第66話 雲の足場と嫉妬心
エレインがひとまず近くにいたサンダーゼリーを仕留め終えた後、私達はなぜかボコミが乗っかっていた雲の検証に入っていた。
検証と言っても、ほとんどティア任せだけど。
「なるほど、横や下からだとすり抜けるけど、上から"着地"するときだけ反応する足場か……面白いな」
ティアが近くに浮かぶ雲に手を伸ばしながら、興味深そうに考察する。
真下に潜り込み、ジャンプ。雲を通り抜け、落下する途中で雲の上にぽふん、と乗っかった。おぉー。
「ってことは、このエリアに浮かんでる雲は全部足場ってことになりそうだね」
エレインがそう呟き、周囲を見渡す。
エリア中、それこそサンダーゼリーがふわふわ浮かんでいた高さまで、あっちこっちに大小様々な雲がいくつもあるけど、これが全部足場なのかー。
とすると、このエリアの飛行型モンスターは、この雲の足場を利用して戦えってことかな?
『まさかのボコミお手柄』
『殴り飛ばされた甲斐があったな』
『これでもうお手玉されずに済むぞ! 良かったなボコミ!』
「なんてことですの……それじゃあ私、もうさっきの仕打ちをベルお姉様にして貰えませんの!? もしかしたらこの攻略中ずっとやって貰えるのではと楽しみにしておりましたのに!!」
『えぇ……』
『いや草』
『知ってた』
どこまでもブレないボコミの欲望に、さしもの視聴者さん達すらやや引き気味。
まあうん、ボコミならすぐに自然回復するだろうと思ってやったけど、ダメージは無いに越したことはないからね。多分もうやらない、はず?
「うぐぐ、この雲、ちょっと消し飛ばせないものでしょうか」
「いや出来ないから、出来たとしてもされたら困るから」
せっかく用意された対飛行型用ギミック、使わなきゃもったいない。
「でも、私としては上下左右全部足場として機能して欲しかったなぁ。その方が何かと便利だったのに」
「むしろ、それを警戒したんじゃない? ベルが決闘で空を飛んだりしたから」
「あ、あはは」
まさにそれをやるために横にも足場としての判定が欲しかった私は、そっと目を逸らす。
うん、決闘で悪用され始めて問題になってるって言ってたもんね。あまりやらない方がいいよね。
……やってる側としては楽しいけど。
「ともあれ、これで全員がサンダーゼリーに仕掛けにいけるな。後は上手く連携して、分担しながら倒していこう。ベルの言った通り、先がどれだけあるかも分からないからな、消耗は抑えめで」
「おっけー!」
ティアが意見を纏めて、再び前進を始める私達。
出くわすサンダーゼリーを薙ぎ倒し、塔の上を目指して歩いていく。
足場の位置は進むごとに変わっていくし、都合よくサンダーゼリーの側にあるわけでもないけど、その時はその時。都度、状況に合わせてティアが魔法を撃ったり、エレインが跳び上がって斬りに行ったり……
「てえぇぇぇぇい!! 《エアブロウ》!!」
「んっはぁぁぁぁぁ!! 《リベンジャーズブラスター》!!」
私がボコミを殴り飛ばし、そのダメージを威力に変換したボコミが一掃したりしてる。
なんでもあのカウンタースキル、発動時点から一分以内に受けたダメージが威力に変換されるそうで、FFの結果であっても問題ないらしい。
私も少しはモンスターを狩ってパーティに貢献したいのですわ!! なーんて、ボコミは鼻息荒く言っていたわけだけど……
「ハアハア……! 落下のフォローすらされなくなりましたわ……でもその冷たい態度がまた……!」
うん、明らかに不純な動機が混じってる気がする。
まあ、私としても《エアブロウ》の使用回数を重ねられるわけだし、悪くは……
あれ? よく考えてみたら《フレアドライブ》の習得条件、単なる使用回数じゃなくて、一定距離以内での敵の撃破数だったような。
……うん、今度からはボコミにはモンスターを倒すんじゃなくて、しがみついて無理矢理地面まで引き摺り降ろして貰おう。
最悪、延々とサンダーゼリーの電撃を浴び続けることになるかもしれないけど、まあボコミだし問題ないよね?
『鬼だ、鬼がいるぞ』
『鬼畜! 外道! 幼女!』
『この子はこの子で息を吐くようにボコミをいたぶるなw』
『ほんと真性のドSだわ』
そう思って実際にやってみたら、この反応である。
いやいや、私がドSなんじゃない、ボコミが便利なだけだよ! ほら、便利なアイテムは使わなきゃ損でしょ?
『ナチュラルに便利な道具扱いしていくベルちゃんであった』
『もうドSとドMでお似合いカップル状態w』
「ボコミと付き合うくらいなら食器洗い機と付き合うかな……」
「私、さりげなく無機物以下の存在にされてますわ!?」
いやだって、便利なんだよ食器洗い機。家事にかかる時間がぐっと減るから、雫と触れ合える時間も増えるし。何より変態じゃないし。最高。
ああでも、変態は変態で玄関の前に置いておいたら、それ以上変な人が寄ってこない可能性もあるから悪くない?
ボコミは変態なだけで悪い子じゃないからそういう使い道も……
なんてことを考えたら、背筋からぞくっと寒気。
一体何事!? と思って振り返れば、ティアがにっこりと微笑みながら空へ杖を掲げていた。
「《ファイアボール》」
炎の塊が空を飛び、端っこに引っかかるようにサンダーゼリーへヒット。HPが一気に減少し、僅かに一割程度残した状態で落下してくる。
大ダメージを受けてダウンしたその個体を無造作に掴んだティアは、そのまま私のところまで持ってきて、またにこり。
「下級の威力でギリギリを引っかければ、ちょうどいいミリ残りが量産出来そうだ。お姉ちゃんが《エアブロウ》でキル数稼ぐなら、こっちの方が楽だし便利だよな?」
「え、えっと、うん、そうだね……?」
「それならよし。さあ、サクサク落としていくぞ」
そのまま、淡々と機械のように《ファイアボール》を連呼し、私の前に死にかけのサンダーゼリーを積み上げていくティア。
そんな様子を見て、コメント欄は震え上がっていた。
『こ、こえぇ』
『ティアちゃん焼きもち可愛い』
『これはげきおこ案件』
『ほらベルちゃん謝って! お姉ちゃん浮気してごめんなさいって謝って!』
「いやしてないよ!? ていうか、あれ? ティアの機嫌が悪いの私のせい!?」
『『『それ以外にないだろ』』』
満場一致の意見に、私が愕然としていると。
私の側にやってきたエレインが、その手をポンと私の肩に置くのだった。




