第41話 ドMタンカーと撲殺魔女
「お、なんだなんだ? 決闘か?」
「どこの誰がおっぱじめたんだ?」
私と、ティアの妹分を名乗る謎のプレイヤー、ボコミが対峙していると、ワイワイと野次馬が集まって来た。
こういう時に集まるのって基本的にプレイヤーだけだから、こうして見るとその数がかなり多いのがよく分かるね。ちょっと緊張してきたよ。
「ふふふ、どうしたのかしら? まさか、このギャラリーを前に臆した……なんて言わないですわよね? 曲がりなりにも、あれだけの聴衆の前でクッコロさんを盛大にボコした撲殺魔女に限って」
「いや、私だって別に緊張と無縁なわけじゃ……ってちょっと待って、撲殺魔女って何!?」
「あら、知らないの? あなたの二つ名よ、二つ名。中々ぴったりではないこと?」
ひ、否定したいけど否定できない……!! 私、基本的に相手を殴り倒す以外出来ないし……!!
「まあ、今はあなたがどう呼ばれているかなんて関係ないですわ。私はただあなたを倒し、正式にティアお姉様に妹分として認めて貰い、そして……お姉様に力の限り罵られたいのですわぁぁぁぁぁ!!」
「おっけー確かに撲殺魔女で何も問題ないよ、ティアに近づく変態はこの手でぶん殴る」
くるりと内心で掌を返しながら、私は躊躇なく決闘申請を受諾する。
ルールは、前回クッコロさんと戦った時と同じ一般的なタイマンバトル。スキルの使用は全面許可、武器以外の消耗品アイテムの使用は禁止で、先に相手のHPを全損させた方が勝ち。
決闘エリアが設定され、カウントダウンが始まるのに合わせて、私は左右の手にいつも通り、アクアスノウとフレアナイトを構える。
私がみんなからどう思われてるかとか、どういう扱いを受けるかなんて関係ない。
ティアの姉妹は、世界でただ一人!! 私の目が黒いうちは、あの子に変態なんて近づかせないんだから!!
「その意気ですわ」
私の気迫を受け、ボコミもまたニヤリと笑みを浮かべて腰を落とし、槍を構える。
見覚えのある構えに、私はすぐピンときた。
これ、クッコロさんが連続して攻撃の起点に使ってたスキル、《ソニックスラスト》じゃない?
全く同じだって確証はないけど、“そういうスキルを狙ってる”感じはするし、対処できるように準備しておこう。
「――さあ、行きますわよ!! 《ブラストチャージ》!!」
やがてカウントがゼロになり、決闘が開始されると同時に、案の定スキルを発動したボコミが突っ込んで来た。
スキルに後押しされた攻撃は確かにめちゃくちゃ速いけど、それだけだ。初見技とはいえ、警戒していた移動系に加えてクッコロさんの時より動きが鈍いなら、迎撃だって余裕で間に合う。
「《魔法撃》!!」
迫りくる槍を左のフレアナイトで弾き飛ばし、すぐさま脳天目掛けて右のアクアスノウを叩きつける。
ズガン!! と重々しい音と衝撃が伝わり、確かにクリーンヒットしたのを確信した。
でも、
「ふふっ、思っていた通り、良い一撃ですわぁ!! 《シールドバッシュ》!!」
どっしりと腰を落とし、私の一撃をその場で耐えしのいだボコミは、盾を武器として私に叩きつけに来た!
「っ!? 《マナブラスト》!!」
咄嗟に魔法スキルを発動し、脳天に叩きつけたアクアスノウから、眩い光が炸裂する。
もちろん、今は《魔法撃》の効果でINTが0になってるから、ダメージなんて発生しない。でも、そこに付随するノックバック効果は、威力とは別枠だ。
その効果によって、巻き込まれた私自身を吹き飛ばし、《シールドバッシュ》の攻撃範囲から辛うじて逃れることに成功する。
あ、危なかった……!!
「ふふふっ、あなたの前回の決闘ログを拝見して、罠を張ったのですが……まさか、罠にかかった上でこんな強引な手で突破されるとは思いもよりませんでしたわ」
内心で冷や汗を流す私に、ボコミは得意気な顔でそう言った。
罠、かぁ。まさかダメージ覚悟で確実に一撃入れようとしてくるとは思わなかったな。でも確かに、打たれ弱い私相手なら有効な手かもしれない。
とはいえ、その目論見は打ち砕いて、一方的に一撃入れることには成功したわけだし、これで少し有利に……って、あれ?
