、ベルは、私のだ……!」
サーニャの挑発に、私は反射的にそう返す。
それに対して、「そうこなくっちゃですね」なんて面白そうに呟きながら、より一層激しく狼を攻め立てて来た。
「くっ……きつい……!」
普段が魔術師だから、ソロでの立ち回りが完全にそっちに振り切れてる。
回避行動だけなら大差ないしどうにかなってるけど、反撃しようにも攻撃系の魔法が使えないと、私の立ち回りじゃどうしようもない。
「ココアちゃん……!」
そんな私の耳に、お姉ちゃんの心配そうな声が聞こえてきた。
……私が負けたら、お姉ちゃんが盗られちゃう。
勝手な約束だし、律儀に守る必要なんてないだろうとは思う。お姉ちゃんも、きっと最後は断ってくれるんじゃないかって期待もしてる。
でも、それじゃあダメだ。
私も、いつまでもお姉ちゃんの優しさに甘えてばかりじゃいられない。
これからもお姉ちゃんの傍に居続けるために……私だって、強くなる……!!
「はあぁ!!」
「むむ……!?」
回避一辺倒の流れを変えるため、私は回避を捨てて正面に飛び出した。
当然、それを迎撃するために狼が襲ってくるけど、私はそれをあえて無視。
防御バフの効果と回復魔法の連打で無理やりダメージを抑え込みながら、更に前へと踏み込んでいく。
「強引に正面突破する気ですか!? それなら……ワッフル、《ハウス》、《アタック》!」
「ガルゥ!!」
サーニャは私の動きに対応して、一度自分のところに狼を呼び寄せてから、再び攻撃をけしかけてきた。
でも……!
「予想、通り……!」
「え……!?」
最近はお姉ちゃんを始め、おかしなプレイヤーばかり相手にしていたけど、このサーニャってプレイヤーはさっきからすごく"真っ当"な立ち回りをしてる。
自分の弱みと強みを理解して、弱みである自分を守るために最適な行動を常に選んでた。
なら、正面から強引に突破を図れば、次に来るのは正面からのノックバック攻撃による時間稼ぎ一択。私ならそうする。
「《ダッシュブースト》、《オフェンシブオーラ》、そして……!」
一時的にAGIを急上昇させ、更に加速。飛び掛かってくる狼の腹下を潜り抜ける。
目前に迫ったサーニャ、なぜか嬉しそうなその顔に向け、私はハンマーを振り下ろす。
「《クリティカルブースト》……!!」
弱点部位へのダメージを一時的に引き上げるスキルの後押しを乗せ、容赦なく頭に振り下ろしたその一撃が見事に決まり。
突然始まった決闘は、私の勝利で幕を降ろすのだった。




