第31話 蛮族プレイと対空リベンジ
ちょっと投稿遅くなってしまった(汗)
「ねえ二人とも、何度も言うけど、私は蛮族じゃなくて魔術師だからね? 投擲武器に手斧を選んだのは単に一番使い勝手が良かっただけだから」
二人が装備について話し込んでいる間に選んだ投擲武器……《手斧》。
威力重視、飛距離はそこそこ、見た目の割にズッシリと来る重さながら私のATKならさほど扱う上で問題もなく、お値段はナイフ二つ分。
中々いい感じだと気に入ったんだけど、エレインとココアちゃんの二人には「益々蛮族っぽい」と非難(?)されてしまった。
なんとか言い訳してみるも、返ってくるのは生暖かい視線。なぜだ。
「分かってる分かってる、ベルが頭良いように見せかけて実は脳筋なのは昔から分かってるから大丈夫」
「酷くない!?」
全て分かってると言いたげなエレインに抗議の声を上げるも、全く聞き入れて貰えず、助けを求めてココアちゃんの方を見ればサッと目を逸らされた。
ココアちゃんまで……地味にショックだ……。
「まあ、そんなことより、早速新しい武器の試し撃ちに行かない? 山岳エリアの先には今朝言ってた《空歩》スキル習得クエストもあるし、行くならそこがちょうどいいと思うんだけど」
「行く行く! ココアちゃんは?」
「私も山岳エリアはまだ攻略してないから、ついてく」
落ち込むのもほどほどに、エレインの発案で私達三人は山岳エリアへ向かって歩き出す。
途中に出てくるゴーレム達は、そのままスルーしても良かったけど……私が片っ端から殴り倒して回った。
いや、手斧の素材に使えるっぽいし、持ち込めば安く作ってくれるってココアちゃんが約束してくれたからね。だからエレイン、そんな戦闘狂か何かを見るような目で私を見ないで?
「よーし、リベンジの時間だ!」
そんなやり取りを挟みつつ到着した山岳エリアは、相変わらず空を優雅に飛び回るエアコンドルの巣窟だった。
「リベンジに燃えるのはいいけど、前みたいに一人で突っ走らないでね」
「あはは、ごめんごめん」
ココアちゃんからの苦言に、私は思わず苦笑い。
森林エリアを一緒に攻略した時、無茶しまくった私をかなりフォローしてくれたからなぁ……今日こそはしっかり立ち回って、迷惑かけないようにしないとね。
「まあ、気合が入ってるのはいいことだよ。それじゃあ、私がエアコンドルを引き付けて落とすから、ベルはトドメお願い。ココアはAGIバフね」
「分かった!」
「うん」
この中で一番経験豊富なエレインの指示を受けて、私とココアちゃんは頷きを返す。
それを確認すると、エレインはエアコンドルの真下に向かって走り出した。
「《エスケープオーラ》」
ココアちゃんの魔法によって、エレイン(とついでに私)に青いエフェクトが纏わり付き、AGIが引き上げられる。
ぐんっ、と見て分かるほどに加速したエレインは、そのまま地面を蹴って上空のエアコンドルへ向けて跳び上がった。
「《大跳躍》!」
盗賊のスキルなのか、足元が光ったかと思えば、何メートルも上空にいるエアコンドルの元まであっさりと到達するエレイン。
驚く、なんて感情があるかは分からないけど、目の前に突然現れたプレイヤーを認識して、エアコンドルの動きが一瞬止まった。
「《ツインスライサー》!」
エレインの両手にクナイが握られ、眩いエフェクトが二つの線を宙に描く。
左右両方の翼にダメージを負ったエアコンドルは、それであっさりと墜落を始めた。
「ベル、トドメよろしく!」
「うん、任せて!」
エレインが近くにいたもう一体に意識を向けるのと同時、私も走り出す。
ダメージ量の問題か、地面まで墜ちることなく途中で体勢を整えようとするエアコンドルだったけど……今の私にとっては、そこも十分射程内!
「とりゃあ!!」
ショートカットキーから素早く手斧を選んで取り出し、左手に掴む。そして、全力でエアコンドル目掛けて投げつけた。
哀れにもその一撃を顔面で受け止めたエアコンドルは、今度こそその勢いを失って地面へと落下。起き上がる前に駆け寄った私は、素早く杖を叩き込んでトドメを差した。
「キュオオ!」
そうして地上で戦っていると、未だ空にあるエレインの体目掛け、エアコンドルが突っ込んで来た。
やばい、あれじゃあ躱せない!
と、思いきや、エレインの顔には余裕の表情が浮かんでいた。
「えっへっへーん、甘い甘い、《空歩》!!」
空に浮かんだまま足を踏み込んだ瞬間、そこに光の足場が生まれる。
一瞬だけ出現したそれを蹴って、エレインは再び空中を舞った。
へえ~、あれが学校で言ってた《空歩》スキル……すごい便利、益々欲しい!
「《三連投げ》!!」
「キュオ!?」
真下を通過していくエアコンドルに対し、素早く放たれる三つのクナイ。
左右の翼と頭にそれぞれ突き刺さったその攻撃によって、エアコンドルは失速、墜落してくる。
おっ……これなら、私でも近接が届くかも! チャンス!
