計画と真意
聞いた話は、盗賊たちが南方の岩石地帯に拠点を構えているという情報だった。
先の事件で攫われた都民もそこにいるという情報だった。
助けたいという思いに手を貸してくれるという善意だった。
先代の王の意志を持つ承継者であることだった。
そのはずだった。
「・・・っ、どういうことだ。ここにいるって話じゃなかったのか!?」
誰もいないアジトの中で誰もいない通路を走り抜け、誰もいない檻の前まで来てウィンはスワイオールに問い詰める。
スワイオールは分かっていたかのように落ち着いた様子で見張り用のいすに座り、今までとは違う雰囲気でゆっくりと口を開いた。
「あれは嘘だ。すべてはお前をここに誘導するために俺がついた偽の情報だ。攫ったやつらは他の場所にいる。しかし、数人は部下を配置していたつもりだったんだが」
口調すらも老人臭いものではなく、どこか若さを感じる。
「攫った、だと?まさか、お前が全部仕組んだことなのか!?人を救えるとか、俺に手を貸すとか、理想の平和とかも」
「勘違いするなよ。俺がやったのは・・・!どうやら団体さんが来たようだな。」
ウィンにも多人数の足音が聞こえた。だんだんと近づいてくるにつれて鎧のこすれる音も聞こえるようになる。盗賊が返ってきたのだろうかと身構えたがどうやら違ったらしい。
「動かないでもらおうか。我々はヴァルミア王国の武装騎士団、私は団長のフロドルである。
・・・内部にはお前たち二人しか確認していないのだが、ここは盗賊のアジトということではなかったのか?」
「騎士団か、残念だがそれは嘘だ。ここにいるジジイが裏切ったんだ。人さらいもこいつの仕業さ」
質問に答えたウィンにフロドルは一瞥を投げ、スワイオールに近づく。
しかし、フロドルは近づいただけでスワイオールを捕えようとするはおろか敵意すらも向けてはいなかった。
「・・・何してるんだ?はやくそいつを捕まえないと本の世界に逃げられる。アンタは知らないかもしれないがそいつは別世界への逃走手段をもってるんだ。」
「・・・なるほどな、コイツがアレを持っているのか」
フロドルは呟いてウィンの方に向き直る。その顔には笑みが浮かんでいた。
「名も知らぬ青年よ、助言をありがとう。だが心配しなくても、俺はこの老人のことはよく知っている。誰よりね」
「そうかい、じゃあはやく・・・」
「老人の狙いは王都の壊滅、都民を攫ったのは実験体が必要だったから。魔法具の名は『理想論』、例の20基のひとつだ。『世界を繋ぐ史書』なんて名前じゃない。」
スワイオールを放ったまま、フロドルはウィンに話し続ける。気付けば周りを兵に囲まれていた。まるでウィンを逃がさないように、
ウィンの脳内で最悪のシナリオが浮かび上がる。
「キラーウェに王都を襲撃させたのはスワイオールだ。そのための力を与えたのは俺だ。王宮から魔法具が消えたのは俺が盗んだからだ」
予想は的中した。今、ウィンの目の前にいるこの男こそが黒幕だ。
「お前たちはグルだったのか、ッッなぜあんなことをした!?事件で何人が犠牲になったか知っているだろ!」
「知っているが、どうでもいい話だ。君が出てくればそれでよかった」
「・・・どういうことだ?俺が何だ、何が目的だ!?」
「今回の王都襲撃で必ず出現すると思っていた。レイス・ヴァーミリアンの意志がな。心当たりがあるだろう?なぜただの農民風情が王都を救うほどの力を持っていたのか、キラーウェの『命令』は少々な強さでは止められない」
「・・・」
ウィンは黙り込む、確かにあの時は異常な自信と力に包まれていた。
「お前の体にはレイスの魔力が流れている。超回復が発動した時ほどその濃度は高くなり、よりレイスに近い力を持つのだ。」
「それで、その力がお前たちにとって邪魔だっていうわけか、」
「理解が早くて助かるな。レイスの魔力は魔法具を所持する者の魔術回路をショートさせる。つまりお前の存在は魔法具使いにとって、天敵そのものというわけだ。あやつも恐ろしい土産を残していったものよ」
フロドルの後ろでケタケタと老人が笑っている。
