第30話 武器選びと蛮族モドキ
「ココアちゃん、やっほー! 今日もよろしくね」
「うん」
雫とのドタバタを終えた私は、早速FFOにログインし、ココアちゃんと合流した。
いつものように長いウサ耳をぴょこぴょこさせながら歩み寄ってくるココアちゃんの姿にほっこりしていると、突然何かを思い出したように周囲を警戒し始めた。どうしたんだろう?
「ベル、もう一人来るっていうフレンドは?」
「ああうん、もう少しだと思うけど」
今日はココアちゃんに《投擲》スキルのための武器を作って貰う予定だけど、「生産職とのコネは多い方がいい」というエレインの意向もあって、三人でプレイすることになってる。
ココアちゃんも、その辺りは了承してくれたんだけど……緊張してるのか、いつも以上におっかなびっくりな感じが態度から溢れていた。
「大丈夫だよ、普通にいい子だから安心して?」
「べ、べつになにも不安なんてないし」
ぷいっ、とそっぽを向くココアちゃんが可笑しくて、優しくその頭を撫でてやると、すぐにリラックスしたようにピンと立っていた耳が緩んだ。
表情こそ、「子供扱いするな」と言わんばかりの不安顔だけど、なんとも分かりやすい。可愛い。
「おーい、ベルー」
「あ、来た来た!」
そうこうしているうちにエレインが現れ、私達のところへ歩いてくる。
リアルでは一応、ついさっきまで顔をあわせていたわけだけど、ゲームの中だしとお互い挨拶を交わし合う。
すると、そんなエレインを見てココアちゃんはなぜかほっと息を吐いた。
「なんだ、エレインか……よかった」
「あれ、知り合いだったの?」
「あ、いや……ティアから話は聞いてたから」
「ああ、なるほどね」
ティアとココアちゃんはすごく仲良しみたいだし、それなら雫が唯一リアルで親交のあるエレインを知っていてもおかしくはない。
「へえ、聞いてた通り、随分ティアと仲が良い……んー?」
「な、なに?」
一方のエレインは、ココアちゃんの反応を見るや、ずずいと顔を寄せて観察し始めた。
困惑しながらそそくさと距離を取るココアちゃんに、エレインは首を傾げる。
「いや、顔付きが知り合いの子に似てるなーって?」
「っ、そ、それはまぁ、アバターの顔付きなんてみんな似たり寄ったりになるよ」
どこか必死な様子で語るココアちゃんに、エレインは「ふーん」とだけ溢し、手を差し出した。
「まあいいや、もう知ってるみたいだけど、私はエレイン、よろしくね、ココア?」
「う、うん」
ぎゅっと手を握り、フレンド登録を交わす二人。
話が纏まったところで、私達三人は早速ココアちゃんのホームに向かった。
途中に出てくるモンスターを軽くあしらいつつ、到着したそこでエレインは感嘆の息を吐く。
「ほー、確かに小さいけど、結構中はしっかりしたところだね。無駄もないし」
「それはまぁ、ちゃんと調べて買ったから」
エレインの称賛をさらりと流しつつ、ココアちゃんはテーブルの上にドカドカとアイテムを並べていく。
ナイフ、槍、ブーメラン……色んなのがあるね。
「とりあえず、投擲武器が欲しいって言ってたから、作れそうなものを一通り作ってみた。私は使ったことないから、どれがいいとかオススメは出来ないけど……気になったのがあれば量産するよ」
「えっ、これ全部投擲武器?」
「うん。値段は要相談ね」
これまたさらりと言うココアちゃんだけど、ここに並んでる分だけで十種類以上ある。それも、細かく言えばまだ色々あるらしい。
う、うーん、どれがいいって言われても、結構困っちゃうな。どうしよう?
