第80話 再びの回廊と炎の投擲
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「天空飴は今貰ったわたあめだけど……ウィングブーツのレシピ? なんだろうそれ」
「何か重要なアイテムだと思うけど」
『掲示板でちょっと名前が出てたぞ。クエスト報酬でちょくちょく見るやつ』
『まだ効果は検証されてないけど、ここの住人なら大抵持ってるらしい』
『風に乗って飛べるんだとさ』
『けどレシピで貰えるなんて初めて聞いたな』
「へ~」
風に乗って飛べるってことは、あの暴風エリアで使うアイテムってことかな? ブーツって言ってるし、装備系?
これがあれば、私達が詰まったフィールドボスの先へ行けそうな気がするよ。
だけど……んー……
「ベル、微妙そうな顔して、どうしたの?」
「いやほら、装備ってことは今のを外さなきゃいけないわけでしょ? ココアちゃんがせっかく作ってくれた装備、外すのももったいないなーって」
今装備している『新雪の魔女』。中でもブーツは、AGIが30も上昇する優秀な装備で、これが無ければ私はここまで来れてない。
必要だって分かっていても、ずっと着けていた装備を変えるというのは物寂しさがあった。
「……ありがと、ベル。でも大丈夫だよ、今回手に入ったのはレシピだし、元の装備を強化合成に使って他よりも性能を引き上げられるから、無駄にはならない。どっちにしろそろそろ強化も限界だったし、纏めて一新してあげるよ」
我ながら子供っぽい我儘を口にすると、ココアちゃんはそう言って別の道を示してくれる。
強化合成……イメージ的には、古くなった服の布を使って新しい服を作るような感じかな?
うん、それを他ならないココアちゃんがやってくれるなら、これ以上のことはないね。他の装備も纏めてやってくれるなら、見た目のバランスも損なわれないし。
「そっか。ふふ、そういうことなら、お願いね。その分、何か必要なことがあれば私が手伝うよ」
「うん。じゃあ完成したら、またスクショ撮らせてね」
「あはは、それはいつでもいいよ」
『滲み出るパートナー感』
『作った装備こんだけ大事に思われてたら生産職冥利に尽きるわな』
『というかまたスクショ撮るのかw』
『そのうちデータ容量埋め尽くしそうである』
話が纏まったところで、待ちぼうけを食っていた店主さんに向き直り、クエストの受注を決定。
随分待たせちゃったけど特に文句が出るわけでもなく、「よろしく頼むぜ」と送り出してくれた。
というわけで、まずやるべきはサンダーゼリーとブレイドバードの討伐だね。
「ボコミやエレインにも手伝って貰う……?」
「んー、いや、ちょっと狩るだけだし、私達二人だけで大丈夫じゃないかな。一度相手したからもう大体慣れてるし、ココアちゃんがいれば余裕だよ」
『おお、余裕とは大きく出たね』
『けど、ボコミがいなきゃサンダーゼリーの攻撃躱せないのでは?』
『ブレイドバードの時もエレインに運んでもらえないし』
「だーいじょうぶ、何とかなるよ。一つ試したいこともあるし」
『今度は何をやらかす気だ……?』
『もう慣れたから雷だって見てから回避余裕です(キリッ)とか?』
『見てからは無理だろw』
『流石にそれはなぁ……』
「ああうん、それは出来ると思うけど、今回は攻撃手段の方ね」
『なんだ攻撃の方かー(棒)』
『いや待って出来ちゃうの?』
『ベルちゃんの数少ない弱点、早くも消滅』
消滅も何も、苦手だって言っただけで出来ないとは一言も言ってなかったし。
そんなことを呟いて、視聴者さん達から呆れられながら、《天空の回廊》へと向かう。
一度来たところだから、勝手知ったるなんとやら。昨日に比べて一段と増えた他のプレイヤー達を避けつつ、フリーのサンダーゼリーを探す。
「よし、いた!」
そしてお誂え向きに、三体のサンダーゼリーが固まっている集団を見つけた。
よーし、やっちゃうぞ!
「ココアちゃん、一応素早さにバフ貰える?」
「ん、《エスケープドオーラ》。何するつもりかは知らないけど、いざって時はフォローするね」
「うん、ありがと、ココアちゃん」
ココアちゃんの魔法によって、AGIを引き上げて貰う。
これで準備はオーケー、と。
「行くよ、《フレアドライブ》!!」
まず発動したのは、炎属性の強化スキル。その効果は、物理攻撃に炎属性を付与し、ATKを1.3倍に上昇させること。
《エアドライブ》と併用した場合、直接殴らないと効果がないことが証明されて、若干相性が悪いって結論になったこのスキルだけど、まだ一つ、試していないものがあった。
それを試すために、私は杖の代わりに手斧をインベントリから取り出す。
「そりゃぁ!!」
手にした手斧を、《投擲》スキルの効果を受けながら全力でぶん投げる。
《エアドライブ》で飛ばす風の砲弾には補正が乗らなかったけど、《投擲》による攻撃なら、もしかしたら……
「ピギュイ!?」
そんな私の予想を裏付けるように、サンダーゼリーにぶち当たった手斧はその場で爆発、半透明のその体を炎で包み込み、瀕死の状態で落下させた。
うん、《エアドライブ》とは無理だったけど、《投擲》となら併用できる! これは大きな進歩だ!
