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第18話 ボス戦の開始と必殺の猛攻

総合評価2000pt越えました! みなさんありがとうございます!(((o(*゜∀゜*)o)))

 鬱蒼とした木々を背景に、妙に開けた道が続く森林エリア。

 この辺りはなんともゲームらしい仕様だけど、そのお陰で見晴らしも悪くないし、何より動きやすいんだから文句なんてない。


「さてと、設定はこれで……いいのかな? よし」


 そんな森の奥、エルダートレントが出没する広場の前で、私は配信準備を整えた。

 といっても、そう難しいことなんてない。ゲームアカウントとリンクした専用の動画配信サービスがあるから、そこで公開範囲やカメラアングルなんかの環境設定を済ませれば、後はボタン一つで動画を撮れる。


 後は、雫に伝えておいた時間が来るのを待つばかり。


「すぅー……ふぅー……」


 大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。

 大分駆け足だったけど、出来る限りの準備はしてきた。ココアちゃんの支援のお陰で、最初に考えていたより状態はいい。きっと大丈夫。


「よし、行くよ!!」


 覚悟を決め、宙に浮かぶ撮影開始ボタンをタップ。

 本当ならここで、戦闘開始前の語りとか入れるのかもしれないけど……無名の私に視聴者がいるはずがないから、今回のところは気にしなくてもいいや。


 この戦闘は、世界でただ一人。

 撮影開始と同時に現れた、たった一人の視聴者に向けたものなんだから。


「来い!!」


 右手にアクアスノウ、左手にフレアナイトを構えて、一歩踏み出す。

 世界がズレ、エリアが切り替わった感覚が襲うと同時に、地鳴りと共にエルダートレントが姿を現した。

 それを見るや、私はすぐにココアちゃんから貰った、ステータス増強の丸薬……ATK、INT、AGIをそれぞれ引き上げる《鬼人の丸薬》、《賢人の丸薬》、《俊人の丸薬》をそれぞれ飲み込み、アクアスノウを腰だめに構える。


「《マナブレイカー》!!」


 その宣言と共にMPが減少を始め、アクアスノウの蒼い宝石が輝き始める。

 こうなると、私は一切の攻撃も防御も許されない状態になり、せっかく貰ったフレアナイトが単なる重しに成り下がるけど……その能力であるMP増加は健在だ。

 まずは開幕一番、こっちの最大威力をぶつけて一気に削る!


「オオオオォォォォ――」


 私が動くのから一歩遅れて、エルダートレントが不気味な雄叫びと共に体を震わす。

 それに紛れるようにして、足元の根が三本動いた。


「正面、右後ろ、左……!!」


 根が飛び出してくる大まかな位置とタイミングを口に出して確認しつつ、ステップを踏んで地面からの攻撃を避ける。

 でもそれだけで終わるはずがなく、エルダートレントの根が忙しなく動く。


「左正面、後ろ、左薙ぎ払い、正面振り下ろし、もう一回右後ろ……!」


 飛び出した根がそのままぐりんと動いて攻撃してきたり、あるいは引っ込んだり。

 あっちこっち、四方八方から襲ってくる攻撃を、私はただエルダートレントの足元の動きだけを注視しながら、これまで目にしてきた攻撃パターンの記憶を頼りに避けていく。


 こうすると、少しでも記憶にズレがあったら直撃を受けて死ぬんだけど、見ながら避けたらそれはそれで、結局は次の攻撃が予測出来なくなって次第に追い詰められちゃう。そんな状態でもしもリンゴの投擲モーションを見落としたら、その時点でアウトだ。


 必殺の《マナブレイカー》を確実に叩き込むためにも、多少のリスクを飲み込んで完全回避に賭けるしかない。


「荒野のボスゴーレムより弱いって話だったけど、全然そんな感じしないよね、全く……!」


 エルダートレントの懐に飛び込む機を窺いながら、私はぶつくさと文句を漏らす。


 確かに、一撃一撃の威力は低いし、防御力だって全然低いけど、とにかく手数が多い。

 雫もそうだったけど、このゲームのプレイヤーってみんなこのくらいの攻撃は避けられて当たり前だったりする? だとすると、追い付くのすっごく大変なんだけど。


「まあ、それでも負けないけどね……!!」


 目標は、高ければ高いほど面白い。しかも、それを越えた先にある報酬は雫と過ごす時間なんだから、最高に昂るシチュエーションだ。


 ここでやらなきゃ、お姉ちゃんとしての名が廃る!!


