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第65話 電撃クラゲと空飛ぶ変態

 飛行船で移動してきたプレイヤー達が、それぞれ町中を探索している中。ポータルの登録を終えた私達は、早速フィールドへと足を踏み入れた。


「おお~、ここが《天空の回廊》かぁ」


 まず目につくのは、中央にそそり立つ巨大な塔。

 上に向かってスロープ状の道が渦を巻くようにどこまでも延び、頂上には小さくお城のようなものが見える。


 町の名前が《天空の城下町》だったわけだし、あれがさしずめ《天空の城》ってところかな?


「あのお城にボスがいるのかな?」


『だろうな、それ以外ないだろ』

『いや分からんぞ、城下町が普通の町なんだから、城にいるのも普通にNPCかもしれん』

『この辺りは町でNPCから話を聞けば分かるんだろうな、このパーティはスルーしてきたわけだがw』


 あー、なるほど、町の探索はそういう情報を集める意味があったんだね。

 とはいえ、まあ……


「それもこれも、行ってみれば分かることだよね! 情報なんて取り敢えずぶつかってみれば集まるだろうし!」


『そしてこの脳筋である』

『そういう頭悪いノリ好き』

『ベルちゃん好き』


「こらそこ、どさくさ紛れに何を人のお姉ちゃんに告白してやがる、焼くぞ」


『ひぃ!』

『怖い。ガクブル』

『あれ? つまりはあえてベルちゃんに告白することで俺らはいつでもティアちゃんに焼いて貰えるのでは?』

『天才か』

『ベルちゃん好き』

『ベルちゃん愛してる』

『ベルちゃんprpr』


「私はティアの呼び鈴か何かかぁ!!」


 ここぞとばかりに私を好きだ好きだと連呼し始めたカメラに向け、杖をブンブン。当然当たらない。

 ぐぬぬ、おのれぇ……いっそ、どの角度と速度で振るのが一番視聴者さんの恐怖を煽れるか検証してやろうか……?


「ティア、何してるの?」


「ちょっとスクショ撮ってる。ムキになるお姉ちゃんが可愛くて……」


『分かる』

『分かるわぁ』

『お姉ちゃんって言う割に子供っぽいよな』

『だがそれがいい』


「お前らには絶対にやらねえからな?」


『アッハイ』

『こっちはこっちでシスコンだなぁ』

『可愛い』

『可愛い』


「…………」


「ティア、それ無意味だから、ストップストップ」


 私が自分の視聴者さん達と戯れている間に、ティアはティアで視聴者さんと何かあったのか、無言で魔法をぶっぱなし、エレインに止められていた。ムキになってるところも可愛いなぁ。


 でもティア、気持ちは分かるけど、MPがもったいないよ?


「くっ……どうしてこのゲームはお姉様方のカメラになれる機能が備わっておりませんの!? そうしたら視聴者の分まで私が嬲って貰えましたのに!!」


『こいつは一体何を言っているんだ』

『ブレないなぁ……』

『さすが変態』


 そんな私達を横目に、ボコミはボコミで何やら必死にヘルプ機能を読み漁っていた。

 さすがの視聴者さん達も、ボコミの今の発言には同意出来なかったのか、若干引き気味。うん、この子はもう手遅れだし諦めよう。


「はーい、それじゃあいい感じに場が温まって来たところで、さっさと攻略に移るよ? ベルは家事もあってそう長くログイン出来ないんだし」


「あはは、それもそうだね」


『唐突に発揮されるエレインのリーダーシップ』

『このパーティ唯一の良心だな』

『苦労人の間違いだろ』


「不吉なこと言わないで欲しいな。まあ、このパーティ唯一の真人間であることは認めるけどね。それじゃあ視聴者公認のリーダーということで、みんなついてこーい!」


「おー!」


 エレインの号令で、改めて私達は歩き出す。


 モコモコとした見た目ながら、意外としっかりした雲の坂道。

 雲の上だからか、フィールドのあちこち、それこそ手が届く範囲からかなり上の方にまで小さな雲がいくつも漂っていて、触れると簡単にすり抜けた。


 パッと見、本当に綿あめみたいなんだよね。食べれないかなぁ、これ。


 なんとなくそう思って頭を突っ込んでみたものの、やっぱり吸えない。残念。


「お姉ちゃんが可愛い……可愛い……!」


『ティアちゃんがすっげえ残念な顔になってる』

『まあ可愛いのは同意だけどな』

『今スクショ撮ってただろ、言い値で買おう。というかアップしてくださいお願いします』


「も、もう、少し気になっただけだよ! ティアも絶対にアップなんてしたらダメだからね!? 全く」


 そんなやり取りを挟んで、流石に少し恥ずかしくなった私は、軽く小走りになって先行する。

 すると、すぐに空を飛ぶモンスターと遭遇エンカウントした。


「ベル、上!」


「うん、出たね!!」


 エレインの声に答えながら、見上げた先にいたのは空飛ぶクラゲ。

 ふわふわと浮かぶ姿は一見すると無害そうに見えるけど、胴体から伸びる無数の触手の先端から、バチバチと火花が散っているのが見える。


 あれ、電撃だよね? モンスターの名前もサンダーゼリーだし、間違いなさそう。


 と、その瞬間。予備動作ゼロで、一筋の雷撃が私を襲った。

 光速の一撃はさすがの私も躱しきれず、右腕に被弾する。


「わっ、たぁ!?」


 ガクンッ! と一気に四割近くHPを持っていかれた。

 うぐぐ、中々痛い……というか、あれ? 体が動かない!?


