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百合姉妹の大喧嘩?

ちょっと新作のアイデアが纏まらないので気分転換に番外編書きました。


本編完結から一年後くらいです。

「ティア……今日という今日だけは叩きのめしてあげる」


「お姉ちゃんこそ……ボッコボコにして分からせてあげるから覚悟して」


 湖畔エリアにある私達のホームの前。本来なら、フィールドボスであるログボグボロ……じゃない、グボログボロと戦闘が行われるその場所で、私とティアはお互いに武器を手に向かい合っていた。


 受理された決闘申請、戦闘開始までのカウントダウン。

 それを見て、今来たばかりのボコミが事情を知ってそうなエレインへと話しかけていた。


「どど、どういうことですの!? お姉様達が決闘!? それも、こんなに一触即発の雰囲気で……!! 一体何が……!!」


「あー、大した理由じゃないから、生暖かい目で見守っておけばいいと思うよ」


「生……??」


 エレインの投げやりな言葉に、ボコミは訳が分からないと首を傾げる。


「失敬な!! 全然くだらない理由なんかじゃないよ!! 私はただ……」


 ぐっと杖を握り締め、それをティアへと突きつける。


 そう、今日だけは譲るわけにはいかない。なぜなら。


「テスト期間中は家事を私に任せて、ティアには勉強に集中して貰いたいだけなの!!」


「……はえ?」


 ポカーン、と口を開け、なんだその理由とばかりに呆然とするボコミ。


 むう、まだ分からないのか!!


「ティアは今中三なんだから、テスト前は大事な時期なんだよ。だから私がそれを支えるの!! お世話したいの!! そしてあわよくば早めに寝かしつけてティアの寝顔をじっくりと堪能したいの!!!!」


「ベルー、欲望がダダ漏れだよー」


 おっといけない。つい本音が。


「何言ってるのお姉ちゃん。お姉ちゃんだって今高二でしょ。大学受験するにも就職するにも、参照されるのは実質高二までの成績。つまりお姉ちゃんにとって今が一番大事な時期。よって家事は私が担当するべき」


 対するティアも、全く引くつもりがない。普段ならオレっ娘口調のティアの姿で素が出てるってことは、それだけ本気ってことだ。


「私はそこまで勉強しなくても合格出来るから平気だよ!!」


「お姉様、さらっととんでもないこと言ってますわね」


「割と本当のことだから尚質が悪いよね」


 はあぁ、と深々と溜息を溢すエレイン。

 うん、エレインは勉強頑張ってね。


「というかお二人とも、そんな理由で決闘なさるんですの? 別にいつも通りお二人で分担してやればいいじゃないですの。それに、決闘している時間を勉強に当てた方がよほど……」


「「ボコミは黙ってて」」


「んはぁぁぁぁ!! 今日ばかりは正論を言ったはずなのにこの雑な扱いぃ……!! たまりませんわ。はあはあ」


「最後の一言が無ければ普通に同情したのになぁ」


 体をくねらせるボコミと、呆れ顔のエレインの二人に見守られながら、カウントがゼロになって決闘の幕が上がる。


 その瞬間、ティアがいきなり仕掛けて来た。


「《フレアレイン》」


 広範囲に渡って降り注ぐ炎の雨。

 速度と耐久に劣る私にとって、この手の魔法攻撃は天敵に等しい。何ならこの一撃で決めてやろうっていうティアの容赦の無さが如実に出てる。


 だからこそ、私もこの展開は予想していた。


「《エアドライブ》、《マナブラスト》!!」


 風の属性強化で体を軽くし、魔法の自爆で吹っ飛ばす私の得意技。

 やたらと広いティアの攻撃範囲を逃れた私は、修正によって立方体からドーム状に変更された決闘エリアの壁を跳ね回る。


 壁を使った連続ジャンプでずっと空中にいる戦法を封じるための修正だったらしいけど、私にとっては関係ない。地面も使って、三次元機動でティアを翻弄し、懐に飛び込む。


「てやぁぁぁぁ!!」


「くぅ……!!」


 思い切り振り抜いた杖の一撃を、ティアが辛うじて回避する。

 そのまま二擊目を放とうとしたけど、それより早く超至近距離で炎の魔法が炸裂した。


「《ファイアボール》!」


「っと……!!」


「《ファイアボール》、《フレアランス》、《ファイアボール》!!」


 慌てて飛び退く私を追撃するように、絶え間なく放たれる炎の弾幕。

 壁蹴りだけじゃ足りないと、私も《アイスドライブ》による氷の足場と《空歩》の空中ジャンプを併用し、どうにかそれを回避し続ける。


「大体、お姉ちゃんはいつも頑張りすぎ! バイトに勉強に家事にゲームに、また倒れても知らないよ!?」


「最近は前よりずっと休む時間が取れてるから大丈夫だよ! これもティアが家事を手伝ってくれてるお陰、ありがとう愛してる!!」


「あいっ……!? へ、へんなこというなぁ!!」


「わわっ!?」


 激しさを増す弾幕。

 それを回避し潜り抜け、時折ねじ込む私の打撃。

 お互いに耐久なんて無きに等しく、一撃貰えば即お陀仏。

 でも、終わらない、決着がつかない。

 お互いに、相手のことを知りすぎてるから。次にどんな行動を取ろうとしているのか、手に取るように分かってしまうから。


「変じゃないよ、私がティアを愛してるのは宇宙の法則よりも絶対で不可侵なんだから!! 学校にいる時だって待ち受けに設定した雫の写真を延々眺めてないと落ち着かないくらいだよ!!」


「ちょっ、変な写真設定してないよね!? 天衣にねだってる私の学校での写真とか!」


「えっ、知ってたの!?」


 確かに私、雫の学校での様子が知りたいからって、天衣ちゃんに雫の写真を撮って送って欲しいとは言ってるけど……まさか知られてたなんて……!!