「まあ、どういう用途で使うのか次第だね。ナイフ系はお値段安いし取り回しやすいけど、威力が全然ない。逆に槍系は、威力こそハンパないけどまさに札束で殴るってくらいお金かかるし。ブーメランはこの手の武器にしては珍しく使いまわしが利くけど、威力がナイフ並な上に何回使うと壊れるかはランダムだから、ちょっと安定しない」
「うーーん」
エレインのざっくりした解説を聞いて、私は益々悩む。
威力は高いほうがいいけど、あまりお金が飛ぶようなのは現状だと厳しいんだよね……用途と言うなら、飛行型を地面に叩き落とせるならそれが一番だけど。
「何なら、外で試し投げしてきてもいいよ。二、三個ずつくらいならサービスする」
「ええ? でも、そこまでしたらココアちゃんの負担が……」
「お得意様が増えればその分くらいすぐ稼げるから。気にしないで。それか、また今度スクショ撮らせて」
「そう? それでいいなら、私としてはありがたいけど……」
ぐいぐい来るココアちゃんに押しきられ、ひとまず外でゴブリン相手に投擲武器をお試しすることに。
ココアちゃんは二、三個って言ったけど、そこまでするのは悪いし、各一回できっちり判断しなきゃ。
「それで、エレインも何かお求め?」
「おっとそうだった。私、今はクナイメインでやってるんだけど、これだけじゃ味気なくてさ。手裏剣とか作れない? 手裏剣」
「……出来なくはないと思うけど、オリジナルデザインの武器は高いよ?」
私が外で試す間、二人はエレインの投擲武器について交渉に入るらしい。
手裏剣って、本当に忍者になりきるつもりなんだなぁ。クナイとどう違うんだろう?
なんて疑問を抱きつつ、私はまず、投げナイフを近くのサンドゴブリン目掛けて投げ付ける。
一応、弱点部位の頭を狙ったんだけど少し外れ、石ころよりはそこそこ強いかな? ってくらいのダメージになった。
正直、これ単体で飛行型と戦うのはキツそう。状態異常薬がどうこう言ってたし、そういうのと合わせたらまた変わるのかな?
「いいのいいの、ここぞって時に使う切り札ってことで」
「まあ、大きくすれば威力も上がるし、それもありだけど……素材は? 鉄?」
「それでお願い。あと、サイズはデカイのと小さいので二種類ね」
「……まいど」
とりあえず、寄ってきたゴブリンを殴り倒して、次は威力が高いって言ってた投げ槍だ。
中々に大きくて嵩張るそれを、別のゴブリンに狙いを定めて、思いっきりぶん投げる。
腹をぶち抜いたその一撃は思った以上のダメージを出し、あっさりとゴブリンを倒すことが出来た。おお、すごい。
んー、でもなぁ、ゴブリンまで5メートル程度の距離で既に失速し始めてたし、こんな射程じゃいくら威力があっても飛行型とは戦えないよね……次。
「デザインはどうする?」
「手裏剣と言ったらやっぱり四枚刃かなって思うのよ。こんな感じで……」
「ふむふむ」
ブーメランは……うわっ、投げたら変なところで曲がり出した。慣れればいけそうだけど……威力も投げナイフと変わらないくらいかぁ。うーん、使い回せるのはいいけど、これじゃちょっと。
うーん、他には……おっ? これは……
「じゃあ、そんな感じで。……ベルー、何を作るか決まった?」
「うん、バッチリ!」
話し合いが終わったのか、小屋の中から出てきたココアちゃんが、私の方を見て顔を引きつらせる。
その視線の先には、頭から手持ちの斧を生やし、真っ赤なエフェクトを撒き散らして消えるゴブリンの姿が。
「手斧って最初はどうかと思ったけど、飛距離と威力のバランスが良くていい感じなんだよね。手にズシッて来る手応えも杖と似てて気に入っちゃった!」
とりあえず、選定の理由を伝えてみるも、ココアちゃんは動かず。
その後ろからひょっこり顔を覗かせたエレインが、一言。
「やっぱりベル、どう見ても蛮族だよね」
「……うん」