「HPが、回復してる!?」
さっき弱点部位でもある頭に一撃入れて、三割くらい削れたはずのボコミのHPは、既に一割ほど回復していた。
どういうことかと思えば、ボコミはしたり顔で語り出す。
「私の持つ《自動回復強化》スキルの恩恵ですわ。これがあれば、毎秒一%ずつHPが回復しますの。デメリットとして、このスキルをオンにしたままだとDEFとMINDが減少してしまうのですが……元よりHP受けが基本の《蛮族》にとってはさしたるデメリットではありませんわ。何せ、こうして喋っている間にも回復していくのですから」
なるほど、吹き飛んだ私に追撃をかけて来なかったのは、HPの回復を待ってたのか。
ただでさえHPが多いって聞かされていた《蛮族》に、HPの割合回復が加わったことで、実際のHPは見た目より遥かにヤバイことになってる。もしかしたら、数字だけ見ればフィールドボスよりも多いかも。
でも、それならそれで、やることは簡単だ。
「そういうことなら……回復されるより多く攻撃を叩き込めば、私の勝ちだね!!」
「そういう頭の悪いド正論、嫌いじゃないですわ!! ですが、私を相手にそれが出来ると思いまして!?」
「やってみせる!!」
両手の杖を構え直し、今度はこっちから仕掛ける。
最初とは打って変わって、盾を正面に構えて受け止める体勢のボコミ目掛け、私は正面から杖を振るった。
「てやぁぁぁぁ!!」
左の杖を正面から叩きつけ、動きが止まった盾を目掛け、ぐるりと回転しながら振るった右の杖で下からかちあげる。
僅かに空いた懐の隙間を目指し、小さな体を強引に滑り込ませると、足を狙って全力で杖を叩きつけた。
「ふんぬっ……!!」
転ばせることで無防備なところを叩こうとして放った私の一撃は、けれどボコミの女の子らしからぬ気合の声と共に押し留められた。
悔しがる暇もなく上から迫る、槍による強引な殴打。
近すぎるせいで勢いも威力もないそれを横に半歩ズレて躱し、跳び上がり様に頭を狙って杖を振るう。
ガキンッ!! と響く鈍い金属音は、槍から手を離したボコミの腕……正確には、籠手でガードされた証。
流石に盾ほど大きな防御効果はないようで、それなりのダメージを刻むことは出来たけど、弱点部位を突いた時のクリティカルダメージとは比べるべくもない。
案の定、全く怯まず受けきったボコミは、宙に浮いて無防備な私目掛けて盾をぶん回す。
「《空歩》!!」
空を蹴って距離を取り、盾の一撃を回避。
そこで終わらず、私は着地と同時にすぐさま再接近した。
「うりゃああああ!!」
正面から、ひたすらに殴る。殴る。殴る。
盾で防がれても、やっぱり蛮族は元のDEFが低い上、今は自動回復スキルまで使っているからか、少しずつダメージは蓄積していく。
時折フェイントを交えて懐に飛び込み、盾で守られていない部位を狙って攻撃し、着実にダメージを積み重ねる。
けど、
「攻め、きれない……!!」
AGIは同等か、私の方が少し下。武器の重量はボコミの方が上で取り回しが悪い分、至近距離での戦いはやや私が優勢と言ったところ。
でも、ボコミはそれを全て分かった上で、盾で受けられる物は受けて、無理ならとにかく弱点部位だけを死守して他はスルー。体勢を崩されないようにだけ気合を入れている。
そうした立ち回りの巧みさと、化け物染みたHP量が壁となって、一方的に攻めているのに中々勝負が決められない。
槍を捨てて無抵抗な相手にこんな調子じゃ、《魔法撃》の効果が切れたらせっかく削った分すら回復されちゃう。どうにかしないと……!
「仕方ない、ここは一気に……!」
さっきのボコミじゃないけれど、ここは多少のリスクを飲み込んででも一気に攻めるべき。
そう判断して、私は更に一歩、攻撃のギアを上げて踏み込もうとして……
「《シールドバッシュ》!!」
「くぅ!?」
私が踏み込むタイミングを見計らったようにスキルが発動し、杖が弾き返される。
一瞬だけ体が浮き、隙を晒した私を前に……ボコミの表情が、ニヤリと笑った。
「貰いましたわ」
ボコミの腕が、宙を踊る。
さっき槍を捨てたことで完全にフリーになっていたために、籠手によるガードくらいでしか使われなかったその腕に、再び武骨な槍が出現した。
これ、アイテム使用ショートカットキー……!? 一度捨てた武器の再装備に使った!?
「これまで受けたダメージ、きっちり倍にして返して差し上げますわ!! 《リベンジャーズブラスター》!!」
ボコミの槍が突き出され、眩い光が巨大な光線と化して私に襲い掛かって来た。
書いている最中の作者「こんなふざけた名前して意外とつえーじゃんボコミ……」