「そろそろ行くよ……反撃開始だぁ!!」


 背中をゾクゾクと駆け上がる快感に震えながら、私はそれまでの距離を置いた回避重視の動きから一転、エルダートレントに向けて一直線に走り出す。

 距離が近付いたことで、襲ってくる根の密度が増し、避けきるのがドンドン難しくなっていくけど、その全てを掠らせもせず回避していく。


「右、左前、後ろは無視、正面やや右、リンゴは伏せて、真下はジャンプ、薙ぎ払いは……」


 口ずさみ、動いて、躱して、体をどんどん馴染ませる。

 感覚を研ぎ澄ませ、動きを最適化し、最高効率でとにかく走る。

 目まぐるしく切り替わる視界の中で、私の動きが速くなっていくような感覚と共に、敵の動きがやけにゆっくりに見えてきた。


 ああ、なんだろう、今日は体の調子が凄く良い。いつもならヒヤッとするような場面でも、私の思い通りに体が動いて、私の予想通りの位置を敵の攻撃が通り過ぎていく。


 これも、雫が見てくれてるからかな? コメントも何もないけど、視界の端に刻まれた"1"の数字が雫を表しているのは間違いない。

 そうだ、今の私は、雫の前でこれまでの成果を披露してるんだ。それを自覚するだけで、身体中の神経が喜びに沸き立ち、これまで以上の全能感が溢れ出す。


 いける……今なら、誰にも負けない!!


「よしっ、抜けた!! 《魔法撃》!!」


 根の猛攻、リンゴの雨を掻い潜り、ついにエルダートレントの本体を目の前に捉えた。

 MP消費の無駄はほぼなし、ピッタリ全部使い果たした絶好のタイミング。

 貰った!!


「行くよ、これが私の全力だぁ!! 《マナブレイカー》ぁぁぁぁ!!」


 二度目となる私の宣言に合わせ、合計400に及ぶMPを喰って通常の五倍の威力を得たアクアスノウが目映い光を放つ。

 繰り出されたのは、思っていたのとは少し異なる挙動。走り寄る勢いのまま横に振り抜いたかと思えば、その勢いを殺すことなく全身のバネを使って杖をぐるりと回し、脳天からの振り下ろし。

 更にそこで止まらず、宙へと跳び上がりながら体ごと回転、最大の一撃を叩き込む!!


「りゃあぁぁぁぁ!!」


「オオォォォォ……!」


 五倍ダメージ×三連撃の、十五倍ダメージ。

 どうやら、《マナブレイカー》の攻撃モーションは、込めたMP量によって変化があったらしい。ここに来ての想定外で一瞬焦ったけど、私でも初めて見るような大ダメージを受けたエルダートレントは無傷で済まなかった。

 反撃すら出来ないまま、両腕の枝を力なく倒してしまう。


 ボスの撃破に成功した……わけではもちろんない。

 短時間で大量のダメージを受けたことによる、《気絶》状態だ。


「まだまだぁぁぁぁ!!」


 《魔法撃》の効果はまだ残ってる。これまでお休みだったフレアナイトも合わせて、ダウンしているエルダートレントへと杖二本による絶え間ない連撃を浴びせかけていく。

 ずっしりと重量感のあるそれに振り回されないよう、身体中の関節を連動させ、一撃一撃を流れるように次の一撃へ繋げていく。

 飛び散るダメージエフェクト、響く打撃音、削れ行くHPゲージ。

 色んな情報が頭の中を駆け巡る中、それら全てを不要と切り捨て無我夢中で杖を振るう。

 永久にも感じられたその時間は、実際にはものの数秒で終わりを告げる。


「――オオオオォォォォ!」


「っ!?」


 HPゲージが残り三割ほどになった頃、ついに気絶状態から復帰したエルダートレントが咆哮を上げる。


 そしてそのまま、攻撃に夢中で動けない私目掛けて、巨大な枝の一撃が襲い掛かって来た。

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