表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/142

第81話 速度の悩みとわたあめ素材

 サンダーゼリーを安定して倒せるようになった私は、氷属性魔法の使用回数を稼ぎながら、クエストの第一段階を達成した。


 いやー、やっぱりココアちゃんがいると楽だねー。

 エレインとは何も言わなくてもぴったり連携出来るし、ボコミは飛び道具にも盾にもなって便利だけど、それとはまた違った戦いやすさがあると言うか。


 まあ……その理由も何となく分かってる。


「せやぁぁぁぁ!!」


 空の足場を駆けながら、私はブレイドバードへ肉薄する。

 杖を振り上げ、ぶん殴ろうと力を込めた私に気付いたのか、ブレイドバードが大きく翼を広げた。


「ほいっ!!」


 撃ち放たれる、無数の羽。風に乗って押し寄せる弾幕を、私は軽々と回避する。

 そんな私の隙を突くように、もう二体のブレイドバードからも同じ攻撃が飛んで来るけど、それもひょいひょいと続けて躱し、更に前へ。


 なんでこんなことが出来るのかと言えば、もちろんココアちゃんのサポートが大きい。

 これまで何度も助けられた《エスケープドオーラ》や《俊人の丸薬》によるAGI増強、更に《ジャンピングギフト》による足場の補助。そのお陰で、私は普通なら回避しようがない攻撃だって易々と躱すことが出来る。

 それに加えて……


「《ダッシュブースト》!」


 ココアちゃんが新しく習得した補助スキル、《ダッシュブースト》。

 効果時間が《エスケープドオーラ》と違ってほんの十秒しかない代わり、大幅にAGIを上昇させてくれる魔法。


 その効果を受けて加速した私は、ブレイドバードが次の攻撃を始めるより早く、その懐まで飛び込んだ。


「《フレアドライブ》ぅ!!」


 加速した勢いをそのままに、ブレイドバードを次々と殴りつける。

 爆炎に包まれ、落下していくカラス達へ、《アイスゲイザー》による追撃。きっちり至近距離でトドメを刺す。


 うん、すっごい楽だよ、これ。


「ふぅー、これでブレイドバードの討伐も終わりかな?」


「お疲れ様、ベル。《キュア》、《ヒール》」


「わわっ」


 討伐を終えて額を拭った私に魔法をかけながら、ココアちゃんが後ろから抱き締める。

 柔らかな体温を背中に感じ、私は首だけで振り返った。


「ココアちゃんのお陰だよ。やっぱりAGIが高いと全然違うねー、私も少しはそっちに振るべきかなぁ」


 そう、私も反応速度には自信があるけど、結局のところ体がついて来ないことにはどうしようもない。特に、予備動作と呼べる予備動作が少ない魔法系の攻撃なんてその筆頭で、攻撃が来るって分かった時には、一歩二歩体を動かしただけじゃどうしようもなくなってることが多いんだよね。攻撃範囲広いし。


 その点、AGIが上昇すれば、一歩二歩しか動けないところを、ガッツリ移動して範囲外に逃げることだって出来るようになる。

 攻撃するにも便利だし……悩みどころだなぁ。


「大丈夫、ベルならこのままATKを伸ばしてもいけるよ。足りないAGIは私が補うから」


「そう? なら、そうしよっかなぁ」


 流石にエレインほどには無理だけど、ココアちゃんがいれば十二分に速度は補える。

 私一人で何でもかんでもやるより、みんなで協力して頑張った方が楽しいしね。私はティアと一緒にひたすら攻撃に特化していくのもありかな。


「……その方が私もたくさん手助けできるし……活躍したらご褒美くれるって約束してくれたし……ふ、ふふふ……」


『なんかあくどい笑み浮かべてんぞこの子』

『ベルちゃんを自分に依存させようとしている……』

『腹黒ココア』


 コメントですごい言われ方がされてるけど、ココアちゃんは気にせず私を抱き締めてる。

 いやまあ、確かに今の私、ソロだと結構キツイ場面も多いからね。この《天空の回廊》だって、ソロじゃ多分踏破しきれないし。


 でも別に、それが悪いことだなんて思わない。

 ゲームもみんなでやった方が楽しいしね。


「いいよね、ベル?」


「うん、ココアちゃんの頼みなら大体何でもやるよ。ティアには、『何か頼まれたら報告して私にも全部やって』なんて言われてるけどね」


『ティアちゃんはティアちゃんで知らない間にすごいこと言ってるし』

『実はヤンデレの気質があった……?』

『脳筋ドS幼女を奪い合うヤンデレと腹黒……』

『気のせいだろうか? まともな奴が一人もいないのだが』

『エレインを忘れないであげて』


 あれ、気付けばエレイン以外全員がまともじゃない扱いになってる!?

 私もそうだけど、どうしてこう配信動画の視聴者さんは私達を変人扱いしたがるのか。

 なんかもう、そのうちエレインも変な属性付けされそうだなぁ。うん、それはそれでなんか楽しみになってきた。


 だけど私はティアのお姉ちゃんであって、ドSじゃないから。おーけー?


