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第37話 修行僧と自然落下

 雫と買い物に向かったかと思えば、まさかの私の誕生日プレゼントを買うための口実だったと分かり、帰り道では雫の同級生らしき子と遭遇したりと、中々楽しい一日を過ごした、その夜。

 私は、FFOで再び修行僧さんと対峙していた。


「よく来たのう! またワシに挑戦するかね、娘さん?」


「もちろん!」


 これまで何度挑んでも成功しなかったけど、今日は違う。何せ、私には秘策があるからね。

 雫とのデートで思い付いたこの手段で、今日こそは《空歩》スキルをゲットしてみせる!


「ふふふ、では試験開始じゃ!」


 クエスト開始のボタンをタップするなり、修行僧さんが本来なら侵入禁止なエリアへ向かって駆けていき、私もそちらへ行けるように。

 追い掛けていけば、そこにはいつもの急斜面が。


「さあ、秘奥を習得したくば、まずはワシを捕らえてみせよ!」


 いつもの煽り文句と共に、クエストが始まる。

 でも、私は修行僧さんの方へは向かわず、距離を保ったまま上を目指して登り始めた。


「よいしょ、よいしょ……」


 歩いて登れなくはないけれど、一度足を滑らせたら崖の下まで真っ逆さま。そんな恐ろしいこのエリアで、とにかく上へと歩を進める。


「どうした、諦めたかの?」


 さらりと煽ってくる修行僧さんがちょっとうざいけど、その余裕そうな表情、すぐに崩してやるんだから!


「さーて……」


 たどり着いた頂上から、見下ろす先は遥かなる崖。

 下から見上げる分にも中々凄かったけど、上から見ると更にヤバい。

 そんな崖の途中で、私を悠然と待ち構える修行僧を見詰めながら、私は一度深呼吸。

 大きく吸ってー、吐いてー……また吸ってー、また吐いてー……。


「……よし!!」


 気合を入れ、覚悟を決めると、私は《俊人の丸薬》を飲み込んで思い切り崖下へ向かって飛び降りた。


「うおりゃぁぁぁぁ!!」


 肝が冷えるような浮遊感を雄叫びで誤魔化し、やや斜めになっている斜面をほとんど真っ逆さまに落ちていく。

 チャンスは一回、外せば死に戻り。

 でも、AGIが低い私にとってはこれが唯一無二の手段だ。落下速度だけはステータス関係なくみんな速いからね。


 いつものように右手にアクアスノウを構えつつ、反対の手には手斧を装備。

 どんな攻撃を受けても、修行僧さんが怯む時間は一瞬。その一瞬の間に、この速度を利用して修行僧さんの懐へ一気に飛び込むんだ。


「もう、ちょっと……!」


 これまで何度も挑んできた間に、修行僧さんが逃げに入る間合いは掴んでる。後は私が落下する速度と、投げた手斧が当たるまでにかかる時間から、投擲の最適なタイミングを図るだけ。


「今だ!!」


 瞬きすらも許されない、高速で流れ行く世界の中で、私は意を決して手斧をぶん投げる。

 十分な距離を保って放たれた斧は、狙い違わず修行僧さんに命中した。


「ぬおっ!?」


 手斧がぶち当たったダメージでノックバックが発生し、体が硬直。その瞬間に、私は修行僧さんの間合い、逃亡を始める範囲へと飛び込んだ。

 でもまだ、私の手が修行僧さんに届くより、硬直が解けて逃げられる方が早い。だから、もう一発。


「《マナシュート》!!」


「ぬぅ!?」


 硬直が解けるまさにその瞬間を狙い、追撃の一撃。

 本来なら威力が低くてオマケ程度のダメージしか通せないこのスキルも、今は纏めて"一撃"扱い。これで、もう一拍だけ足止めが出来る。


「今度こそ、貰ったぁぁぁぁ!!」


 クエストを終わらせるべく、空いた左手を修行僧さんの体へ伸ばす。

 後一歩、後数センチ、確実に間に合う……と、そう思ったけれど。

 私の手足が短いのもあって、ほんの少しだけ届かなかった。


 まさかの、ここで落下地点ズレ!? 自然落下じゃ細かい調整なんて利かないとは思ってたけど、ここに来てそんな理由で失敗する!?


「くっ……でも、まだ……!!」


 修行僧さんが硬直から解け、私の真横で逃げに入ろうと腰を屈めていく。これを許せば、私はまたクエスト失敗だ。でも、そうはさせない。


 初めて、ここまで接近出来たんだ。このクエストばかりに時間かけて、レベル上げが遅れるのは嫌だし、なんとしてもここで終わらせる!!


「てやぁぁぁぁ!!」


 雄叫びを上げ、体を回転。右手のアクアスノウを、逃げようとする修行僧さんに直接ぶち当てる。


「ぬおぁ!?」


 素手じゃなくてあくまでも武器だから、これでクエスト達成とはならない。でも、これまでの攻撃で連続して仰け反り、足場の端まで後退していた修行僧さんは、その打撃によって体が完全に宙に浮く。


 それを見るや、私は全力で杖を振り抜いた!


「うりゃぁぁぁぁ!!」


「ぬおぉぉぉぉ!?」


 吹っ飛んだ修行僧さんが、私の現在地より少し下の足場へと叩き付けられ、無防備を晒す。

 そこへ落下していった私は、今度こそその体へ手を叩き付けた。


「っ~~!! やったぁぁぁぁ!! クエストクリアーー!!」


 修行僧さんと違って真っ逆さまに崖の下へと落下していき、無事何度目かも分からない死に戻りを経験するハメになりながらも、私の歓喜の叫びが山岳エリアに響き渡った。




 《空歩》スキルを習得しました。

 《マナシュート》の使用回数が一定値に達したので、《初級魔法スキル》が解放されました。

 《マナブラスト》、《ファイアボール》、《アイスボルト》、《エアカッター》、《ロックバレット》を習得しました。

とりあえず困ったらぶん殴れば解決(ぉぃ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 修行僧さん、この時の事を誰かに聞かれたら「HPが設定されていたら即死だった」と語ってくれそう
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