「当然でしょ、お姉ちゃんに送る前に、全部私がチェックしてるんだから」


「……ん? ってことは、少し前に送られてきた、体育前の雫の生着替え写真、あれも知ってた上で送──」


「うっがあああああ!!!!」


「わわわわっ!?」


 更に苛烈に、何も考えずめちゃくちゃに撒き散らされる炎の魔法に、私は徐々に追い詰められていく。

 むむっ、深く考えないことで私の読みを外す作戦とは、やるねティア……!!


「消して!! 恥ずかしいからもう消してあの写真!!」


「ええっ、嫌だよ!! それに、ティアだってエレインに私の色んな写真送らせてるんだからお互い様でしょ!?」


「エレイン!?」


 ばらしたの!? とばかりにぐるりと向けられたティアの視線に、エレインは「めんごめんご」と軽く謝る。

 最近写真の頻度がやけに多かったから、どうするつもりなのか詰めよったらあっさり吐いてくれたよ。お陰で私も躊躇なく天衣ちゃんに写真を頼み込めたし、やっぱり持つべきものは親友だよね。


「大丈夫、私は気にしないから! ティアの全てが私の物であるように、私の全てもティアの物! ティアが私のどんな写真を何に使おうと、私は気にしないよ!!」


「ナニ……!? つ、使ってないからぁ!!」


 なぜか顔を真っ赤にして、茹で蛸みたいに湯気を立ち上らせるティア。

 今の言葉のどこにそうなる要因があったんだろうと首を傾げていると、ティアは自分の失言にハッとなったかのようにぷるぷると震えだした。

 よく分からないけど可愛い。


「お、お、お……お姉ちゃんのばかぁ!! 絶対勝って、写真を全部消してやるからぁ!!」


「なんで!?」


 なぜか罵声を浴びせられ、当初の目的すら消し飛ばしながら、私達の決闘は続く。

 とはいえ、冷静さを欠いた状態では、いくら動きを読みにくくても慣れれば結構隙はあるわけで……最終的に、私の勝利で決闘は終わった。


「ふふ、私の勝ちだね、ティア」


「うぅ、負けた……」


 どやっ、と胸を張ると、ティアは悔しげに膝を突く。

 そんなティアの元に歩み寄った私は、その体を抱き起こして──ちゅっ、とキスを交わす。


「っ!?!?!? い、いきなりなにを!?!?」


「いや、したくなったから」


 面白いくらい狼狽するティアにくすりと笑いながら、もう一度唇を塞ぐ。

 んーっ!! と形ばかりの抵抗をするティアを抱き締めながら、私はくすりと笑う。


「ごめんね? 写真、嫌なら消すよ、ティアを悲しませたくはないから」


「いや、その……別に嫌なわけじゃなくて……お、お姉ちゃん以外には見られたくないだけというか……」


「ふふ、大丈夫、私もティアの可愛い姿を他の誰かに見せる気なんてないよ。あ、でも天衣ちゃんは知ってるのか」


「まあ、天衣は例外というかなんというか……そ、それより、家事のこと! 私、一つ思い付いたんだけど」


「うん? 何?」


「今は配信の収入でお金に余裕もあるし、エレインの喫茶店で食べるのはどう? エレインの勉強も見れるし、家事も減るし、一石二鳥じゃないかなって……」


「おおっ、なるほど! いいねそれ!」


 いつもバイトさせて貰ってるけど、お客として食べに行く頻度はあまり多くないし。たまにはちょっとした恩返しも兼ねて通いつめるのもいいかもしれない。


「さすがティア! 私の愛しい妹よ! 冴えてるね!」


「や、やめてよ、二人も見てるからぁ……!」


「ふふふ、よいではないかよいではないか~」


 そうやって二人でいちゃいちゃしながら、全てが丸く収まった私達。

 そんな私達を眺めながら、ボコミがボソリと。


「結局、この決闘ってなんだったんですの?」


「いつも通りの、ベルとティアのラブラブタイムでしょ」


 エレインの言葉に、ボコミは「確かに」と頷いたらしいんだけど……

 二人の言う通り、ティアを愛でるのに夢中だった私がそのことを知るのは、もうしばらく後になってからのことだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完走しました! もうお前ら椅子になったボコミの上でいちゃラブちゅっちゅしてろ。
[一言] ほっこり。
[良い点] ×喧嘩 〇惚気合い
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