「ふふん、見ててよ二人とも、私の魔術師としての戦いを!!」
「いやな予感しかしない……!」
さらりとココアちゃんから酷いこと言われた気がするけど、鋼の精神で持ちこたえてスルー。杖を構え、思い切り跳び上がる。
「いっくよーー!!」
エレインみたいな大ジャンプは無理だけど、ゲームの中だからこそ出来る高度まで舞い上がった私は、そのままエアコンドルの脳天に杖を叩き付ける……と、同時に。
「《マナシュート》ぉ!!」
魔法スキルを発動。打撃と同時に光の弾丸を叩き込んだ。
いくらINTが低いとはいえ、弱点部位に直接ぶつければそれなりのダメージになるからね。結果として、ただ殴るより大きなダメージを受けたエアコンドルは勢いよく吹き飛び、地面へと墜落していった。
うん、時間制限のある《魔法撃》が使いにくい相手だから、他に威力を水増しする方法を、と考えてやってみたけど、思ったより使えそうだ。
でも、流石に一撃(?)で仕留めるまではいかなかったらしい。そのHPがまだ残っているのを確認した私は、杖を振り抜いた勢いのままくるりと回転し、手斧を装備。思い切り投げ付けた。
「もいっちょ、《マナシュート》!!」
必死に起き上がろうともがくエアコンドルに、私の投げつけた斧と、追加の魔法スキルが降り注ぐ。
怯み、飛ぼうにも飛べず悲しげに鳴くその頭上へ、今度は自然落下した私の体が落ちていく。
「これで、トドメーー!!」
落下の勢いを込めて、全力の一撃。
この辺り、通常攻撃はきちんと勢いをつけて殴れば威力が上がるらしいんだけど、正直よく分からない。
ただまあ、そっちの方が腕に跳ね返ってくる衝撃が大きくて気分がスカっとするから、それで良しとしよう。エアコンドルも無事倒せたし。
「……魔術師ってなんだっけ?」
「さあ……?」
こらそこ二人、わざと聞こえるような声量でひそひそしない! いや、聞こえてるんだからひそひそでもなんでもないけども!
「だって、魔法スキルをわざわざゼロ距離ぶっぱするプレイヤーなんて聞いたことないし」
「それはまあ、そうだろうけどね? でもほら、魔法使ってるから蛮族じゃないよ!」
「むしろ、容赦ない感じが増して蛮族よりひどいかも」
「うそぉ!?」
ココアちゃんからの、それこそ容赦のない指摘にがっくりと肩を落とす。
いやまあ、私が真っ当な魔術師から外れてるのは流石に分かってるけどね? でもお姉ちゃんとしては、ティアとお揃いっていう建前は押し通したいの、うん。
「というか、私って蛮族のプレイヤー見たことないんだけど、私と似たような戦い方なの?」
「あー、いや、ちょっと違うかな? ベルみたいに回避とかはしなくて……どっちかというと、HPで受けて倍返しするような感じ」
エレイン曰く、蛮族は戦士に比べて防御ステータスやAGIが低いものの、代わりにHPが凄く多いらしい。全職最高。
AGIが低いと言っても魔術師ほど劣悪じゃないのもあって、《戦士》職の代わりに前衛で壁役をこなすこともある、近距離アタッカーなんだとか。
「ATK上昇スキルとか、受けたダメージを威力に変換するカウンタースキルとか持ってて、ベルとは違うタイプの脳筋職だね」
「へ~」
私の場合、攻撃を受けたらそのまま死に戻りに繋がることも多いから、蛮族がHPで受け止めるタイプなら全然違うね。
……むしろ、受け止めるタイプの蛮族より足が遅い私が回避前提なの少しおかしいよね。いや、そういうキャラにしちゃったの私だけどさ。
ていうか、そんなに違いがあるのになんで私が蛮族扱いされるの?
「蛮族以上に蛮族してるから」
「酷い!?」
「二人とも、喋ってないで先行こう」
エレインとワイワイ騒いでいたら、いつの間にか近くの採取ポイントを回っていたココアちゃんに促され、先へ進むことに。
ともあれ、私の戦闘スタイルが多少おかしくても、エレインとココアちゃんがいてくれるお陰で、エアコンドルを全然脅威に感じない。
ソロで挑んで返り討ちに遭ったのはなんだったのか……いやまあ、相性の問題もあるし、私自身新しいスキルを習得したわけだから、そのお陰って部分もあると思うけどね。
決して、私がいらない子状態になってるわけじゃないと信じたい。
「さあ、そろそろ来るよ、ベル、ココアも、気を引き締めてね」
「えっ、来るって何が?」
そうして、エアコンドルを倒しながら進むことしばし。突然、エレインがそう言って足を止めた。
首を傾げる私に、エレインは「決まってるでしょ?」と笑みを浮かべる。
「山岳エリアのフィールドボスだよ」
エレインが再び数歩足を進め、エリアが切り替わる。
途端、辺りを猛烈な突風が吹き荒れた。
「うわっ、何!?」
「ベル、大丈夫?」
体が小さいこともあって、ややバランスを崩しかけた私を、ココアちゃんが抱き留めてくれた。
ありがとう、とお礼を言うと、なぜか赤らんだ顔でそっぽを向かれる。なぜに?
「ほら、いちゃついてないで、上だよ、二人とも」
「分かってる」
エレインの忠告に、ココアちゃんが表情を引き締めて空を睨む。
釣られて私も顔を上げれば、そこにいたのは巨大な鳥。
緑と青で彩られた羽は空に溶けるような美しい色合いで、何なら写真を撮って鑑賞していたいくらい。
けれど、その鋭い眼に宿るのは明確な敵対の意志。
エアコンドルが子供に見えるくらいの巨体を誇るモンスターが、嵐の中をゆっくりと降下し、獲物である私達を見つけるや否や、甲高い咆哮を上げるのだった。