しかも、いい具合に瀕死状態。次の魔法を解禁させるにはちょうどいい。
「ピギギ!!」
落下したサンダーゼリーにトドメを刺すべく接近する私を見咎め、残る二体のサンダーゼリーから電撃が放たれる。
この攻撃、火花の散り具合から使用可能な状態かどうかは判断できるけど、予備動作がゼロで発動タイミングが掴みにくいのが難点なんだよね。初めて見た時、私が対応出来なかった理由がそれ。
でも、今なら……!
「ほいっ!」
飛来する雷を、紙一重で躱す。
予備動作は相変わらずゼロだけど、よくよく観察してみれば電撃を放つ直前、ほんの一瞬だけ火花が大きくなってるんだよね。
そこから発射、着弾まで、多分コンマ何秒もないくらいの時間しかないけど、予兆は予兆。見逃さなければ回避できる。
『本当に回避したよこの子』
『雷速すらもベルちゃんの前では慣れれば回避できる攻撃でしかなかったか……』
『いやまあゲームの雷だから現実のそれよりは遅いけどなw』
『音速も光速もこの距離じゃ大して変わんねーよw』
『ここまで来ると、逆にどんな攻撃が躱せないのか』
『普通に範囲攻撃魔法は躱せないんじゃね? 流石に』
『反応速度でどうこうなる攻撃じゃないもんな』
『つまりベルちゃんの弱点はティアちゃんと』
『これはいつか嫉妬の炎で焼かれるフラグ』
『違いない』
いやいや、私はティアを心底愛してるから、焼かれるようなこと何もしないよ?
……いきなり抱き着いたりとか、それくらいしか。
「そりゃっ、てやぁ!!」
そんなことを考えながら、新たに取り出した手斧を連続で投擲する。
一度電撃を放ってしまえば、サンダーゼリーなんてただフワフワ浮いているだけの的でしかないからね。きっちり当てて、二体とも墜落させる。
あ、一体はHPが残らずにそのまま倒しちゃった。
胴体部分は弱点になってるんだね。次から気を付けよう。
「それじゃあ、トドメの一撃と行こうか。《アイスゲイザー》!!」
地面に転がるサンダーゼリーの元まで駆け寄った私は、ダウンから復帰されるより先に、氷属性の中級魔法を発動。二体同時に、地面から飛び出した氷の棺に閉じ込める。
初めて使ったけど、ダメージが通ってない? ……あ、違うか、拘束しながら持続ダメージを与えていくタイプの魔法なんだね。
《フレアランス》や《エアブロウ》はあくまで攻撃用の魔法だったからともかく、ここまで搦め手メインな魔法だと、近距離でトドメを刺すのに使うのはちょっと面倒だなぁ……まあ、どっちにしても瀕死にまで追い込んでから使うわけだし、大差ないか。
そんな風にあれこれと考えている間に、無事サンダーゼリーのHPはゼロとなり、霧散。クエストログには、『サンダーゼリー討伐 3/10』との表示が。
よしよし、問題ないね。
「ベル、確認の前に《フレアドライブ》解いて。死ぬよ」
「あ、忘れてた」
「全く……《ヒール》、《キュア》」
ココアちゃんに呆れられながら、魔法で火状態とHPを回復して貰う。
いやこう、ね? 攻撃受けないでいるとHPが今残りいくつかって意識から外れない?
え、それくらいしっかり管理して立ち回ってって? はい……。
「ベルは世話がかかるんだから。……私から離れたらダメだよ?」
「うん、分かった」
「よろしい」
私の頭を撫でながら、ココアちゃんの表情が少しデレっと緩んだのを私は見逃さなかった。
うん、これはお姉ちゃん風を吹かせるフリをして、どさくさ紛れに撫でたかったんだね。私もよくやるから分かるよ!
『これ、やっぱりそのうちティアちゃんに後ろから焼かれるのでは?』
『そうなったらそうなったで面白そうだからそっとしとこうぜ』
『ひでえw』
微笑ましいココアちゃんの様子をにやにやと眺めていたら、視聴者さん達からそんなコメントが。
いやだから、私がティアに焼かれる理由なんてどこにもないでしょ?




