崩壊の幕開け
その日は照り付ける太陽を恨めしく思うほど暑い日だった。
ウィンが任された仕事は仕入れた品を店まで運んでい行くという内容だった。
力仕事に自信があったため自分から買って出たのだが、まさかこんなにも暑いとはウィンも予想していなかった。
加えて商品が暑さで傷まないように素早く運ぶ必要があり、それが余計に仕事のキツさを感じさせる。
「さっさと終わらして、酒でも飲みたい気分だ。」
ダグラスの言葉にウィンはうなづきながら、気力を振り絞って最後の1つを持ち上げた。
仕事を終えたのは意外にも昼前だった。次の仕事まで時間ができたため、ウィンはミーナと城下をまわってみることにした。
奥さんから食材の買い出しを頼まれたので、ついでに買い食いでもして帰ろうと思いながら今は中央通りを歩いている。
「相変わらず賑やかね、先代の王が亡くなっても街のみんなは明るく振舞ってるわ。」
ミーナは昨日とうってかわって物静かなしゃべり方をする。
たしかに、この国が始まって以来最も優れた王が死んだのに、城下からはそんな雰囲気は伝わってこない。
「みんなわかってんだよ、不安になるべきじゃないって。負けないように互いに明るい様子を見せて励ましあっているのさ。」
ミーナは笑った、
「やっぱり私はこの街が好きだな。昨日は外に行ってみたいなんて言ったけれど、生まれ育った場所だもの、こうやってみんなと笑って生きてきたから互いの不安とかも理解できるし、どんな時でも明るくふるまえるの。」
ウィンは頷く
「そうだな、笑顔や活気は大事だ。特に商売はな。」
ウィンは最近自分が似たようなことを言われたのを思い出していた。
「そうさ、盛り上がりは大事だ!王の死ごときで落ち込まれてちゃあ困るんだよ!」
突然、会話に割り込んできたのは白髪まじりの奇抜な髪形に趣味の悪い腕輪をした男だった。
男はウィンに近づいて不気味に笑う
「アハハ、そうですか。あなたも活気が大事だと思いますか。」
あまりこういう奴とは関わりを持ちたくないと思うウィンはうまく話を流して男から離れようとした。
だが、男はウィンの腕を掴んでそのまま話を続ける。
「まぁ待てよ、気持ちはわかるぜ、知らないやつに話しかけられると早く逃げ出して忘れたくなるもんだからなあ、でもお前は一生俺の顔を忘れることはできなくなるぜ、お前だけじゃねえこの街の全員がだけどなあ!!」
そう言って男は腕輪を付けている右の腕を真上に上げる。
腕輪が黒く光り、普通の人にはわからない何かが集約している。それは禍々しいオーラを纏いながら徐々に濃くなっていく。
ウィンにはそれが何か直感的に分かっていた。一度見たことがあったからだ。
これからあの男は魔法と呼ばれるもの放つのだと。とっさに周囲に危険を知らせるために叫んだ。
「ここから早く離れろ!あれは魔法だ!!」
ミーナは状況がわからず立ち尽くしていたがウィンの一言で走り出した。
周りの人達もその場から逃げようとしたため辺りはパニックに陥った。その様子を見て、男はとても喜んでいる。
「ウヒャヒャ!これこれ、これだよ!盛り上がってきたねえ、活気溢れるねえ!安心しな、誰1人逃げられやしねえからよ!!ほら、くらいなアガッ・・!?」
ウィンの拳が男の顎を正確に打ち抜いた。
少しでも時間を稼ぐため、できれば魔法の発動を止めるため、ウィンは立ち向かう決意をした。
「クズ野郎、何がしたいんだよお前は、ここは王都だぞ!?何人犠牲者が出ると思ってんだ!」
さきの一撃で魔法が解除されなかった時点でウィンの負けは確定していた。今はもう苦しまぎれの足止めである。
「イテェな、チッ、まさか立ち向かってくるとはな、そういうの悪くないぜ。無駄なあがきってやつだ。逃れられない痛みにもがく様は見ていて気持ちいい。
・・・さあ、次は何をしてくる!?またパンチか?蹴りか?まさか魔法でも使えるのか?来いよ!もうこっちは準備が整ってるんだよ!!」
腕輪はすでに光を発している。男は狂ったように笑いながらその腕を振り下ろした。
*
ウィンには今何が起きているのかわかっていた。男に最も近い場所にいたからだ。
男が放ったのはただの衝撃波、ただし大規模で強力な衝撃波、それは街を飲み込んでゆく、人も家も道も飲み込まれたものはバラバラになって吹っ飛んでゆく、それは男に近ければ近い程強力で、ウィンの身体をズタズタに引き裂いた。
ウィンには今何が起きているのかもうわからなかった。ただ最後にミーナが、あの家族が無事であることだけを祈った。
ウィンであった肉塊には今すらわからなかった。
荒れ狂う衝撃波の中で男だけが笑っていた
「あっさり死んでくれるな、抵抗してみせろ、オレ達はすべてを飲み込んでやるからよ!!
さあ、幕は切って落とされた!楽しもうぜ、新時代の始まりだ!!」
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