『ベルちゃんベルちゃん、麻痺! 麻痺!』

『解痺ポーション早く! 次来るぞ!』


 流れるコメントでようやく自分が状態異常に陥っていることを知った私は、大慌てで唯一動く手を使い、メニューを操作。インベントリからポーションを取り出す。


 でも、それより早く第二撃が飛来した。

 しかも一体からじゃなく、近くにいた別の個体も合わせて三発も。


「っ、やば……!」


「させませんわぁぁぁぁ!!」


 思わず身を固くする私の前に立ち塞がったのは、我らが盾役のボコミ。

 なぜか盾すら使わずその体で正面から受け止め、満足げな笑みを浮かべていた。


「ハアハア……ようやく、ようやくベルお姉様の肉壁になれました……! 最高の気分ですわ!!」


『本当にブレねえなこのド変態』

『というか、ベルちゃんですら躱せない攻撃ってヤバくね? どうやって対処すりゃいいんだ?』


「あー……私ってあれだよ、人型の敵は得意だけど、ああいう人以外のモンスターから飛んでくる攻撃は苦手なんだよね」


『えっ、そうなのか』

『意外な弱点発覚』


 いまいち、予想がつかないというか、なんというか。それで反応がワンテンポ遅れるんだよね。

 まあ、行動パターンさえ覚えちゃえば、同じように対処出来るんだけどさ。


「エレイン、やるぞ! 《フレアレイン》!!」


「おっけー! 《パワードスロー》!!」


 カメラに向かってそう言い訳している間に、ティアとエレインがそれぞれ空の敵に対して攻撃を仕掛けた。

 エレインの投げた巨大手裏剣がサンダーゼリーの一体を引き裂き、残った個体はティアの魔法に焼き付くされる。


 鮮やかな手並みに、私は「おー」と拍手を送った。


「流石だねー二人とも。助かったよ」


「遠距離攻撃なら魔術師の専売だからな。オレより、エレインは投擲武器のストック、大丈夫か?」


「まだまだ平気だよ、ココアにたくさん作って貰ったし、ね?」


 そう言って、エレインはティアにウインク一つ。その意味を察してか、ティアはふいとそっぽを向いた。


「とはいえ、あまり序盤から使いすぎるのもなんだよね。ティアのMPだって限りはあるし、出来るだけみんなで負担は分け合いたい。というわけで、次は接近戦仕掛けてみようよ」


「ベルお姉様、先ほどの攻撃を見る限り、《空歩》スキルであっても届きそうにありませんでしたよ?」


「大丈夫、こういう時のために練習した技があるから。ね、エレイン」


「おっ、あれやるの? じゃあ、やってみようか」


 あれとは、私とエレインの連携技。杖を足場に、私のATK補正とエレインの《大跳躍》スキルを合わせて、遥か上空まで一気に跳び上がるやつだ。


 前にエアコンドル相手に練習してたけど、今こそ実践の時!