「俺たちの目的は新時代を築くこと、平和ボケした国など廃れていくだけだ。そのためには万能王の遺産が邪魔でしかないんだよ。血族も魔法具も国もそこに住む人ですらも、この国の全てに奴の息がかかっている。だから、全部を消すことにしたんだ。ヴァーミリアンの名は絶え、次は俺の力が国を救うのさ」
「ハッ、そんなイカれた考えには誰も賛同しねぇよ!」
ウィンの挑発にフロドルは顔をしかめ、怒りが態度にでる。
「君の言うとおりだ。俺の考えは実行できるほど賛同者を集めることができなかった。何十年もかけて集めた同胞は数える程度しかいない、だがある時に俺は閃いた。」
「他人が賛同しないなら、俺を増やせばいい」
スワイオールがフロドルの言葉を代弁する。いや代弁ではない、今のスワイオールはフロドルと同じ声をしていた。
「・・・そんな馬鹿な!?」
「真実だ。スワイオールはフロドル、フロドルはスワイオール、どちらも俺だ。ここにいる二人だけじゃない、国には俺が何人も紛れている。貴族、文官、別の騎士団にも俺はいる。つくづく魔法具ってのは便利なもんだよ」
もうどちらが喋っているのか分からない、頭がおかしくなりそうだ。
「話を君に戻そうか、理由は知らんがレイスの力の一部を君が持っているんだよ。言ったろ、俺たちはレイス王の遺産をすべて消すと、君も葬らなければならないんだ。放っておけばまた俺たちの邪魔をするだろうからな」
フロドルの合図で兵たちがウィンを拘束する。抵抗しようにも訓練された兵隊に敵うはずもなくあっさりと縛られてしまう。
「聞けば、君は残り数年で死ぬそうじゃないか、同情するよ。残り少ない時間を中途半端な力のせいで台無しにされるなんてな」
フロドルはウィンに同情の目を向ける。その一方でレイスに対する憎悪に近い敵意をウィンは感じた。
「同情なんていらねぇよ、レイス王には感謝しかない。なぜ平和を嫌うんだ?」
「・・・競争なき世界に進歩はない、」
「何の進歩だよ。今必要なのは平和を保つ力だ。国を変える力はお呼びじゃない。数百年後にまだ生きていたなら、その時にはあるかもな」
突然、フロドルがウィンに掴みかかる
「それでは遅いと言っているのだろうが!今なのだ、今こそ国を、ヴァーミリアン家に依存し続けたこの国を変えるべきだ。今の王なら我々でも討ち取ることができる。だが、いつまたレイスのような王族が生まれてもおかしくない、ヒトそのものが変わるべきなのだ!」
ウィンは状況に反して笑う
「可哀想なのはお前らだ。何が新時代、要は負けず嫌いなだけじゃないか、レイス王の威光が許せないんだろ。羨ましいんだろ。大義で飾っちゃいるが、ガキみたいな考えが見える。」
挑発でさらに息を荒げるフロドルをスワイオールが止める
「・・・ウィンよ、ワシらは明日に人類の進化を望んでおる。ヒトを他国、他種族と争わせ、さらに上位の存在に至らしめる。それが目的じゃ。お主が明日に平和を求めるのであればわれらの前に立ちはだかり証明してみよ、今が正しいと」
明らかに挑戦と見受ける言葉、ウィンは決断を告げた
「上等だ。この国を、王の意志を潰させはしない!」
「じゃあ、まずはこちらの一手からだ。」
同時に数本の武器が身動きの取れないウィンを貫く。
血だまりの上で文字通りの串刺しとなったウィンは決意に満ちた顔のまま、意識なく倒れ込んだ。
「いかに不死身でも、生き埋めにされたなら這い出ることもできんだろう。残り数年を早くも土の中で過ごすことになったな」
「後は、厄介な護衛騎士団を潰して、王の首をとってお終いだ。国境のやつらが帰ってくる頃には王都は手中だろうよ」
戦いの火蓋は切って落とされた。高笑いするフロドルと、スワイオールはウィンを残し、崩れゆく洞穴から姿を消した。
*
ヴァルミアという巨大な国がある。
その中の数ある岩場と洞窟のひとつに、人が生き埋めにされていることなど誰も知ることはないだろう。
たとえ知っていたとしても見つけ出すことなど万に1つもあり得ない話。
なぜなら、埋まっているのは人知れず国の脅威と戦ったとはいえ、一介の農民なのだから。
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