「じゃあ……私も、その、ティアに負けないように、おねだり……していい……?」


「うん、なーに?」


「ちょっと……頭、撫でて欲しいなって……」


「ふふ、いいよ、それくらいならいつでも」


 ぴょこんと生えたウサミミに軽く触れながら、ココアちゃんの頭を優しく撫でる。

 それに合わせて、幸せそうにふにゃり、と柔らぐその表情に、私は頭を鈍器でぶん殴られたかのような衝撃を受けた。


 ……か、可愛すぎる……!!


『てえてえ……てえてえ……!!』

『ココアちゃんが尊すぎて死にそう』

『恥じらいと幸せが共存したこの表情たまらん』

『いいぞもっとやれ』

『おい誰かコーヒー持ってこい』

『すまんな、既に俺が吐いた砂糖でみんなゲロ甘になってるわ』

『きたねえw』


 一瞬で流れていくコメント欄に、今回ばかりは心から同意したい。


 いやほんと、雫ったら最近随分と積極的になったよね。いくらココアちゃんの姿とはいえ、カメラの前でこんなにも堂々と撫でられたがるなんて。


 これもエレインが言ってた、本人とは違うって意識が為せる技? だとすれば、今この瞬間なら普段は途中で蹴り飛ばされちゃうようなこともし放題? ぐへへ。


『ベルちゃん顔がでれっでれになってる』

『もうお前らはよくっ付けよ』

『ていうか実は裏では付き合ってるだろ、いくらなんでもいちゃつきすぎw』


「別にそんなことないよ? 私達、リアルじゃ会ったことないし、ね?」


「う、うん」


『うっそだろお前』

『ネット上の付き合いだけでこれとかw』

『ひと昔前の文通遠距離恋愛じゃないんだぞw』


 私や視聴者さん達のコメントに、少ししどろもどろになるココアちゃん。

 まあ、実際は会うも何も、中身雫だから毎日顔を合わせてるもんね。


 もう少し困らせてみたいっていう悪戯心がないでもないけど、あまりやり過ぎてもなんだし、ここは助け船を出してあげよう。


「さて、それじゃあご褒美の続きは配信が終わった後ということで。みんなも私達二人を見てるだけじゃ退屈だろうしね」


『そういえばこれゲーム配信だったな』

『もうすっかり忘れてたわw』

『むしろ配信後の様子まで見せて』


「というわけで、クエストの続きは、と……」


 割と本当にみんなこれがゲーム配信だって忘れてたっぽいから、ブレイドバードの討伐を終えて解禁された次のステップを早く開示しようとメニューを操作する。


 えーっと、何々……?



特殊クエスト:わたあめ素材の採集 1/2

・サンダーゼリーの体液 20/20

・ブレイドバードの肉 10/10

・天空草 1/2



 あ、もうほとんど素材集まってるよ。

 それで、残る素材も天空草か。これって確か、隠しエリアに生えてたアイテムだよね。


『ほぼ集まってるじゃん』

『これは楽勝』

『本当なら天空草の採取に苦戦するところだったんだろうけどなぁ』

『もうある場所分かってるもんなw』

『というかこれ、わたあめの材料とりに来てるんだよな? わたあめ感ある材料が一つもないんだが?』

『謎すぎるな、これ……』


 うん、それは私も思った。味は普通のわたあめだったんだけど、一体この材料からどうやって作ってるんだか……知りたいような、そうでもないような。


「まあ、それはいいや。とりあえず、早速最後のアイテムを取りに行こうか」


「うん」


 ココアちゃんと一緒に、隠しエリア目指して歩いていく。

 自然と手を引いていたら、またコメントがワイワイと盛り上がったりと、そんなやり取りを挟みつつ。すぐに昨日と同じ場所に到着した。


「じゃあ、先に私が飛び降りるから、ココアちゃんはそこの梯子使ってね。落ちても私が受け止めてあげるから」


「う、うん」


 少しばかり怯え気味のココアちゃんにそう伝え、私は思い切ってジャンプ。

 ちょっとばかりの浮遊感と共に落下していくと……


「へっ?」


 私の落ちた先に、先客がいた。

 思わぬアクシデントに驚く間もなく、私はそこでぽかんと口を開ける見知らぬプレイヤーを押し倒してしまう。


「べ、ベル、大丈夫!?」


「うん、平気~……えっと、あなたは大丈夫?」


 上から聞こえるココアちゃんの声にそう答えつつ、私は下敷きにしてしまったプレイヤーを見る。

 まず目につくのは、鮮やかな緑の髪。服装はフード付きのパーカーにミニスカートと、ファンタジーというよりリアルで普通に見かけそうな感じで、逆に珍しい。

 髪を横で束ね、サイドテールにしたその子の顔にはどこか面白がるような笑みが浮かび、私……というより、その先にいるココアちゃんを見ているように感じられた。


 突然の事故で押し倒されたにしては、何だか変わったその反応。

 頭上に疑問符を浮かべる私に、その子は悪戯っぽくこう口にした。


「こんなところで奇遇ですね、お姉さん?」


「……え?」


わたあめ素材(肉)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 素材から見てソイレント・グリーンみたいなわたあめなのだろうか・・・
[良い点] >ココアちゃんの頼みなら大体何でもやるよ。 ん?いま(以下略)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