「行くよエレイン!」


「せーのっ!」


 というわけで、少し先に進んだところで三体ほど固まって動くサンダーゼリーを見付け、いざトライ。

 軽く跳んだエレインの下へ杖を滑り込ませ、足が着いたところでタイミングを合わせて全力で空に。


「でやぁぁぁぁ!!」


「《大跳躍》!!」


 勢いよく打ち上がったエレインが、一直線にサンダーゼリーの元へ飛んでいく。


 飛距離は十分。いけるか!? と思ったら、サンダーゼリーは近付いて来るエレインを見るや、そのノロノロとした飛び方とは裏腹に素早く反応。電撃を放って迎撃してきた。


「っと、《空歩》! ごめんベル、着地受け止めて!」


「分かった!」


 初見じゃないのもあってか、私と違ってエレインはキッチリ回避したものの、そのせいで攻撃を仕掛けられなかった。


 落下ダメージを防ぐため、落ちてきたエレインを私がキャッチ。体格差もあっておかしな絵面だけど、ステータス的にこれがベストなんだから仕方ない。


 お姫様抱っこの要領で受け止めた私に、エレインから「ありがと」と一言。「どういたしまして」と笑い返しておく。


『おっとこっちでも百合の花が?』

『ベルちゃんモテモテだなおい』


「そーいうのじゃないってば、もう」


 エレインを降ろしつつ、茶化す視聴者さんと二、三言交流。全く、いつものことながら賑やかだね。


 しかし、それにしても……


「エレインの打ち上げ失敗かぁ……自信あったんだけどなぁ。どうしよう?」


「あのクラゲ、攻撃した後は触手の先で火花が散ってないから、多分一発一発クールタイムが発生してるな。接近戦するなら、一発撃たせて、その隙に叩くのが良さそうだ」


「一発撃たせるって言っても、囮役がいるよね。それに、敵は一体だけじゃないから、全部がクールタイムに入ったタイミングを作らないことには……」


「やっぱりオレが数を削るのが早いか?」


 私の嘆きに反応して、ティアとエレインがそれぞれの所感と提案を口にする。


 つまり、必要なのは敵の攻撃を一斉に引き付けられる囮役、と。


『ボコミが囮になれば解決だな』

『でもよ、地面で攻撃してくるの待ってたって、敵は好き勝手バラバラなタイミングで攻撃してくるだけだぞ? タイミング合わせ難しくね?』

『もういっそ、ボコミも飛ぼうぜ。突っ込めば敵も全部撃ってくるだろ』


「なるほど、それありかも」


『『『え?』』』


 コメント欄の呟きを見てたら、簡単な解決策が思い付いた。

 早速それを実行に移すべく、私はボコミを手招きする。


「ボコミ、ちょっとそこに立って、お尻こっち向けて」


「えっ、こ、こうですの?」


 私の正面に立ち、お尻を突き出すボコミ。

 そんな彼女の背後で杖を構えた私を見て、大体みんな察したんだろう。『あ、まさか……』なんて呟きがいくつも流れる。


「行くよ、ごめんねボコミ!! 《エアブロウ》!!」


「んっはぁぁぁぁぁ!?」


 全力で振りかぶった杖をボコミのお尻に叩き付け、更には風の中級魔法で後押し。

 この魔法、《マナブラスト》と同じくノックバック効果があるから、無防備なところへぶち当てれば吹き飛ぶんだよね。しかもあっちと違って自爆なし。


 というわけで、私の一撃を受けたボコミが空を舞い、くるくると回りながらサンダーゼリーの群れへ突っ込んでいく。

 あ、一斉に電撃を浴びせられて弾き返されてる。うん、狙い通りだね!!


「エレイン!!」


「う、うん、分かった」


 心なしか、若干顔を引き攣らせたエレインが、再び私と連携して大跳躍。サンダーゼリーへ肉薄する。

 と、ボコミが落ちてきたよ。今から走っても落下地点には間に合いそうもないし……よし。


「《マナブラスト》!」


「ふぎゃわぁ!?」


 落ちてきたボコミに魔法をぶつけ、軽くお手玉。落下の勢いを殺す。

 うん、落下ダメージよりは私の魔法ダメージの方が少ないし、別に問題ないよね!


『なにこの子容赦なさすぎて怖いんだけど』

『流石にボコミが哀れに思えてきた……』


 ついにはボコミにすら同情の声が集まり始めた気がするけど、きっと気のせいだ。

 それより今はエレインだよ、エレイン!


「はあぁ! 《ツインスライサー》!!」


 無事、迎撃されることなくサンダーゼリーの元へたどり着いたエレインは、新装備である忍者刀を抜き放ち、スキルによる二連撃を放つ。一体撃破。

 そのまま、《空歩》とサンダーゼリー自身の体を足場に、エレインは空で無双を始めた。


「うんうん、いい感じだね!」


『おーい、そろそろ自分で吹き飛ばしたボコミのことを思い出してあげてくれー』

『いやほんと、ベルちゃんティアちゃん、どっちの配信画面からも見えないけど、どこに消えた?』


「あ、忘れてた」


『『『おい』』』


「冗談だよ」


 ボコミのHPなら、あの程度で死に戻ったりは絶対にしないって信じてただけだよ……というのは、口にすると後々本人に聞かれて面倒なことになりそうだから飲み込んで。


 でも、死に戻ってないなら、一体どこに?


「ハアハア……ベルお姉様、私に対する扱いが日を追うごとにどんどん粗雑に……最高ですわ……!」


 きょろきょろと辺りを見渡していると、そんな変態の呟きが()()()聞こえてきた。

 まさか、と思って見上げると……


 そこには、ただの背景だと思っていた雲の上に頭から突っ込み、ちょっと女の子がしちゃいけない格好で息を荒げる、ボコミの姿があった。

ベルよ、どうしてこうなった(困惑する作者の図)

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― 新着の感想 ―
[一言] エレインやティアが普通にコメントに反応してるけどこの作品って他人の配信のコメントって把握できないよね? それともプレイしながら二窓で見てる?
[良い点] エレインを打ち上げたことに全く疑問や戸惑いがないの、視聴者も染まってきてる感ありますねw
[一言] 名は体を表す会。
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